鬼ごっこ1
屋上から下を眺めながらゆっくりと次の手を考える。
さっきは回避できない突然の戦闘であり、運良く序列上位を倒せたけれど、本来は俺は敵を選んで倒す立場である。
外で繰り広げられている戦いを眺めながら、次の相手を決めなくてはいけない。
理想は序列が葵ちゃんが苦戦しそうなぐらいのレベルで、『具現』の能力を俺が知っており、なおかつ『天剣』の不意打ちで倒せるというものだ。
けれども、ざっと外を見渡したが、そんなに都合よくもいかなさそうである。序列上位者は見つかりはするものの、俺の『天剣』と相性の悪いオートガード持ちの『具現』を持っている奴がほとんどだ。つまりは、姿や気配を隠そうともせずに堂々と歩いているのはオートガード持ちくらいということだ。
そんな連中に追い掛け回されて姿を表している奴もいるけれども、そいつらはそれほど序列は高くない。
「いい考えだと思ったけれど、下策だったかな?」
うまくいかないことに多少イラツキつつ、独り言を漏らす。
やっぱり葵ちゃんと合流でもしようかなと思い、携帯を取り出そうとしたとき、いきなり地面が揺れ重たい大きな音が響いた。
地震か?
危うく屋上から落ちそうになりながら、慌てて体制を立て直す。
程なく揺れは収まり、慌てて周囲を警戒する。
そして一人、おおよそ日本人離れした大柄な男を屋上から真下に見下ろした所に発見する。
そいつは右手で校舎を殴っており、その近くに恐らく剣道部の部員と思われる道着を着た生徒がちらほらいた。
どうやら、その大男の攻撃がそれて校舎に当たり、校舎が揺れたらしい。
男はそのままホコリを払うかのように剣道部員を殴り飛ばす。
まともに攻撃が当たったその生徒は野球のホームランボールのように吹き飛び、近くに生えている木に引っかかった。
「確か、アレは序列二位の鬼束纏だったかな。そんでもって戦ってるのが剣道部か」
一応剣道部とは個人戦までは協力関係ではある。
一応助けてあげたい気持ちもあるのだが、ちょっと相手が悪すぎる。
アイツの『具現』は俺との相性が非常に悪い。
というより、こちら側にも攻撃力に特化した『具現』を使える奴がいないと勝負にもならない。
「さーて、かわいそうだけど見捨てるほかないよね」
それに剣道部員がやられるということは、天敵の神楽のパートナーがやられる可能性もある。まあ、あの中に神楽はいないからその可能性は非常に低いけれども。
そうやって見たくないものから目をそむけるように屋上から、離れようとしたとき、一瞬剣道部の中に見知った顔の奴と目があった。
九条九詩菜だった。さすがの学園序列九位も二位にはかなわないのか攻めあぐねており、こちらに気づいた時一瞬助けを期待するような目でみていたような気がした。
「そんな目で見るなよ。俺は河川敷に捨ててある猫も犬も一度も家に連れて帰ったことないよ。助けを求められても助ける力がなきゃ意味なんてないだろ?」
そう思いながら、刀をギリギリと握りつぶすぐらい思いっきり握り締める。
こんな時、葵ちゃんならどうするかな。
愚問だな。
きっと何にも考えず同盟中だからって助けに行くんだろうな。
そういったワガママを押し通せるのが力なんだろうな。
さて、どうしたものかな。
うだうだと悩んでいると、突然携帯が光り始める。どうやら、着信があったらしい。相手は葵ちゃんだった。
「もしもーし、どうかした? もしかしてピンチ?」
「いや、それよりもそっちが大丈夫かなと思って、ていうか結構電話したのに全然でないんだもの」
「悪いね。一応奇襲できるようにマナーモードにしてたからね」
「そうなの、それはそうとどういう状況?」
「そうだね。今のところ順調。一人倒したしね。そっちは?」
のんびりと話をしている間に、剣道部員達は為す術なく、倒されていく。
あるものは壁にめり込むほど殴り飛ばされ、あるものは二階の窓に突っ込むほど激しく蹴り飛ばされていた。
「……言われた通りおとなしくしてたよ」
「そんなに不満そうにしないでよ。一応全快したと思ったらそっちも自由にしていいしさ。――話し変わるけどさ、一個質問していい?」
「何?」
先ほど目があった九条九詩菜も巧みに刀を操り、戦車の主砲のような相手の協力な一撃を受け流していたが、ジリ貧で徐々に校舎側に追い詰められていた。
「もしさ、目の前で、一応同盟関係のそれほど仲が良くない奴が敵に追い詰められていたら助ける? 別に助けることにそれほどメリットは無く、敵は自分より格上だとして」
「助けるよ」
ハッキリと言い切った。
そして、俺はその言葉を一寸の疑いの余地なく彼女の本心だと信じられた。
「ありがとう。一応頑張ってみるよ。最悪逃げ帰るぐらいはやるから許してね」
「?? ちょっと、どこにいるの?」
「天女がいた天界から、鬼がいる地獄へこれからダイブってやつです」
「意味がわからない」
焦った様子で返す言葉に笑って俺も返す。
「奇遇だね。俺も自分の次の行動が意味がわからないよ」
ピッ!
そう言って俺は携帯を切る。
さて、覚悟の鈍らぬうちに行きますか。
俺は鬼束の真上に立ちそのまま相手の頭上目掛けて飛び降りる。
刀を校舎の壁に擦らせ、多少勢いを削ぐが大して効果は無く、ほぼそのままの勢いのまま突っ込んだ。
「オニさんこちら!」
思いっ切り躊躇いなく刀を鬼束の脳天へと叩きこもうとする。
鬼束の方も眼前の九条への止めに意識を割いていたのかかなり無防備であり、その一撃はあっさりと決まるように思えた。
だが、刀が当たるまさにその瞬間、頭に触れるかどうかのギリギリで刀が止まる。
全体重と六階建ての屋上から飛び降りた渾身の一撃はまるで壁のようなものに防がれて弾かれる。
「チッ!」
舌打ちをし、そのまま空中で体勢を立て直し地面に着地する。
全身全霊の一撃の反動がそのまま体に返ってきて、全身に鈍い痛みと手のしびれを感じたが、それらを顔に出さず、いつも通りのふざけた口調と態度で、学園序列二位の鬼束と相対する。
「捨て身の攻撃なら、流石に多少のダメージが通るかなとも思ったけど甘かったね」
「誰だ、おぬし?」
鬼束は取り敢えず目の前にいる九条を無視してこちらに話しかけてくる。
「さあ? 誰でしょう。気にしなくてもいいんじゃない」
「そうかも知れぬ。が、空から飛び込んで来て攻撃を仕掛けてきたのは人生で初めてでな。一応名前ぐらいは聞いておいて記憶しておきたいのだ」
「やめておいたほうがいいんじゃない。名前を聞くのは空から降ってきたのが女の子の時まで取っといたほうがいいでしょ」
「その女が強いかどうかわからないではないか。少なくともおぬしはそれなりに強そうだ」
「名前を聞く判断基準は女の子が美人かどうかじゃないのね。一応名乗っておくと、序列999位の神乃天下だよ」
俺の序列を聞くと、鬼束は一瞬ポカンとした表情のあと、笑い始めた。
「そんな序列の奴が残っているとはな。もうそろそろ諦めて記念にワシに挑んだのか?」
「いいや、一応顔見知りが一方的にやられてたからな。相棒に聞いたらそういう時は助けるもんらしい」
話をしていると九条が会話に割り込む。
「何しに来たの。アナタじゃ鬼束にかなうわけ無いのに」
「何をしに来たと言われたら、格好付けに来たってのが一番しっくりくる気がするけれど、まあ助けに来たんだよ。それより、九条さんよ。もう少し何とかならないのかよ。アンタの『具現』よく知らないけど、出し惜しみできる場面じゃないと思えないぞ」
「うるさいわね。私のは戦闘特化じゃないのよ」
なるほどね。序列九位の『具現』が戦闘特化じゃないとは最悪の誤算だな。
「どうやら、ワシの『鬼神装甲』に手が出せんみたいじゃな」
「ああ、硬すぎなんだよ」
向こうの『具現』は攻撃をことごとく遮断する。あのタイプの『具現』に対抗するには、発動する前にぶっ潰すか、あの『具現』の防御力を超えるレベルの火力をぶつけるしかない。
さて、現状どちらも対抗する手段が無い以上、
「逃げますか?」
「アナタ、ホントに何しに来たの?」
九条さんだよりで突っ込んだなんて言えない。九条さんの『具現』が使えなかったことで戦う気が失せたなんて言えない。
「さあ? それより剣道部の残党にさっさと逃げるように指示してくれるとありがたいです」
刀を抜かず、鞘に収めたまま左手に持ち、いつも通り楽に構え鬼束と対峙する。
向こうもどうやら興味は俺に移っているようで、数人しか残っていない剣道部員にもはや興味は無さそうだった。
「逃げるなら逃げても良いぞ、それよりもまずワシはコイツと戦うことにする」
そう言って、剣道部の連中が背後にいるのにお構いなしにこちらに集中し向き合う。
よほど、自分の鎧に自信があるらしい。
「だ、そうだ。九条さん、お言葉に甘えて逃げてくださいな。俺も隙見て逃げるからさ」
そう言うとこちらがわに九条が目を合わす。その目は俺を信用しているとはとても思えないほど、冷たい目ではあったが、捨て駒の足止め役ぐらいは任せてくれたらしい。「――任せた」そう、一言呟いて数人の剣道部と共に散っていった。
ご意見ご感想お待ちしております。
もうすぐ個人戦スタートです。




