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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
31/50

特攻天女

 俺がとった選択は非常にリスキーだ。


 協力が前提の戦いで単独行動など愚の骨頂だ。


 俺の最低目標である個人戦に移行するまで生き残るということのみに専念するなら、葵ちゃんとずっと一緒に行動するほうがはるかに建設的だ。


 けれども、俺はここまで来て、もう一つの目標を達成したいと考え始めた。


 葵ちゃんを無傷で最終決戦の舞台で『天帝』と戦わせる。


 これを考えた時、この単独行動は多少価値を帯びる。


 まず、この単独行動は序列上位の連中を俺が消していくことが目的だ。


 基本的に正面から戦わない俺のスタイルなら、葵ちゃんと一緒に行動するより俺一人の方がいい。


 それに葵ちゃんは気配を消すのが下手だしね。


 要するに奇襲で実力者を潰していくのが目的だ。


 事前の情報収集で俺の実力でも奇襲で初見なら倒せそうな連中の目星はついてる。あとは、場所だが、そればっかりは分からない。


 取り敢えずは屋上にでも行くか。


 高いところなら、敵の場所の確認もできるかも知れない。


 教室を出た足はそのまま、屋上へと続く階段に向かっていく。


 ……ホントは、葵ちゃんから離れたのは、自分の惨めな戦い方を見られたくなかったからか?

 

 自分がどんなにあがいても手に入れられなかった『具現』をあっさりと使えたことに劣等感と嫉妬を感じているのか?


 どれも違うと頭の中でハッキリと言い切る。


 全ては目的のためだ。


 階段を登りながら、自分を振り返り色々と考えてしまう。


 どんな選択でも、迷いはあるものだ。


 だけれども、今回の自分の選択は本当に最良だったのか自分で自信が持てなかった。


 悩みながら歩いて行くと途中誰とも会わずに簡単に屋上のドアまで辿り着く。


 この校舎自体がもうかなり静かだった。


 戦いが佳境に近づいている証拠だ。


 大きく息を吸って吐いて、屋上のドアを開ける。


 開けた空は明るく深く。


 狭い校舎を中心に戦っていた俺は空に沈んで溺れそうになる。


 そんな屋上でフェンスの上に幼女が一人立っていた。


 背丈は子供、格好は女子生徒の制服。


 髪の毛はツインテールだった。


「おーい、ピンク。自殺の練習か」


「違うのら」


 背丈と変わらぬ妙に高い声と変な語尾の返事が返ってくる。


「なら、そんなところに登るのはやめときな。馬鹿と何とかは高いところに登りたがるっていうぜ」


「バカじゃないのら、というより、ぼかすなら馬鹿の部分をぼかすべきなのら」


 フェンスから降りずに振り返った少女は外を元気に駆け回る小学生と遜色ない童顔だった。


「悪いなピンク」


「というより、そのピンクっていうのは何なのら?」


「おいおい、今日履いてる下着ぐらい覚えておいたら?」


 バッと少女は自らのスカートを押さえつける。


「嘘なのら、今日は紺色のパンツなのら」


「あっそう、じゃあコンちゃん」


「……オマエ、アタシのこと相当バカにしてるのら」


 頬を膨らませ顔を赤くしてこちらを睨んでくる。


「気のせいだよ。序列十五位の依代羽衣よりしろういちゃん」


 目の前の相手は学園でもトップクラスの実力者だった。


 しかし、ツイていない。


 ホントなら、こういう相手には不意打ちを仕掛けていくはずだったのに。


 屋上のドアを開けて目の前に入られたら不意打ちもクソもない。


 まあ、こちらは相手の能力を知ってるっていうアドバンテージがあるけれど。


「知ってるのら? 他人がバカにしたつもりが無くても、本人が感じればそれは十分に――」


「バカにしてることになるのかな。そいつは失礼。ところで話は変わるけど、依代ちゃん。キミの相方はどこにいるんだい?」


 辺りを見渡しても気配をたどってもこの空間には俺と相手しか見つけられず感じられずだった。


「さあ? 一応ここにいるとは伝えていたけどいつ来るか分からないのら」


 なるほどね。時間をかけて戦えば俺が不利と。


 だが、今なら一対一で戦える。


 それなら、


「早速やりますか」


 腰から拳銃を取り出し右手に構える。


 その姿を見て彼女は笑う。


「オマエ、左手で刀を握ってるのに、右手で銃を持っちゃったら刀抜けないのら。頭がバカなのら」


「なら銃撃てばいいじゃん」


 笑われるのは別段よかったのだが、いささか見た目が小学生の奴に言われると多少頭にも来るわけで。


 すぐさま、詠唱し弾を撃つ。


「『神装展開』『バレットパレット』"魔弾は伝染る"」


 詠唱と共に撃ちだされた弾丸はあっさりと羽衣が左足の蹴りではじく。


「この学園で馬鹿正直に銃なんて当たる奴なんていないのら」


「"魔弾は跳ねる"」


 構わずもう一発放った弾丸も彼女が同じ足で蹴ってはじく。


「同じ事を二度続けるのも無意味なのら」


「あっそう」


 お構いなしに残りの弾も撃ち尽くすが、彼女の足技であっさりと弾き飛ばされる。


 弾切れと同時に今度は向こうが突っ込んでくる。


「よくここまで生き残っていられたのら。でも、これで終わりなのら」


 彼女は一撃で俺を沈めるつもりなのか、頭目掛けて右足の回し蹴りが飛んでくる。


 俺は左手の刀で蹴りの軌道をそらし、俺も蹴りを放つがあっさりと躱される。


 『具現』を使ってない状態の依代ならば、接近戦でもいくらか戦えるらしい。


「ふーん、中々良い反応なのら」


 一旦距離を取ったあと、向こうが関心したように言う。


 今の攻防だけで、自分と相手の実力でも測ったつもりなのか、冷静な依代の平常心をぶち壊したくて、冗談を飛ばす。 


「……依代ちゃん。もし俺を一撃で倒すつもりなら、パンツを見せびらかさない方が良かったな。俺、一回見たパンツは興味無いんだ。もし、今日はじめて見るパンツなら、蹴りのとき見とれて直撃したかもしれないのに」


 俺としても、捻りも何もない最低の冗談だったが、効果は抜群だったらしく、彼女の顔は真っ赤に燃え上がる。


「~~~変態は死ねェーー!」


 消えた!?


 一瞬目で追えないほどのスビードで移動され、俺は慌てて右手の銃を捨てて、左手に握っている刀の柄に右手を添える。


 それと同時に彼女の姿が目の前に現れる。


 ヤバッ!


 慌てて、刀のトリガーを抜きながら居合を目の前にいる依代に放つ。


 が、その一撃はあっさりと空を切る。


 最低でも掠ると思って振り切った俺は、あまりの手応えの無さに筋肉が悲鳴を上げる。


 そんな俺の頭上から声をかけられる。


「やっぱり良い反応らけど、確認が足りないのら」


 彼女は俺の居合を飛んで躱し、頭上からそのまま左足でかかと落としを仕掛ける。


「ご高説どうも、だけど依代ちゃんももう少し頭を使ったほうがいいよ。どうして、俺が当たりもしない拳銃を撃ったか考えてくれよ」


 右手の刀を空振りした勢いそのままに自身がコマのように回って左手の鞘でギリギリ彼女の蹴りを受け止め、弾き飛ばすように振り切る。


「……あれ???」


 弾かれた彼女の体は通常では考えられないほど勢い良く飛んでいく。


 その体はあっさりと屋上のフェンスを超える。


「『バレットパレット』の効果で依代ちゃんの弾を受けた左足だけ"跳ねる"って特性を帯びちゃってるんだよ。受け止めるだけで吹き飛ぶぐらいにね。移動してた時に異常に気付くかなとも思ったけど。案外鈍くてありがとうね」


 最悪の捨て台詞を視界から消えていく依代にかける。


「オマエ、そこで待ってるのら。すぐさま倒してやるのらーーー!!」


 絶叫とともに屋上からその姿が消える。六階建ての屋上から、落ちたけどこれで決着とは思えない。


 というより、すぐさま彼女が追いかけてくることが容易に想像できたので、その場から去ろうと扉へと足を向ける。


 だが、そこにはメガネをかけた男が扉を背にして立っていた。


「レディのお願いを無下にするのはいただけないな」


 伊達礼二だてれいじ、序列19位の実力者である。


「だけど、あの子は淑女というより幼女だからいいんじゃない?」


「幼女って、……キミ何年生?」


「二年ですけど」


「じゃあ、彼女と同級生じゃないか!」


「いや、なんか喋り方とか、見た目とか反応とか完全に子供だったんで」


 ため息をつきながら頭を抱えている。


「まあ、そこは否定はできないが、まあここで待っておきなよ。すぐさま来るから」


「俺が待つ道理ってあります? さっきだって俺は別段決着を付けるために屋上から落としたわけじゃないんですよ。そうだな、いうなれば、幼女に手を出したくないから引き分けで手をうったんだ。それなのに部外者が邪魔しないでくださいよ」


「だが、もう遅いようだよ。ヒロインの登場だ」


 俺の後ろを指さすとそこには先程屋上から落ちていった少女がいた。


 何もない空中に立ちながら。


「礼二、手を出してないのら?」


「当然だ 仲間を敵に回すほど強くないからな」


「オッケーなのら。さっきは良くもやってくれてのら。さあ、続きをやるのら」


 少女は空中にない胸をそらすように立ちこちらを指さしてくる。


「……たしか、依代ちゃんの『具現』は『特攻天女』だったよね」


「よく知っているのら。有名人は能力が知られていて大変なのら」


 向こうの相手の能力は、単純明快。何にもない場所に足場を作る能力だ。


 能力自体に戦闘能力は無い。破壊力もない。


 ただ、身体能力がトップクラスの人間にとって、自由自在の足場が作れることはかなりのアドバンテージだ。


 空中に飛んだ人間は地面に落ちるのが俺たちの常識なのに、それをあっさりと彼女は裏切る。空中にとどまり、先を読んだ攻撃をあっさりと見極めてから自分の行動に移れる。


 それ以上に何もない空中で足場を作って空中で加速しながら突っ込んでくるのだ。


「はぁ、序列上位者に囲まれて私はどうしましょ」


「そこに関しては安心してもいいのら。私一人で相手をしてやるのら!」


 自信満々にえっへんという声まで聞こえてきそうな元気の良さで宣言する。


「そいつはありがたい。ちなみにそれでいいの?」


 扉に背を預けて立っている伊達に了承を得ようとする。


「愚問だ。強い奴に従うさ」


「了解。なら、覚悟を決めてやりましょうか」


 刀を構える。


「名前聞いておいてあげるのら」


「足長お兄さんとでも名乗ろうか?」


「どう見ても胴長なのら」


「ほっとけよ。あとおっさんの部分も否定して欲しかったよ。神乃天下だ」


「依代羽衣なのら」


「知ってるよ。有名人。ここまで小さいと思ってなかったけどね」


「うるさい。放っておいて欲しいのら」


 お互い軽く苦笑し、自然と顔を引き締める。


 さて、この戦いは初手が大事だ。


 一応『具現』が攻撃特化では無いため、相手の攻撃を受け流せる状況ではあるが、なまじ半端ではない攻撃と『具現』発動したことによる、予想できない空中戦を仕掛けられることになる。


 先ほどのようになめられている状況とはワケが違う。


 ゆえに先手を取る。


 大きく息を吸い込み、大きく吐いていく。それと同時にドンドン全身の筋肉の緊張を解いていく。


 『天剣』で決める。


 ダラダラと戦うよりかは切り札を切って戦う方がマシだ。


 全身の力をドンドン抜いていくと体はまるで水のようになりドロドロと四方に溶け出そうとしていく感覚を味わう。


「一応警告してやるよ。勝負は一瞬だ。気を抜くなよ」


 相手に忠告なんてできる立場では無いが、目の前の幼女に良心から声をかけてやる。


 俺の言葉に返事は無かったが、彼女自身、空中で陸上のクラウチングスタートの姿勢を取る。


 その様子を頭に言葉として浮かべた時、一瞬笑ってしまう。


 空中なのに、陸上か。


 矛盾だな。


 けれども、矛盾していない。


 何ともおかしいなと思いながら、全身の脱力を完成させる。


 立っていられないほどの脱力をし、一瞬体がぐらつく。


 その瞬間、俺は銃弾のように飛び出した。


 足の指先から上へ上へ徐々にギアを上げるように力を入れ、一瞬で距離を詰めていく。


 風を切り、音と並び、敵との距離を刹那で詰める。


 そのスピードに目はまだしも、体が動く者はその場には誰もいなかった。


 時を止めたかのように、自分だけが動ける世界の中を素早く、無駄なく、動く。


 敵の目の前に立った時、敵はこちらを驚きの表情で見ていた。


 予想を超えた動きだったのだろう。言葉を発せずともその目と表情が全てを物語っていた。


 そんな顔に向かって飛び出すように抜いた刀を滑りこませていく。


 しっかりと打ち抜いた感触を手に残し、素早く刀を鞘へと収める。


 カチン!


 刀を収める音と共に止まっていた世界が動き出すような感じを受け、オレの目の前に立っていた、伊達礼二はゆっくりと倒れ始めた。


「……なんで!?」


 苦しそうに呟いたあとそのまま意識を失い、首輪が赤く光る。


「言ったろ、幼女には手を出さないってさ」


 俺は対峙していた依代にでは無く、ドアに背中を預けていた伊達に攻撃をしかけた。


 作戦は上手く行き、あっさりと彼は自分の意識を手放してくれた。


「礼二!? 神乃、どうしてなのら!」


「オイオイ、どうしては無いでしょ。俺は二人に囲まれたんだ。弱そうな方を狙っただけだよ。それともまさか、敵の一対一で相手するなんて言葉を信じろと? 冗談はやめようぜ」


 依代が空中に浮いたまま、俺と同じ目線でこちらに近づいてくる。


 怒りを隠そうともせずツインテールがそのまま天を突きそうだった。


「一個だけ聞かせてもらうのら。どうして正々堂々戦わなかったのら」


「一番勝てそうな手段を取っただけだよ」


「さっきの行為が勝ちだって本当に思っているのら?」


 その言葉は俺の心を締め付ける。


「……どうだろうね。そこだけは俺も分からない。でも、俺は俺の目的のために動いてる。そのために、最善手だとわかっているのに、卑怯だからとか、外道だからとか、言って敬遠する行為だけはしたくない」


「……それは武道じゃないのら」


「だろうね。でもさ、負けた時、自分への言い訳に『正々堂々戦ったから仕方ない!』なんて言葉は言いたくないんだよ」


「でも、その気持ちが次に戦う時に強くなろうと思うことに繋がるのら」


 自分を肯定するためにだろうか、やや熱っぽく少女は言う。


「……無かったんだよ」 


「え?」


「ただの一回の敗北で全てを失った俺には、再戦の機会もフェアプレイの精神も無かったんだよ。そこで至った結論は勝たなきゃ意味が無いってことさ」


「……」


 少女は無言になる。そんな彼女の頭に手を乗せる。


「悪かったよ今回はさ。ゴメンな」


「そんな言葉が欲しいんじゃないのら!」


 手を払いのけられ、彼女はそのまま屋上を後にした。


 もう俺と話す言葉は無いらしい。


「はぁ、強くなりたいな俺も」


 ボヤキながら、奪い取った勝利の虚しさが漂う屋上で俺は腰を降ろした。

非常に遅れてすいませんでした。


色々忙しくて…・…


これからも頑張ります。


ご意見ご感想お待ちしております。

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