幕間 使用上の注意
昼間だというのに天井の蛍光灯が輝いて、戦挙中だというのに、自らの身体は言うことを聞かず、右目が全く見えないことに恐怖を覚えた。
「どうなってんだ?」
眠りから冷めた鉄筒は起き上がろうとするが体は言うことを聞かなかった。
「グッドアフタヌーン。えーと、確か鉄筒銃治でいいんだったな」
目線を動かし、隣のベッドに座っている年上の女に焦点を合わす。
女は口に火のついていないタバコを咥え笑いながら気安く話しかけてくる。
「気分はどうだ?」
「あんまり良くない。頭も目も激痛が走ってる」
「なるほどな。やっぱり、ヤバイレベルまで進行してたな。運が良かったな、私以外が治療したら、恐らくお前の右目は失明してたぞ」
やや真剣そうな顔になり鉄筒の右目を注意深く観察してくる。
「ちなみに、俺はどうなったんだ?」
「慌てなくても、現状とこれからについてきちんと説明してやるよ。その右目のこれからについてもな」
鉄筒は辺りを見渡す。周りにはベッドが並んでおり、見るからに重傷者が横になっていた。その中に自分のパートナーはいなかった。
「まずは、今回の戦挙だが、お前らは敗北だ。ちなみに、お前が気絶してな。お前のパートナーがお前の状態を詳しく説明してくれたから、大事に至らなかったんだから感謝しとけよ」
「そうか、ユキが」
「そんでもってこれからが、非常に大事なお話だ。お前が倒れたのは『具現』の使いすぎなんかじゃない」
「え!?」
「『具現』のもう一つ先の扉を開けた可能性が非常に高い。一つ質問だが、お前自信この戦挙で何やらいつもと違う感じを味わったりしなかったか?」
思い返せば容易に当てはまる。
「……時間だ。時間がゆっくりと、最終的には止まったんだ。俺の『具現』は未来を覗くだけなのに」
「時間を止めたのか! 完全に『昇華』まで踏み込んでるな。しかも超レアレベルだな。おい、鉄筒銃治。もっと話が複雑になるかもな」
やや熱っぽく話し始めた棺を冷静に見ながらいつもと違い半分だけの視界に多少戸惑いつつ話を聞いていく。
「『昇華』ってのは『具現』の上に位置する力でまあ、目覚める連中はほぼいない。その力が持っていることが確認されれば国の研究者達が大枚はたいてお前をスカウトしにくるレベルだ。だけど、お前のは目覚め方が不完全だったみたいだ。その巨大な力にお前の体が耐え切れなかったらしい。お前は、ホントに運がいい。ホントならその時点で廃人だった」
さらりと恐ろしいことを言いつつ、鉄筒に警告してきた奴が嘘を言っていなかったことを実感する。
「お前の右目は異常なほど気を送り込まれて細胞そのものがひどく傷ついてる。今は私の組んだ術式で右目に過剰に集まっている気を散らすことで対策している。コレは最低でも一ヶ月は続けてもらう。そんでもってそこからはリハビリだな。『具現』と『昇華』を自分の物にする練習をしてもらう。というか、それまでは『具現』も『昇華』も絶対に使うなよ。もし使ったら私はお前の面倒は見ないからな」
真剣な表情で言われ、有無をいわさなかった。
「……ハイ」
力なく、ただただ従う。
「……というわけで、まずは今日中にこのリストの中から好きな奴を選んでおけ」
そう言われ、渡された資料に目をやる。
「……何ですかコレ?」
そこには、可愛らしいアニメのキャラが写った絵やカッコイイ竜の絵や渋めの十字架の絵などが書いてあった。
「これくらいピンとこいよ。お前の眼帯の刺繍を私がやってやるから絵柄を決めろってことだよ」
「はぁー! ちょっと勘弁してくださいよ。普通でいいですよ。こんな絵柄とか痛い子じゃないですか」
「恥ずかしがるなよ。……それともあれか? 眼帯より刀の鍔がよかったか? だがすまん。鍔だと私が術式を上手く組めないんだ」
「そういう問題じゃねー」
「そういう問題なんだよ。なんか世間では私がだらし無くて料理もお裁縫もできないとか思われてる気がするからこれを機になんとかイメージ脱却を図りたいんだよ」
「知らねーよ」
命の恩人ではあるが、ここを認めてしまうと学校で一生痛い子扱いされるのが目に見えていたため必死に抵抗する。
「まあ、できるだけ地味でもいいから選んどけよ。私は案外忙しいんだ」
そう言いながら棺は部屋を出ていこうとする。
「――どうもありがとうございます」
「……以外だな。礼なんていうタイプじゃないと思ってたが」
「一応、ありがとうとごめんなさいだけは言える人間に育てられたんで」
「じゃあ、その礼はお前をここまで運んでくれた子とお前を負かした相手に言っとけ。結果的にそれがないとお前の目は壊れてたんだからな」
そう言うと棺は部屋から出ていった。
◇◇◇
「先生、ジュウジは大丈夫何ですか?」
部屋を出ていくと待合室で鉄筒を運んできた少女は部屋から出てきた棺に様子をうかがう。
「ああ、元気だよ。ホント一歩間違えばやばかったってのに。まあ、今日一日はこの部屋に缶詰だからまた今度見舞いに来てやりな」
今日は会えないということを聞くと少女は少ししょんぼりとした顔をする。
「……、しゃあない。私と一緒の時に会わしてやるよ。だから、元気だせ。取り敢えず戦挙終わるまでは無理だから楽にしきな」
「?……! ありがとうございます」
少女は一瞬何を言われたのかわかっていない様子であったが、すぐに意味を理解して途端に笑顔に変わる。
やれやれ、今年は面倒な仕事が多いな。そう愚痴りながら、棺は次の仕事に向かっていった。
スイマセンしばらく忙しくて更新できませんでした。
しかも、かなり短いお話でスイマセン。
次回頑張ります。
次は天下くんの単独行動開始です。
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