そこに正義は無く 2
飛び回る弾丸は俺の背中を腹を否応なしに殴りつけてくる。鉄筒も眼前からの銃弾は防ぐが背後の弾丸はところどころ喰らっている。後ろからは葵ちゃんの声苦しげな声が聞こえてくるし、ユキと呼ばれた子は戦闘が得意でないのか、大量に跳弾が当たっていた。
そんな風に、自身の対処が精一杯な中で俺は鉄筒に迫る。
彼が自身の銃を鈍器のように操り跳弾をはじく合間に、更に銃として撃ってくる弾丸を叩き落とし、自分に迫ってくる跳弾を急所は守りながら精一杯防ぎ、距離を詰め、鞘に入ったままの刀で斬りかかる。
だが、彼の『具現』で当然のごとくその一撃は止められる。
それでいい。
手を塞がれた彼は跳弾を喰らっていく。
当然俺もだが。
「どうだ、消耗戦は。自らの体を省みない英雄気質な一年坊にはうってつけだろ! こうなったら意地を張り合おうぜ、鉄筒!」
「うるせえ、気の狂った先輩はさっさと退場しやがれ!」
ギリギリと受け止められた刀に力を込めて抑えつけるが、一瞬の隙を突かれ腹に蹴りを喰らい距離が取られてしまう。
「やっぱり、所詮は特殊弾で跳弾だな。お前の蹴り一発の方がよっぽど効くよ。ところで、話は変わるが後ろの女の子に構ってあげなくていいのか? ほとんど飛んできた弾全部喰らってるぜ!」
そんな俺の言葉に貸さなくても良い耳を貸した鉄筒は一瞬だけ、チラリとだけ後ろを見る。その瞬間に吸い込ませるように銃弾を放つ。
「"魔弾は輝く"」
最初と同じように、追加の詠唱で弾を閃光弾へと変化させる。
「だから、効かねえよ!」
彼は腕で目を隠す。
瞬間眩い光が教室を包む。
「効かなくていいんだよ鉄筒。俺がしたかったのは、お前の目を閉じさせたかっただけだからな」
アイツは恐らく自らの視界に入ったものの一瞬先を見る能力だ。
ならば、否が応にでも目を閉じさせればいい。
閃光弾が炸裂したとき、俺は目を閉じながら全身の力を抜く。
一瞬の勝機に全てをかける気持ちでやるならば、一気に『天剣』で決める。
より確実に万全に。
それほど、彼は強い。
だから、俺は目を閉じた鉄筒ではなく、後ろにいる少女を狙って『天剣』を放った。
ああ、なんて卑怯な行動だ。何が意地の張り合いだ。あっさりと意地も外聞も捨て去って、ただただ、勝利への近道を目指す、醜い行軍。
だから、そこに正義は無く、ただただ、汚らしい勝利への渇望しか無い。
どれだけ美しい敗北も、称賛される好勝負も俺にとっては糞の味の比べあいだ。
ゆえに俺は迷わず彼女を狙う。
それこそ一番の勝利への近道だと信じ。
「これで、幕だ」
全身を脱力させ、弓から放たれた矢の如く発射され、彼女との距離を一瞬、いや刹那で詰める。
刀の範囲に入るとそのまま自身の持つ刀の鞘に付いているトリガーを引き絞り、右手で氷の上を滑るようになめらかに刀を引きぬき、そのまま彼女の顎を打ちぬこうとする。
「あんまり、ダサい真似すんなよ!」
が、突如俺の刀は止められる。
ターゲットまで数十センチのところで鉄筒の銃が俺の刀を止めていた。
「なっ!」
初見で、俺の『天剣』を止めた奴はいない。それが俺の唯一の自信であり、この無謀な戦いの唯一の心の拠り所だった。
それが、あっさりと叩き折られた。
「どうして!?」
あらかじめ俺が彼女を狙うことがバレてたのか? 俺が閃光弾で目を瞑らせれば未来が見えないと思ったのが勘違いだったのか?
頭の中でひたすら問いを発するが、残念なことに俺の頭は何も答えてくれず、鉄筒も俺の問いに答えず、さっき以上に辛そうな表情で話しかけてくる。
「最後まで……勝ちを狙うのは結構だけどよ、超えちゃいけないラインを……作らなきゃいけないと思うぜ、自分に言い訳できる内はいいけど、自分に言い訳できなくなったら、……惨めに自滅するぜ」
途切れがちに話しかけてくる。近くにいた、俺とユキと呼ばれていた少女は苦しそうに鉄筒が話しているという現状が何を意味しているのか理解した。
「そうかもな。でも、覚えておけよ鉄筒。力のないものは、何でもやるんだよ。ルールの裏を突いたり、ルールを破ったりな。そうやって、勝ちを狙ってきたんだ。その結果として、負けたとき、俺の小細工全てが力でねじ伏せられて言い訳できない酷い負けを味わって、絶望して壊れるのはわかってるさ」
鉄筒の顔を見る。奴の右目の瞳が先ほどまでの赤から薄い黄金色に見えたが、一瞬で赤に戻りドンドン色を失っていっている。さらに、目からは大量の血が流れている。
完全にオーバーヒートを起こしていた。
目は虚ろ、意識も飛びそうになっている。
恐らく、最後の力を振り絞って何らかの無茶をして彼女を助けたのだろう。
その結果、彼は完全に限界を迎えていた。
「それでもだ。最後まで勝ちを狙いたいんだよ。醜く、後ろ指さされる勝ちでも、笑われるダサい勝ちでも。万人が認めない勝ちでも、しがみついていたいんだよ。勝ちだけが、俺がこの世界(戦いの場)にいられる理由だから」
だから、俺は戦いから逃げていた。もう一度踏み込めば、必ず力あるものに絶望させられて終わりだから。
「……まいった、先輩。それが、アンタの信念なら今回は俺の負けだよ。せいぜい、その信念が折れないようにな」
そう言うと、首輪が赤く光り、警告音がなる。そして、力なく教室の床に倒れる。
「一回折れて、打ち直したんだ。簡単に折れるなら、直した鍛冶屋に責任をなすりつけるよ」
そう言って俺は後ろの葵ちゃんを見た。
まだ、教室内には魔弾が飛び回っている。
「"かくして魔弾は撃ち尽くし、一夜の夢も消え失せる"」
詠唱を唱え、弾切れの『バレットパレット』の引き金を引く。
カチン
虚しく撃鉄が空を叩くと、壁に当たった弾が跳ねることなく、地面に落ちていく。
「葵ちゃん、大丈夫?」
「何とかね。っていうか、無茶しすぎでしょ」
「もうすぐ、終盤だと信じてるからまあ、多めに見てよ。そこまでは生き残るから」
葵ちゃんの無事を確かめると、もう一度、鉄筒と少女の方を振り向く。
「ユキって言ったっけ、鉄筒くんを頼むよ。今すぐに治療棟に言って、棺瑠美先生の治療を受けさせるんだ。頼むよ。ヘタしたら失明しちゃうか、脳の神経が焼き切れちゃうかもしれないからね」
「っっっっ、」
少女の顔が引きつった表情に変わると、すぐに鉄筒の肩を抱えてこの場から去ろうとする。
だが、鉄筒の方が大きくて上手く肩を担げない。
「手伝うよ」
そうして、鉄筒を抱えさせ、引きずりながら教室から出ていく。
「そうだ、鉄筒が起きたら伝えといて『カッコ良かった。次は一緒に遊ぼうってさ』」
彼女は返事も立ち止まることすらせず、そのまま去っていった。
恐らく彼女は自分が足手まといになったという後悔と俺に対する嫌悪感が渦巻いているであろう。それをわかっていながら声をかける俺も相当クズの気がするが。
さて、決戦を終え現状を確認する。
取り敢えず、体中が痛い。
自分の跳弾が体中に当たってアチコチ痛い。
「さーて、お次はどうする」
ドンドン悪くなっていく状況に笑いながら葵ちゃんに近づく。
「かっこ悪かったね。味方を危機にさらして、向こうは正々堂々と戦っているのにこっちは最後の最後まで奇襲。そのうえ、その一撃は止められるっていう」
「面目ないね。はなからないけど」
「それでも、勝ったね」
「そうだね。……葵ちゃん、どこまで勝ちたい?」
ふと、当たり前でありきたりなことを聞く。
「無論、頂点。っていうか、それ以外は負けでしょ?」
「……カッコイイね。だから、俺の戦い方も黙認しているの?」
「天下くんの戦いに私は口を出せないよ。だって、真剣だもん」
「外道で非道でも?」
「それでも得たい物がその道にあるならば、それを聞かずに否定はできない」
「……なら、ここらで一旦別行動だ。葵ちゃん。もう大分回復してるよね?」
「――えっ!?」
突然の俺の言葉に驚く葵ちゃん。
「出来るだけ、隠れながら戦ってよ。終盤戦を出来るだけ無傷で戦えるようにね。俺は、俺の戦い方でちょっとばかしやることをやってくるよ。大丈夫、絶対終盤の十組になるまで生き残ってるからさ」
「ちょ、ちょっと何を馬鹿な事を言ってるの? 天下くんもさっきの戦いで傷だらけじゃない」
確かに体はズキズキと痛む。でも、だからこその別行動だ。
「最後に勝ちを狙うなら、一切の不合理と不条理を飲み込め。それこそが勝利を照らす光であり、闇へと進む道標だ。信用して欲しい、信頼してほしい。信じて欲しい。この行動は最後に俺が、……俺たちが笑うための行動だから」
「……」
返答は無い。
「葵ちゃん。さっきも言ったけど、葵ちゃんが主役になるのは終盤戦。もっと言えば最後の『天帝』との戦いだ。葵ちゃん。その戦いだけは、葵ちゃんに全て任せる。だから、それまではまかせて欲しい」
「……」
無言だ。
でも、俺は教室から一歩踏み出す。
そんな俺の背後から、小さな声が聞こえる。
「……一つ、約束して。今日の夜天下くんの家で楽しく祝勝会するって」
「もちろんさ。そのための戦いだ」
笑いながら、答える。
約束は好きじゃないけれど、目標になるなら別段いいか。
さーて、それでは、神乃天下の自己満足のための戦いを始めよう。
一週間かかっちゃいました。
今回は、鉄筒と寿ペアとの戦いでした。
もともと、向こうがボロボロだったのでラッキーみたいな感じで勝ちましたね。
それでは、次は神乃くんの単独行動のスタートです。
……もしかしたら、鉄筒ペアの話がはいる可能性がありますが。
神乃くんはしばらくは単独で動くはずです。
さー、もうすぐ終盤せんですね。
頑張ります。
ご意見ご感想お待ちしております。




