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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
28/50

そこに正義は無く 1

 教室に入ってきた少年は、入り口近くに転がっている五十鈴の姿を見て、表情が歪んでいる。


「テメエ等がやったのか!」


 怒りに満ちた声で問われる。


「そうだと言ったら?」


「女相手にそこまでやるクズならぶっ飛ばさないと俺の信念に反する」


「つまりは戦闘と。ちなみに違うと言ったら?」


「テメェの喋り方がムカつくからぶっ飛ばす」


 ぶつかる視線に緊張が走っていく。


「オイオイ、そちらのお嬢さんはともかくお前は満身創痍でとても今すぐ戦いたそうに見えないけどな」


 ゆっくりと喧嘩を売られた相手を眺める。


 学園の制服はところどころ穴が空いてボロボロになり、先程からずっと右目を抑えて、隣の女の子に肩を貸してもらっている。


 どう見ても派手な戦いを終えた後だ。


「それはそっちもだろ。隣の姉ちゃんも外傷こそなさそうだがフラフラみたいだぞ」


「そうなんだ。こっちも色々と大変でね」


「私は……大丈夫だから……天下くん」


 辛そうな声で返事されても説得力がゼロなんだよ。


「そこでだ、互いにここは見て見ぬふりをしないか? 俺はお前らを見逃すし、お前らも俺らと戦わない。怪我人同士仲良くしようぜ」


 客観的に考えても真っ当な提案。


 別段この提案に裏はなく、相手が去ろうとした瞬間を狙うつもりもない。


 もうすでにジョーカーは退場扱いだ。なら、戦闘をする意味も場所をコロコロと変える必要もない。


「……お前には譲れない信念があるか」


「……何の話だ?」


「いいから答えろ」


 少年は俺の目を真っ直ぐ見ながら重たく言い放つ。


 俺の提案とは全く関係の無い返答ではあったが、これから先の俺とコイツの未来を決める問答だと思い、俺は正直に答える。


「……特には無い。いつだってケース・バイ・ケース。三日前に立てた目標も明後日には破ることもある。でも、そんなもんだろ人生って。いつだって理想は高くても、それじゃあ腹は膨れない」


「……そうかもな。でも、俺は譲れない信念ってやつを持ってる」


「……へえ、ちなみに聞いてもいいかな」


「いいぜ、一つ、武器は銃を使う。二つ、女の子には優しく」


 大きな声で一つずつ述べていく。それに合わせて俺も茶々を入れる。


「俺とは正反対だな」


 俺の茶々で一旦、少年は口を閉じるが、再び大きな声で3つ目を喋り出す。


「三つ、クズとは約束しない!」


「つまりは?」


「交渉決裂だ!」


 素早く俺は手にあった拳銃を構える。と同時に向こうの少年も目を覆っていた右手で腰の拳銃を引き抜く。


 だが、お互いに構えただけだ。


 どちらも引き金は引いていない。


 銃を構えた少年は右目を閉じ左目でこっちを睨んでくる。


 閉じた右目の端から赤い血の混じった涙を流しながら。


「撃たないのか?」


「一応、戦の作法に則ってやる」


「何だそれ?」


「名前ぐらい名乗らせてやるよ」


 どう見ても向こうが満身創痍だ。


 だけれども、彼は精神と肉体は分離しているかのように、余裕綽々、声高になのる。負ける可能性を考えていないのか、負けてもいいと考えているのか。


 それとも俺が舐められているのか。


「二年生、序列999位の神乃天下だ」


「一年で序列最下位の鉄筒銃治だ」


 別段俺は知りたくもない相手の名前を聞く。


「そっちのお嬢さんは名乗らないのか?」


「必要ねえよ。俺がお前を倒すんだから」


「ねえジュウジ。やめよ。目が痛むんでしょ! 今からでも棄権――」


「大丈夫だユキ。クズの一人ぐらいどうとでもなる」


 やっぱり俺は舐められてるらしい。


 まあ、好都合だけどな。


 そんな会話の最中に医療班が五十鈴を回収していく。


 もう、戦場となる教室にはそれぞれ、当事者しかいない。


「ちなみに、一つ聞きたい」


「なんだよ!」


「戦の作法に則ると、どうやったら戦闘が始まるんだ!? 第三者が号令でもかけるのか?」


「簡単だよ。お前が構えてる引き金を引いたらだ!」


 どこまでも、鉄筒という男は俺より上にいるらしい。


 序列だけならそう変わらないのに。というより、向こうは気づいてないんだろうが、葵ちゃんが転向してきてるから恐らく俺と序列は変わらないのに。


 まあ、他人と比べても俺がクズの底辺であることは変わらないが。


 まあ、手加減は不要だ。というか、はなからするつもりはないけれど。


「『新装展開』『バレットパレット』」


「”運命よそこをどけ、俺が通る”『具現』『エンペラーアイ』」


 互いに詠唱を行い、俺は引き金を引き絞る。

「”魔弾は輝く”」


 さっき、五十鈴を倒した時のように、光り輝くフラッシュ弾を撃つ。たとえ弾がはじかれても、一瞬でも怯んでくれたらそのまま『天剣』でジ・エンド。


 けれども、そんな風に世界は回らない。


「見え見えなんだよ!」


 魔弾が爆ぜ、教室全体に光が輝く瞬間、俺は目を閉じた。


 だが、丁度目を閉じる瞬間に合わせて前方から銃声が響く。


「くっ!」


 右腕と腹に銃弾が一発づつ当たり、思わず呻き声を上げてしまう。


 そのまま『天剣』を撃つつもりで脱力していたため威力は最大限に響く。


 腹を抑えながら前を見る。


 後方の少女は眩しそうに目を細めていたが、目の前に立つ鉄筒は全く眩しそうにはしていない。


 なら、この瞬間隙のある少女の方に攻撃をしかければ良かった。


 別段、もう卑怯とか非常な行動を取ること自体には躊躇いは無かった。


 でも、それよりも何よりも、俺は鉄筒の開いている右目から目を逸らせなかった。


 開いた右目は見るからに痛々しかった。


 目は大量の血が固まった時のように赤黒く染まっており、その瞳は燃えるように赤かった。


「オイオイ、大丈夫か、その眼!?」


「相手を気遣う余裕があるのかよ。お前の奇襲は失敗だぜ」


 まあ、全くもってその通りだが、それ以上にその眼は心配せざるを得ないほど危なそうに見えた。


「クズだけど、一応俺の方が学年上だから言っとく、もし、その眼が『具現』の使いすぎでなったならすぐさま棄権して、棺先生の所に治療しにいけ。神乃に言われたって言ったら、『アイツ、面倒事を全部私にさせる気か?』とかいいながら治療してくれるから」


「大丈夫だって言ってんだろ。まあ、そっちとしては俺には棄権してもらいたいんだろうが」


「馬鹿やろう。『具現』を使いすぎでオーバーヒート起こした人間がどうなるかぐらいわかるだろうが。二度と『具現』なんて使えなくなるし、最悪日常生活に支障をきたすレベルの障害を負うぞ!」


「それでも、曲げられねえのが信念だ」


「人の忠告を素直に聞けねえ信念なんざ、捨てちまえ!」


 俺が大声で怒鳴る。


 所詮コレは戦挙だ。


 生と死に関わる戦いでもなければ、ましてや向こうは一年生。来年も再来年もチャンスはある。


 けれども、体を壊せば、廃人になっちまえばそんなもの全てぶち壊しだ。


「わかってないな。信念は曲げられないし捨てられない。だから、俺とアンタは戦っている。ああ、俺だってこの場は見逃してもらうのが一番賢いってわかってるさ、棄権して治療するほうがいいってわかってるさ。それでも、俺はこの戦いから抜けられない。自分のルールを破れない」


 その言葉は人生の一切を妥協で過ごしてきた俺には理解できなかった。


 ただ、憧れるものは少し感じた。


「それが、一番の信念ってわけか。全く持って理解不能だ。後ろのお嬢ちゃんはお前の演説で泣いてるよ。……しゃあないな。少しだけ時間をくれないか?」


「?? 何をするつもりだ」


「ちょっとだけ、仲間と話がしたいんでね。別に約束なんてしなくていい。今から俺は勝手にお前に背を向けて葵ちゃんと話をする。撃ちたきゃ俺の背中を撃てばいい」


 約束しなくても、こう言っておけば恐らく、鉄筒は俺も葵ちゃんも攻撃できまい。


 鉄筒は見るからに不機嫌そうな顔をしながら、右目を抑える。返答は無いがどうやら撃っては来ないみたいだ。


 それを確認して、後ろを振り返る。


 葵ちゃんも多少は回復しているのか、刀を杖にしながら立ち上がろうとしていた。


「葵ちゃん。悪いけど、こっから先はちょっと葵ちゃんにも無理してもらいたい」


「……こんな病み……上がりに?」


「自虐ネタが言えるようになったなら大丈夫でしょ。『私なら全然大丈夫だから!』って言ったほうが俺は心配してたよ」


 苦しそうに言葉を紡ぐ人間に酷いこと言ってるのは理解してるけれど、鉄筒を助けるためにはどうやっても短期決戦しなくちゃならない。ほっといたら勝手に壊れちゃいそうだから。


 そうだ、カッテにコワレルなんてツマンナイ。どうせ、コワスなら俺の――、


「天下くん、それで私はどうしたら良いの?」


 ゾクっ!


 懐かしい感情が一瞬湧き上がるが、葵ちゃんの声で冷静さを取り戻す。


「あ、ああ。取り敢えず教室の隅にいて欲しい。そして、ひたすら守りに徹して。ちょっとばかし無茶するからさ」


「大丈夫なの?」


 さあね。


 それが本音だけれど、格好つけたい気分でもあった。


 近くの敵はまるで、主人公みたいに真っ直ぐなやつだから。


「多分、恐らく、きっと、ほぼ、大丈夫」


「大丈夫の前についてる言葉退けれるようになれたらカッコイイのにね」


 努力します。


「でも、信頼するよ」


「信頼だと言葉が重いよ。信用ぐらいにしといて」


 言葉遊びをしながら、俺は振り返り鉄筒の方向へ向く。


「さーて、ありがとさん。待っててくれて」


「さっさと続きを始めるぞ」


 待ってる時間が退屈だったのか、イライラしていた。


 まあ、そうか。待ってる時間中、アイツの右目は常に痛みが走ってるんだからな。


「そうだね。すぐさま、治療に向かわしてあげるよ」


「すぐさま、終わらすってとこには同感だ!」


 先ほどとは違い両手に拳銃を持ち、今度は向こうがこちらへと迫ってくる。


 恐らくは銃弾を弾くことが敵わない距離まで接近し、近距離のガン=カタ対決でもやろうってノリだろう。


 そのまま走りながら鉄筒は銃弾を放つ、銃口と引き金を引く指の動きを冷静に追いながら鞘の入ったままの刀を左手一本で操り銃弾を叩き落とす。


「……一個気になったことがある。俺の魔弾をどうしてあんなにあっさり躱した? 閃光手榴弾でも投げたならまだわからんでもない。でも、俺が撃ったのは見た目はただの銃弾だ。普通、武芸者なら銃弾を喰らわないように注視するはずだ。鉄筒、お前のその『具現

みぎめ

』何が視えてる?」


 鉄筒は銃弾で返事をしてくる。


 無数に重ねられていく銃弾。それを一つ一つ、叩き落としながら、必要以上に距離を詰められないように下がっていく。


「そうだな。簡単に絞り込むとしたら、未来視か読心術かだ。でなけりゃ、さっきの俺と五十鈴の戦いを視ていたか」


 喋りながらも決して手と足は止めない。


「なるほどね。案外あり得るね。だから、取り敢えず。まずは、キミの『具現』をハッキリさせよう」


 バレットパレットを鉄筒に向けて構え二発放つ。


 すると予想通り、彼は俺が引き金を引き始める少し前から回避行動を開始し、顔を狙った一発は首を捻って躱し、胴体を狙った一発はそのまま弾倉部分ではたき落とされる。


 けれど、そこからが俺の『神装』の能力の出番である。


「”魔弾は跳ねる”」


 俺が追加の詠唱を行う。


 棺留美が開発した『神装』である『バレットパレット』は、詠唱により弾の性質を幾つか変化させる事ができる。


 五十鈴戦の時に使ったのは閃光弾であり、使える場面が多いので、棺先生の会心のヒット作のはずだったのだが、銃自体が不評なこともあり、ほとんど売れなかった。


 それで拗ねた先生は俺にこの銃をサービスで一個くれたのだった。


 鉄筒はそんな『バレットパレット』から発射され自らがはたき落とした弾丸を一瞥し、そのまま俺へと銃を撃つ。


「よくわかったね。その銃弾が何も起こらないってことをさ」


「ハッタリかませる余裕があるとは思わなかったぜ」


「ははは、そうだねハッタリなんてものはどこか心に余裕がないとできないからね。だから、さっきの詠唱はハッタリなんかじゃないよ!」


「何を言ってんだ? もう言葉遊びに突き――」


 戦っている空間は教室だ。


 そこには当然壁がある。


 俺の今回行った詠唱は銃弾に跳ねるという特性を付与するもの。


 その銃弾はあっさりと鉄筒に躱されたが、壁にぶつかり跳ね返ることでもう一度、鉄筒に牙を剥く。


「背面ご注意。正義のヒーローさん!」


「危ないジュウジ!」


 鉄筒の背中に少女が飛び込む。


 その身を盾にして、壁からの跳弾を止めようとする。


「ちょっ! ユキ!」


 それは俺にとっても予想外であり、鉄筒にとっても予想外の行動みたいだった。


「大丈夫。私は盾ぐらいにしかなれないから」


 弾丸はどうやら彼女の腹辺りに当たったみたいだが、別段大したことはないだろう。


 もともと、跳弾だし、銃自体の威力がたかが知れてる。


 だが、向こうの主役の逆鱗にクリーンヒットしたらしい。


「テメェ。ただで帰れると思ってんのか!」


 顔を歪まし、声を荒げる。ヒロインが傷つき怒る主役は多けれど、ここまでストレートに怒りを表す奴も珍しい。


「別段、無傷むりょうで帰れるとは思っていないけれど、できるだけ安い方がありがたいなぁ」


 減らず口を叩きながら、俺は刀を一旦空中に投げる。


「まあ、怒れる鉄筒くん。まずは答え合わせをして欲しい。コレは俺の仮説だけど、キミの目は、数秒先が見えるんだ。ただし、その眼に映った光景だけだけどね。だから、今さっきの攻撃に対応できなかった。もし、全体をカバーできるように未来が見えるのなら、さっきの銃弾をあんなふうに無視しないだろうからね」


「……」


 無言だった。


 けれど、唇を噛み締めながら睨む彼の表情がほぼ正解を告げているようなものだった。


「沈黙は肯定と勝手に取っちゃうね。ということで、俺としては非常に嫌な方に予想が当たってしまったわけだ。なんせまともな攻撃手段が近接戦闘しか無いんだから。よって、俺はここで多少の無茶をさせてもらうよ」


 俺はポケットから銃弾をごっそりと、手で掴めるだけつかみ空中に放り投げる。


 そして、もう一度ポケットに手を突っ込んで、自身の拳銃にリロードする。


「もう、見えたんじゃないか。この先の未来を!」


「おい! やめろぉ!」


 鉄筒が叫ぶ。


 だが、そんな声は当然の如く無視し、俺は詠唱しながら弾を、そのぶちまけた銃弾の束に撃ちこむ。


「”魔弾は伝染る。続けて詠唱、魔弾は跳ねる”」


 最初の詠唱で、バレットパレットから発射されない特殊弾、棺先生風に言うと無色弾に弾の特性を伝染るように色付けし、次の詠唱と撃ち込んだ銃弾で色を伝染す。


 その特性は跳弾。だが、先ほどとは銃弾の数が違う。


 大量の弾丸同士がぶつかり合い、ビリヤードのブレイクショットのように互いに弾き合い、四方八方へ飛び散り、その弾丸が壁に当たって跳ね返っていく。


 まるでピンボール状態である。


「名付けて『鳥籠』。存分に楽しもうぜ、お代はこれで足りてるか?」


 俺は続けざまにさらに残りの弾丸を宙にまき、同じように弾を跳弾させる。


 俺も鉄筒も回避が無理と思われる程の弾丸をバラマキ、空中から落ちてくる刀を掴む。


 こっからが大事。


 銃弾を弾けるのは銃を撃つ瞬間を見ているからならば、銃を撃つ瞬間が存在せず、弾のみが縦横無尽に駆け巡る場所に押し込められたならば、流石にオートガードの『具現』でもない限り完全な防御など不可能だ。


 つまり、この空間にいる、俺と鉄筒と葵ちゃんとユキと呼ばれた少女、全員が銃弾の餌食となる。


「ちっ! 狂ってるぜアンタ!」


「狂気なくして、勝機なしさ。俺は引き金を引いたぜ、鉄筒! 次はお前の番だ。勝利を選ぶか、正義を選ぶか」


分割です

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