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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
27/50

スペードの3

 状況は?


 最悪。


 勝算は?


 皆無。


 今何してる?


 教室の真ん中でブルブル震えてる。


 今すぐ逃げ出したくなるような条件をつきつけられながら俺は教室の真ん中で脱力しながら祈っていた。


 葵ちゃんが『具現』に目覚めたまでは良かった。


 それが無ければほぼ個人戦へ移行しても叩きのめされて終了だから。


 だが、予想外なことに暴走してしまった。


 本来なら気絶させて棺先生の前に持っていくんだけれど、戦挙の最中じゃそうはいかない。


 ただ、教室の片隅に横にならして回復を待つばかりである。


 幸い、放電は治まってきている。


 あとは、元通り戦える状態まで回復するか否かだ。


 こればっかりはよくわからない。


 ただ、現状じゃ呼吸は荒いし、会話も途切れ途切れ、常に辛そうな表情。


 どう考えても戦える状況では無い。


 俺にできるのは教室の机をどけて、教室の出入り口に敵が来た瞬間に一か八かで天剣を打ち込んで相手を倒すことしかない。いや、すでに戦挙が中盤戦になっていることを考えれば敵は『具現』を使える場合も多いだろう。そうなれば、『具現』を発動した状態で教室に乗り込んでこられて、俺の『天剣』が当たらない可能性も十分ある。


「一番つらいのはオートガードだよね」


 天剣は結局の所奇襲でしかない。だから、奇襲殺しの『具現』のオートガードはかなり厳しい。


 もしそんな奴が来たら俺も流石に切り札を切らなければならない。


「色々と面倒だから、使いたくはないんだけれどね。せめて、小道具程度で乗り切りたいな」


 余裕なんてない状況なのは自分がよくわかってる。


 けれど、自身の切り札を使えば、否が応にも戦挙のその後が気になってしまう。


 使えば、恐らく今までのようにのほほんとした、ぬるま湯に浸かった学園生活はできないだろう。


「使っても、使わなくても面倒くさいなんてどんだけ面倒なんだよ、オレの切り札はさ」


 無駄口を叩きながら自らの刀を握る。


 本来なら、無駄口なんて叩く余裕なんてなく、緊張しながら教室に侵入してくる敵に備えなけりゃいけない。


 でも、ただただ、こんな不利な状況で敵を待つという行為そのものが恐怖を助長させる。


 だから、俺はひたすら湧き上がる恐怖を押さえつけるために独り言を呟く。


 なんて虚しくて、悲しくて、情けないんだろ。


「蛇でも鬼でも出てこいよ。なんて口が裂けても言えないしな」


 それでも止まらない独り言。だが、その独り言に、微かにノイズが走る。


 コツン!


 足音! 


 聞こえた瞬間から緊張が走る。


 大きく息を吸い、吐く。


 刀は?


 持った。


 覚悟は?


 決めた。


 それじゃあ準備は?


 相手が弱けりゃバッチリオッケー!


 いつでも『天剣』を撃てるように体を脱力させながら、近づいてきている足音に耳を集中させる。


 どうやら、足音から判断するに敵は一人のみらしい。


 それは喜ばしいことではあったが、足音が遠ざかることなく近づいて来たことが俺のテンションを否が応にも下げていく。


 けれど、もう賽は投げられている。


 あとは、息を殺し視界に入った瞬間に『天剣』を撃つだけである。


 コツン、コツン、コツン。


 一歩づつ近づく音が恐怖と緊張を高める。


 そして、目の前に小柄な少女が現れた瞬間、躊躇なく彼女に向かって飛び込んだ。


 けれど、刀そのものを俺が抜くことは無かった。


 目の前の小柄な少女に向かって飛び込んだはいいが、彼女はすでに自身の前に水を膜のように展開していた。


 ヤバイ!


 このまま攻撃しても無意味だと咄嗟の判断でその位置から後ろに飛び退く。


 すると同時に、水を竜のようにまとめあげた物体が先ほどまで俺がいた場所を削り取る。


「咄嗟の判断は良さそうね。そのまま刀を抜いてたら私の水で刀を奪われて『リヴァイアサン』で叩き潰されてた――」


 現れた少女はまずは俺を褒めようとしたが、俺の顔を見た瞬間言葉が止まる。


 俺自身も混乱していた。


 目の前にいた少女は、俺たちが初戦で倒した女の子だったからだ。


「何で!」


 俺が驚愕の声を上げるが、彼女は意に介さず、ただただ、嬉しそうに呟く。


「やっと出会えた。神乃天下!」


 まるで遠く離れている恋人にでも出会ったように、感激と神への感謝を込めた表情でこちらを眺める。


「一応説明してあげようか?」


「……いや、大体わかった気がする」


 ルールをよーく思い返す。


 今回の戦挙には負けても復活できるイレギュラーがいたじゃないか。


「つまりは、ジョーカーってわけだ」


「ご明察」


 非常に楽しそうでうれしそうな目の前の小柄な少女。


 それに反し俺は嫌な予感しか、しなかった。


「ホント、もどかしかった。アンタ達を探したかったけど、一応ジョーカーとして動かないといけないから、中々大変でね。今回も動かないチームを倒せっていう学園の本部側の連絡で来たんだけど、まさかアンタだとは。神様に感謝しないとね」


「俺は神様にFUCKと叫べばいいのかな? それとも、一回勝ってる相手をサービスで差し向けられたことに感謝しないといけないのかな?」


「どっちも不正解。正解は私と再戦する不幸を嘆いて、ガクガク震えること。唯一のあなた達の有利な点である人数もどうやら、使い物にならないみたいだし」


 後ろで倒れている葵ちゃんを遠目に確認したのかそう呟く。

 

 まあ俺たちの最初の勝ち方からして、一人しか見えなかったらもう一人をすぐさま探すよね。


「ははは、よーくお分かりで。一応事前に決めときたいんだけど、葵ちゃんには手を出さないでくれない? 一応俺が相手するからさ」


「こっちにデメリットしかない決め事ね。私の具現は別に範囲広いから巻き込めるんだけど」


「そこを承知のお願いさ。確かにさっきキミを倒したのは葵ちゃんだけど、元々の因縁は俺だろ。まあ、因縁を清算するつもりで呑んでくれない?」


「……別に狙うつもりはないけど、巻き込まれるのは知らないよ」


「それで十分」


 もともと、あんまり勝てる気がしてないんだ。


 さて、どうやって勝とうかな。


「もう言い残すことは無い? 絶望の準備はできた」


「別段絶望はしてないよ。絶望ってのは、出口の無い迷路に放り込まれるようなもんだけど、まだ、迷路を一歩ぐらいしか歩いてないんだ。出口がないかどうかまだわからない」


 苦笑しながら答える俺に対し不快そうな顔をこちらに向けてくる少女。


「一言聞きたいんだけど、逃げるだけだったアンタがどうしてそんなに自信満々なの? 『具現』にでも目覚めた?」


「いーや、ただ、あん時と違ってやるしかないって気持ちがあるだけだよ。勝てるかどうかは置いといてね」


 意外そうにこちらを見る。


 大方結構簡単に諦めるタイプだとでも思われてたのだろう。


「ああそう。じゃあ、そろそろ始めましょ」


「水を差すつもりはないけれど、名前ぐらい教えてくれない?」


「……五十鈴鈴よ」


「ありがと!」


 聞き終わった瞬間、不意打ち気味に俺はポケットから拳銃を取り出す。


 棺先生の趣味の賜物である拳銃。


 それを相手に向かって躊躇いなく発射する。


 けれど、向こうは顔色も変えずあっさりと自らの『具現』で攻撃を止める。


「どういうつもり? 銃なんて効くわけないじゃない」


 不意打ちを仕掛けたことより、銃で攻撃したことに驚く五十鈴。


「いやいや、刀で斬りかかったらキミの水に絡み取られて負けちゃうでしょ」


「でも、拳銃じゃあ勝てないわよ」


「そうだね。なんか裏ワザを見つけないとね」


 そう言いながら俺はさらに二発撃つ。


 それを簡単に止めると今度は向こうも竜をかたどった水をムチのように扱って反撃してくる。


 一応教室内の机は脇に避けておいたから転がりながら躱すが同時に葵ちゃんを巻き込まないかどうか不安になる。


 あんまし、時間をかけるのも避けるのも良くないな。


 短期決戦と行きますか。


 そのためにはまず、


「葵ちゃん、聞いてるかな。ああ、返事はいいからこれから言う3つのことを守ってくれるとありがたい。目をつぶってて、耳を塞いでて、そして最後に俺を信用して」


 相手の攻撃を躱しながら、敵が来て一応起き上がっていた葵ちゃんに声をかける。


 これから起こることをあんまり見て欲しくない。


「……大丈夫。……信頼してるよ」


 弱々しい返答が返ってくる。


 けれど、それが負けられない理由になる。


「負ける姿を見られたくないの?」


 五十鈴が挑発気味に言葉をかけてくる。


「いいや、女の子に過剰に暴力振るう姿を見られるのが嫌でさ」


 おどけた返事に五十鈴は気分を害したのか表情が険しくなる。


「何時まで、アンタが私に勝てると思ってるの」


「何時まで俺がアンタより格下演じてると思ってんだよ」


 売り言葉に買い言葉。


「っ!!! でもどうやって勝つつもりよ、銃は効かない。刀は受けられたら終了。アンタはただ、絶望して逃げまわってりゃいいのよ」


 五十鈴の手にまとわりついている水を俺に向かってムチのように振るう。


 確かにムチの軌道は読みにくいが、別に躱せないレベルってわけじゃない。


 それこそ端目からみれば無様な感じに転がりながら躱す。


 そんな俺の姿を見て満足気に何度も何度も攻撃を重ねていく。


 床はひび割れ、埃が舞っていく。


「ははは、カッコつけても無様に転がるだけじゃない」


「そうかもな、でもあんまりそういうこと言わない方がいいと思うぜ。負けた時のショックがでかいから」


「口数が減らない奴ね!」


「ごめーんね」


 おどけたような俺の一言に切れたのか、俺に向かって手を突き出す。


「喰らい尽くせ。『リヴァイアサン』」


 五十鈴の手に巻き付いている水が俺に向かって一直線に噛み付いてくる。


 それを転がり躱し立ち上がり、こちらも五十鈴に向かって銃を向ける。


「だから、銃は効かない―ー」


「『神装展開』『バレットパレット』」


 相手の言葉を遮るように詠唱を行う。


 『神装』という『具現』と対抗するため、または『具現』を伸ばす理由で作られた、気を込めた武器。使用する時使用者に負担こそかけるが、解放する言葉さえ知っていれば基本的に誰でも使えるということでわりと重宝するのだが、お値段が高いのと、使っていると『具現』が使えない弱者という偏見があるため使用者は少ない。


 俺は棺先生から試作品ということでもらったのだが、実戦使用は初めてだ。


 多少緊張しながら引き金を引く。


 発射された銃弾は先ほどと何ら変わりなく飛んでいく

 一瞬俺の詠唱で険しくなった五十鈴の顔も何ら変哲のない銃弾が飛んだ瞬間安堵に変わる。


 そのまま俺の撃ち込んだ銃弾は五十鈴の水のムチに絡み取られていく。


「ははは。何? 何も変わってな――」


 五十鈴は余裕ぶって喋るが俺がその言葉を遮る。


「魔弾は輝く」


 追加の詠唱。その瞬間撃ち込んだ弾が眩い光を放つ。


 弾は水に取り込まれてはいる。けれど、水は無色透明。その輝きを妨げはしなかった。


「なっ何!?」


 光る弾に目を潰される。その瞬間俺は銃を置いて、刀を握って五十鈴に向かって突っ込む。


 五十鈴も目が見えないながら、自らの『具現』を苦し紛れに振り回すが俺には当たらない。


 そのまま近づき、鞘で五十鈴の足を払う。


「きゃっ!」


 可愛らしい悲鳴が上がるが、俺は心を鬼にする。


「ごめんね」


 そのまま、彼女の『具現』が巻ついていない左手を掴む。


 一瞬の呼吸ののち、躊躇いなくその腕を折る。


「うあああぁあああぁ!」


 先程までの可愛らしい声と悲鳴が動物の叫び声のように変わる。


 腹の底から捻りだした声は耳の奥へと伝わり脳へと響く。


 強烈な痛みはそのまま『具現』へと響いたのかノイズのようなものが『具現』そのものに走り、まとめあげていた竜をかたどった水のムチがただの水たまりへと変わる。


「悪いけど、まだ気絶しないでね。もう二、三本貰うから」


 そう言って俺は場所を変え今度は右手を掴み十字固めの体制へと移る。


 ふと、五十鈴の表情を見る。目に涙がにじみ呻き声を上げている。


 ゾク。


 背中に一瞬寒気のような興奮のようなものが走るが無視する。


 今はただ感情をなくしたマシーンのようにならないといけない。


 そして、もう一本の腕をへし折る。


「あああああっっぅぅああ!」


 もう一度悲鳴が響く。両腕をへし折られぐったりとしている五十鈴を見下ろしながら立ち上がり今度は足の方へと歩く。


「悪いけど、もう一本折らして貰うよ。ハッキリ言って葵ちゃんがああいう状況になった以上籠城戦をしたいんでね。ジョーカーには退場してもらうよ。簡単に言うと再起不能にするよ。気絶さえさせなきゃいくら危害を加えてもいいからね」


「あ……やめ。お願い、もう」


「悪いけど、もうこれ以上面倒くさい出来事が重なるのはお断りなんだ。例えば両腕折れた、キミをうちの学園の腕利きの医者が戦挙最中にもう一度戦えるように直して、キミともう一度戦うことなんて断固拒否なんだよ。流石に腕と足をへし折っとけば棄権させると思うから、やらしてもらうよ」


 膝十字固めの体制に移り、何の躊躇いも無く足が反対方向に折り曲げる。


 ブチブチ


 きくだけで背筋が寒くなる音が聞こえてくる。靭帯関係がちぎれていく音だろう。


「うぁああぎゃああああああ!」 


 少女の声とは思えない悲鳴が鳴り響く。


 俺はその声を聞きながら立ち上がり、刀を握り鞘を相手の顎に添える。


「ごめんね。五十鈴鈴」


「……こ、ろ、してやる」


 痛みに耐えながら俺を睨んだ五十鈴は俺に怨嗟の声を投げかける。その言葉を聞きながら俺は顎を打ちぬく。


 ゴロン


 気を失った彼女は手足が不自然な方向に折れ曲がった状態で教室の床に転がった。


「はぁー。何やってんだか、俺は」


 一戦を終え、腰を下ろす。


 一息つき、冷静に現状を確認する。


 目の前には悲惨な光景が広がっている。


 俺は後ろを怖くて振り向けない。もしこの光景を葵ちゃんが視ていたら、俺ともう一度一緒に戦ってくれるだろうか。


 それでも取り敢えず終了を教えないといけない。俺は振り返らず声をかける。


「葵ちゃん。もう終ったよ」


 けれど、返事は返ってこない。


 失望されたか?


 胸に巣くう恐怖を必死に抑えつけながら後ろを振り向く。


 そこには目を閉じて、耳を抑えている葵ちゃんがいた。


 耳なんか閉じててもあの悲鳴は聞こえているはず。


 それでも、俺との約束を守っていた葵ちゃん。


 俺は近づいて葵ちゃんの肩を叩く。


 するとようやく、目を開きこちらを見る。


「終ったよ」


「……随分余裕で勝ったのね。どこも怪我してない」


「心の傷がでかいよ」


 お互い真剣な顔で会話する。


 葵ちゃんも五十鈴の悲鳴を聞いていたのか、試合の内容には首を突っ込んでこない。


 妙に気を使われているらしい。


「さて、ジョーカーも倒したことだしゆっくりできるね」


「そうもいかないかもね」


 話をしていると教室に近づく気配を感じる。


 けれども、気配を隠すような雰囲気もないから、恐らく救護班だ。


「大丈夫でしょ。これはきっと救護班だ」


 俺がそう言うと教室の入り口を指さす。


「……どうやら向こうの方が救護班が必要みたいだけど?」


 そこには右目を抑え、パートナーの女の子に肩を貸してもらっており、銃を腰に構えた満身創痍の男と今にも泣き出しそうな少女がいた。


「……やっぱりゆっくりできないのかよ」

 

今回はわりと早かったような……

あっ! 遅いですか。わかりました。精進します。


今回はジョーカー役の五十鈴ちゃんです。ボロボロにされてましたね。

やっぱり、ヤラレ役ですね。


ちなみにタイトルは大富豪のローカルルールです。

ジョーカー単体にスペードの3が勝つっていう特殊な奴です。


次は鉄筒くん達との戦いです。


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