幕間 王から神へ1
「だいぶ静かになったね」
「おかげで獲物もいなくなっちまったよ」
新入生コンビである、鉄筒銃治と寿幸は中盤戦に差し掛かった戦挙において、校舎の廊下で呑気におしゃべりしていた。
彼らは新入生ながら上手く戦挙を立ち回り、大した外傷を負うことなく中盤まで生き残っていた。
「なんか思った以上に上手く行きすぎてんな」
ふと、鉄筒は思い返したように言う。
「えてして、物語でこういう場面では次に強敵に出会うのがお約束というものだよな」
「もう十分強い人とも戦ったじゃない。初戦の人とか絶対強いよ」
「まあそうなんだろうな。序列33位とか言ってたし」
ふと思い返す。確かに初戦から具現持ちの強敵と出会ったことは出会った。だが、怪我なく勝利した。
「なあ、ユキ。お前が聞いたらバカらしいと思うかもしれないが、俺の考え方を教えておこうか」
「?? 何?」
鉄筒は勿体ぶった表情と手振りで、大まじめな表情で口を開く。
「この世界はバランスが全てなんだよ。つまり、いいことがアレば悪いことがある。流れって言ってもいいかも知れない。だから、手札でロイヤルストレートフラッシュができた後は、ブタの手札になるんもんなんだよ」
「そう? 私、5回連続で出したことあるけど」
寿の『具現』は『グッドラック』。幸運を引き込む能力である。その手のゲームをやれば、ほぼ勝てる。
「そりゃ、ユキはそうだろうよ。でもな、ユキもその能力のせいで、不幸な出来事にあったことないか?」
「それは……」
寿も幼少時のことを思い出す。家族では無く、道具として扱われた日々を。
「まあ、それは置いといて。こういう時ほどヤバイ奴が現れる確率が高いって話だよ」
そう言いって、先程までの真面目な顔を少し崩す。
「気をつけていこうぜユキ」
「……うん」
ちょっと、まずい話をしちゃったかなと鉄筒が思いながら一歩踏み出す。
現在の居場所は校舎の二階階段付近である。逃げるつもりはないが、階層を変えることで敵が現れても対応はしやすい位置ではあった。
「――さすがに起こしてくれよ。僕が寝てる間に勝手に暴れてさ。気づいたらもう中盤とか信じられないよ」
「一応敵が来た時声はかけましたし、膝枕外した時一瞬起きてましたよ。すぐさま寝てましたけど」
そんな時に前方に二人組の、傍目からはカップルのように見える二人がこちらなど気にも止めずに歩いてくる。
「獲物がいないなんてぼやいてる暇すらくれないらしい。向こうから来てくれるんだからよくできてるぜ」
それを確認し、自分の銃を二丁取り出し真っ向から対峙しようとする鉄筒。けれど、その手を寿が止めようとする。
「ジュウジ。ダメだよ。あの人はダメ。今すぐ逃げなきゃ!」
「どうしたんだよユキ? 急に慌てて」
「慌ててって、あの人達知らないの!?」
「どっからどう見ても、ただのカップルだろ」
その言動に寿は頭を抱える。
「ジュウジ、頂点狙って戦うなら、現状のトップくらい覚えていたほうがいいよ」
その言葉に頭にハテナを浮かべ、信じられないといった風に口を開く。
「ってことはアレが『天帝』? まさかぁ」
「ホントだよ。だから今は逃げるよ!」
そう言って寿は鉄筒の腕を引いて階段を降りようとする。けれど、鉄筒はその場から動かない。真っ直ぐ歩いてくる『天帝』をただひたすら見つめている。
「ユキ、悪いけどもう遅い。向こうもこっちに気づいてる。それで、相手が『天帝』だっていうなら逃げても隙を作るだけだよ」
「それでも!」
「覚悟を決めてくれユキ。今回はユキの力も借りると思う。さあ、始まるぜ」
いつもどこか余裕の表情の鉄筒もさすがに顔が険しく、寿は今にも泣きそうなだった。
そんな二人の前に『天帝』こと蒼崎空と双鐘恋が立ち止まる。
「オイオイ、なんでそんな顔してるんだよ。まるで、僕が泣かしてるみたいじゃないか」
「あながち間違いじゃないんじゃないですか? 会長」
癖なのか、メガネの縁を指でイジりながら蒼崎に突っ込むが蒼崎は気にも止めず真っ直ぐ自らの獲物を見ている。
「というか、そんな顔するくらいなら逃げればいいのに」
「アンタの顔見ても、『天帝』って気づかなくて。さっき相棒に教えてもらった時には手遅れでね」
鉄筒の言葉に蒼崎はキョトンとする。
数秒間思考が停止しているようなマヌケな顔を晒したあと、声を上げて笑い出す。
「はははは、ごめんごめん。自惚れてるつもりはないけど、まさかこの学校の生徒に顔覚えられてないとは思わなくてさ。思わず固まっちゃったよ」
笑顔で楽しそうに会話している蒼崎だが、対象的に鉄筒の表情は険しい。
「ではでは、さっそく初めようか。一応名前教えてよ」
「悪いが、そっちも自己紹介してくれよ。『天帝』って呼び名じゃ、俺がアンタを倒した時アンタをなんて呼べばいいかわかんないからな」
「フフフ、とかく今日はビッグマウスが多いな。まあ喜ばしいことだけどね。神武学園序列一位、生徒会長の蒼崎空だよ。恋も名乗っときなよ」
「じゃあ、神武学園序列四位、副生徒会長の双鐘恋です」
向こうが名乗ると、鉄筒は寿の背中を押して、名乗りを進める。
促された寿も小さな声で名乗る。
「神武学園序列三十位、寿幸」
「神武学園序列最下位の鉄筒銃治だ。それじゃあ勝負だ!」
名乗ると同時に手に握っている拳銃を向け連射する。
それと同時に詠唱を行う。
「運命よ、そこをどけ、俺が通る『具現』『エンペラーアイ』」
右目が赤く染まる。その光景を見た蒼崎は飛んでくる銃弾を気にもせず、自らが纏っている風で防ぐ。
「彼も『具現』持ちか。最近は特に多い気がするな。恋、一応聞いとくけどあいつらの能力知ってるとかないよね」
戦いの最中だというのに、蒼崎は後ろを振り返って、双鐘に話しかける。
「彼の能力は知りませんが、後ろの彼女の能力は知ってますよ。ちなみに彼女の能力はかなり強力ですよ」
「へぇー、やっぱり恋は物知りだな」
目の前にいる鉄筒は完全に無視されている。銃弾を雨あられと蒼崎にぶつけて行くが、蒼崎の風の壁で全弾止められていく。
「まじいな」
ぽつりと鉄筒が呟く。自身の『具現』は攻撃力を上げるものじゃない。どちらかと言えば未来を視て、相手の攻撃を避けることに役立てる。つまり防御力が上げることに繋がってる。そして、未来を覗くことでできた隙目掛けて、隙間を縫うように銃弾を当てていくスタイルだ。
今回のように絶対防御を持つ相手には、ただただ、こちらの銃弾が消耗していくだけだ。
こちらもリスクを負うが向こうには攻撃してもらいたい。というより、現在張られている風の壁を解いてもらわなければ勝ち目はゼロだ。
「じゃあ、そろそろいきますか」
楽しそうに話していた蒼崎もさすがに延々と撃ち込まれる銃弾に向き合う。笑顔は崩さず手のひらをこちらに向ける。
「さあ、反撃開始だ」
そう言われた瞬間、蒼崎の周りに無数の風の刃が飛び回る。
「本当はぶん殴って倒すのが一番好みなんだけどさ、一応『具現』使えるみたいだし、能力もわからない相手に接近戦挑む勇気はないからさ。それじゃあ、いくよ!」
瞬間、風の刃が一斉に襲ってくる。
取り敢えず、風の刃に向かって銃を撃ってみるが、先ほど戦った姫松の『具現』とは違い壊れること無く、銃弾だけを木っ端微塵にしてこちらへ向かってくる。
「やっぱりレベルが違うか。ユキ、取り敢えずここから距離とってくれ。このままだと巻き添え喰らう」
「う、うん」
相手の攻撃を自らの『具現』で出来うる限り捉えていく。どの刃がどんなタイミングでどう向かってくるのかを把握しながら、できるだけ、頭を動かし死角を作らないようにする。鉄筒の『具現』『エンペラーアイ』は自らの右目に写った景色の数秒先が見えるというものである。つまり、全方位攻撃をかわしていくのはそれほど簡単なわけでは無い。けれど、巧みに立ち回り、一瞬できる攻撃の当たらない部分に転がるようにかわしていく。さながら針の穴を通すような緻密な作業である。
しかし、いくら巧みにかわしても、相手にダメージを与えられなければ意味が無い。試しによけながら蒼崎に向かって銃弾を放ってはみたが、またしても相手に届く前に風の壁に遮られる。
恐らく具現』レベルの威力がないとあの防御は突破できないのであろう。そう考えると、かなり鉄筒にとってこの戦いは分が悪い。
恐らくチャンスは一回だ。
そう考えた鉄筒は来るときのために、右へ左へ絶え間なく襲ってくる刃をかわし続ける。
「よく避けるね。その目が関係してるのかな? ねえ恋、彼の能力って何だと思う?」
「まず、『具現』の発動で変化した部分が目の色なので、目に関連した能力の可能性があります。それをふまえ現状の戦いを見ると、まず催眠術や幻術はないと思います。会長自身普通に戦えてますしね。まあ、簡単に想像できる中で可能性が高いのが、相手の考えていることを読む力ですね。普通に会長の攻撃をあれだけ避けてるんです。そういった能力を持っている可能性は十分あります。あと、回避している部分に関連して考察すると未来が見えるとかそういった能力の可能性もありますけどね」
「まあ、そういう結論になるよね。だとすれば、もし未来が見える能力ならレアだね」
攻撃を続けながら蒼崎は双鐘と話を続ける。
かと言って攻撃の手は全く緩んではいない。本来なら、相手に向かって軽口の一つも叩きたいものだが、さすがに避けるのに必死である。
「けれども、これじゃあ埒が開かないね。恋、続きやる?」
「冗談でしょう。私がやるって言っても手を出させる気ないくせに」
「まあね。もし、後ろの子が参加したら頼むよ」
蒼崎は笑いながら、鉄筒を見つめる。
「そろそろ、決着をつけようか」
その言葉とともに、さらに風の刃が蒼崎の周りを跳びまわり始める。
まだ増えるのか!
現状でも精一杯な鉄筒に冷や汗が背中を伝う。
けれど、鉄筒の表情は軽く微笑む。
「もう待ったなしだな。いいぜ、『天帝』。腹はククッた!」
先程まで転がりながら攻撃を躱していた鉄筒は大きく叫ぶと同時に蒼崎に向かって走り始める。
それと同時に自らの銃に気を込めていく。
けれど、蒼崎は慌てもせず風の刃を鉄筒を包み込むように展開する。
「終わりだよ」
呟くと同時に逃げ場なしの一斉攻撃が始まる。
当然その中心にいる鉄筒もやられたと思われたが、
「甘いぜ!」
自分が突っ込む部分に『放出』によって放たれた気弾で僅かな穴を開けそこを強引に突き抜ける。
そして、残ったもう片方の銃を空中で蒼崎に向ける。
「グッナイ!」
自らの気を最大限に込めた『放出』を蒼崎にぶつける。放たれた気が校舎内の床をえぐり地響きが鳴る。
きっと、通常状態なら傷もつけられないだろうが、攻撃にある程度気を割いている今なら効くと考えての特攻だった。当然リスクは高い。現に現状の鉄筒は蒼崎の放った風の刃を抜けるためにあちこちに傷を負っている。けれど、ある程度無茶を通さなければ相手には傷もつけられない。それくらいの実力差があることは明白だった。
「どうだ!」
直撃させ、鉄筒は蒼崎と双鐘の丁度中間に着地しそのまま蒼崎の方向を素早く確認する。自らの『放出』によって砂埃が舞う。けれど、すぐさま風が吹いて視界が開ける。そこには、衣服すら乱れていない『天帝』が立っていた。
「残念だけど、もう昼寝は済ましたんだよ。これ以上寝てるとさすがに今日何をしに来たのかわからないからね」
「……流石は『天帝』。俺の『放出』じゃあ傷もつかないか」
「中々いい威力だったよ。けど、あのレベルはうじゃうじゃいるのが、この学園だからね。あのくらいは防いでみせるさ。それじゃあ、仕切りなおしかな」
そう言って腕を突き出そうとする蒼崎に鉄筒が待ったをかける。
「待ちな。そんなに慌てるもんじゃない。まあ、コレぐらいは予想できたんだよ。俺の足りない頭でもな。問題はこれからだ。なんで、俺はハイリスク、ローリターンな行動を取ったのか。それを考えてもいいんじゃないか?」
現状追い込まれているのは鉄筒のはずである。けれど、彼の言動からそんな緊張感は微塵も感じられない。
戦闘が始まり初めて真顔になった蒼崎に向かって、今度は双鐘が声をかける。
「空くん。後ろ!」
その焦った声に素早く蒼崎が後ろを振り向く。
そこにはリボルバー式の拳銃を構えた寿がこちらに立っていた。
スイマセン。また遅くなりました。
遂に天帝対鉄筒くんという脇役対決です。
感想ください。
ホントくれると嬉しいです。
色々つらいことあったけど、応援が一番うれしいです。
ではでは、後編へ続く。




