表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
24/50

強者の条件 2

 瞬間。俺の視界は一切の暗闇に変わった。先ほどまで暑いぐらいの日差しが教室内を照らしていたというのに、一寸先も見えない暗闇へと変わった。


 視界が奪われた。恐らく葵ちゃんも同じような状況になったのだろう。別段どれだけ目を凝らそうとしても、一向に何も見えない。どうやら光が遮断されて真っ暗になったというより、恐らく俺たちの視力を奪ったというのが正しいのだろう。


「残念。葵ちゃん。間に合わなかったよ」


 半ば予想通りの相手の能力に素早く反応できなかった自分を呪いながら葵ちゃんに話しかける。


「そんな……」


 露骨にがっかりした葵ちゃんの声が聞こえる。取り敢えず、葵ちゃんの位置は確認できた。


 どうやら相手の能力は視界を奪うだけらしい。音も、ニオイも聞こえる。けれども、かなり不利なことには違い無い。さて、どうしたものか。


 取り敢えず握っていた刀を辺りを一周させるように振り回す。すると、カツカツ、と周りにある机と椅子に当たる。


 どうやら周りには椅子と机があるらしい。


 俺はさらに感覚に神経を集中させ、なんとか教室内の気配を探る。教室内の気配は二つ。一つは葵ちゃんだから、もう一つが恐らく二階堂だ。


 そして、その気配は足音とともにこちらに近づいてくる。


「いつのまに、『具現』を使えるようになってたの? 知らなかったよ二階堂くんが『具現』使えるなんて」


「お前に負けた後すぐにな、変な女に出会って色々あって力を手に入れたんだよ」


 彼は苦々しく言う。そんな彼の声のおかげで位置もだいたい把握する。


「なあ、天下。この力はいいぞ。どいつもこいつも、この『具現』に囚われたあとおんなじ様な反応をするんだ。手も足も動くのに、その場から動かず、いつ来るかわからない攻撃に怯えるんだ。そんな顔を眺めながら殴るのは最高だぜ」


「ふーん。ああ、そう」


「強がるなよ天下。オレの『具現』が発動する瞬間はあんなにビビってたじゃないか。……まあ、いい。今から一発殴ってやればおんなじ様な表情になるだろ」


 気配がさらに近づく。恐らく今にも二階堂が殴りかかって来るだろう。


 でも、俺の心は穏やかでこのあとの結末が目に見えるようだった。


「一言いいかな、二階堂くん」


「ああん?」


「なんでキミ、そんなに自分が強くなった気でいるの?」


 その言葉は静かな暗闇の空気を震わせた。


 途端に二階堂の方向からハッキリとした殺意を感じる。


「どういう意味だよ」


「ああ、確かにキミの能力は相手の視界を奪うすごい力だと思うよ。でもね、二階堂くんが強くなったわけじゃない。どっちかって言うと相手が弱くなってるだけ。唯一のアドバンテージの相手の居場所がわからないってのも、声を出してばらしちゃってる。それなのに、どうしてそんなに余裕なの」


 精一杯相手を挑発するように言う。


 大丈夫、俺の知ってる二階堂はこのセリフでブチ切れて、


「言わせておけば。どっちみちテメエの目は見えねえんだよ。黙って殴られとけ」


 思った通り殴りかかって来る。


 ここからは、勘と経験で恐らく真っ先に殴ってくるであろう顔の延長線上に鞘に収めたままの刀を突き出し、二階堂のパンチを受け止める。


「なっ!」


 受け止められたことが信じられないといったような声を出す。


 そしてそのまま、鞘から刀を抜き、袈裟懸けに斬りつける。


 グドッ!


 鈍い音こそ響いたが、感触的に骨も砕いてないし、気絶もさせれていない。


 もし目が見えていたら躊躇いなく、顎を穿ち一発で気絶させるところだけれど、目が見えていないから命中率重視にしたのが裏目に出ちゃったかな。


「ッつぅ! テメエ、見えてやがんのか!」


「見えてないよ。見えてたら今頃二階堂くんを気絶させてるよ。ただね、昔、弐宮神楽と座頭市ごっこなんてしてて、目をつぶりながらの戦いはやったことはある。っていうか、天才はズルいよね。神楽は一瞬でコツを掴んで、普通に戦えてたのに、俺は全然だめ。でも、当時の俺は負けず嫌いだからさ、神楽に内緒でものすごく練習したんだよね。まさか、こんな所で生きてくると思わなかったけど」


「……バ、化物」


 圧倒的有利だと思っていた状況から、手痛い反撃を受けて、オマケに自分の能力が通じないと宣言された二階堂は声に恐怖をにじませてつぶやく。


「化物なんかじゃないよ。本物の化物は、本物の強者はこんな小細工なしに全てを壊す。凡人の努力を、凡人の奇策を、あざ笑うかのように王道でぶっ壊す。だから、強者だ。二階堂くん。キミの敗因を教えてあげるよ。キミは凡人のままだったのに、努力を、策を立てることを怠った。俺がこの力を得たら、自分の居場所なんて絶対教えない。居場所を音で気付かれないようにラジカセを至るところに設置して、大音量で流して、気を辿られないように、気を使わない銃器で遠くから、何の面白みもなく勝つべくして勝つよ。そんな風にしたって強者には負けるんだけどね」


 ああ、だからどんなに努力したって、強者には勝てない。考えに考え反省に反省を重ねた結果、勝てないビジョンが見えた瞬間俺は刀を置いたんだ。


「ち、畜生!」


 突如吹っ切れたように叫び、二階堂が走り出すのが聞こえる。


 音が聞こえる先は、……葵ちゃんの方向だ

「っ、二階堂くんと俺って案外思考回路似てるかもね。勝てないと思ったら弱者を狙うか」


 だが、まずい。不味すぎる。俺だって葵ちゃんのいる場所はある程度把握してるし、何より二階堂が音を立てながら動いているから場所は大丈夫なんだが、いかんせん経路の机と椅子が邪魔ですぐに移動できない。


「葵ちゃん、そっちに二階堂が行った!」


 取り敢えず危険を伝えるが視界がない以上殴られる覚悟を決めてくれと言っているに近い。


 俺のように見え無くても騙し騙し戦えるならまだしも。


「大丈夫、天下くん。それより、私から出来るだけ離れて伏せててて」


 突如想像もしていない言葉を言われる。その言葉が意味しているのは恐らく自分で対処すると言っているのだ。


 俺自身は目が見えなくて状況はつかめていない、けれど、その言葉は自身と確信があるように感じた。


「テメェも、俺をなめやがってよ!」


「アンタにも感謝してるわ。暗闇の中で自分の事がよくわかった。ただ、怯えて助けを求めるなんて私らしくない。それに何より、真っ暗が大ッキライってことが」


「知らねーよ。テメエはさっさと倒されろ。その後の天下の悔しそうな表情をオレがじっくり眺めるんだからよ」


「運命は暗闇だ――」


「テメェ、まさか!?」


 突如始まる葵ちゃんの詠唱に二階堂は驚きの声を上げる。


「ゆえに、それを切り裂く閃光を求めた『具現』『雷光』」


 バチン!


 言葉を言い切った瞬間耳をつんざくような音が聞こえ、背中に冷や汗をかくほどの気を感じる。


「や、やめろ。そ、そうだ。お前は目が見えてないんだ。だったら、逃げれば」


「別に逃げてもいいわ。……逃げ切れるのならね」


 バチバチと電源ケーブルがショートするような音が空気を裂いて聞こえてくる。


「天下くん。しゃがんでてね」


 とっくの昔にしゃがんでいた俺は大丈夫と返事をすると、恐らく教室全体に『具現』を振りまいたのだろう。バチバチという音がより激しく聞こえ、その音に紛れて二階堂の惨めな悲鳴が聞こえてきた。


 プスプス、という音と、化学繊維が燃えて辺りに嫌なニオイが立ち込めた後、俺の視界が突如戻ってきた。


 見ると、電撃が教室を蜘蛛の糸のように張り巡らされていて、絡み取られた蛾のように二階堂が立ったまま電撃を喰らい続けていた。


「ちょ、ちょっと葵ちゃん! もういいよ。『具現』を引っ込めて。それ以上攻撃したら失格になる」


 もうすでに二階堂の首輪は赤く光って警告音がなっている。


 それでも、葵ちゃんは止まらない。


「天、下、くん。と、止まらないよ。力が……」


 ちっ、暴走かよ。


 『具現』に目覚めてすぐの人間がよく陥る暴走状態になっているらしい。


 どうやら自分で制御できていないらしい。


 これって、俺が対処しなくちゃいけないのかな。


 俺ってそんなに痛いの得意じゃないんだけどな。


 誰かすごいヒーローみたいな人が助けに来てくれないかな。


 一秒だけ待ってみよう。それでダメなら俺が何とかするか。


 ……一秒。


 早い。一秒なんて一瞬だ。


 ……やりますか。


 取り敢えず体をかがめながら、近づく。


 葵ちゃんは抜刀していてそこから、青いような、黄色のような綺麗な電撃が放出されていた。


「だめ、天下くん。近づいたら」


 葵ちゃんが苦しそうに叫ぶ。


 けれど、構わずに俺はその手を思いっきり掴む。


 掴んだ瞬間足元へ、電撃が突き抜けていく。


 取り敢えず教室全体へ展開されていた電撃は一旦収まる。


 代わりに俺がそのエネルギーをまともに受ける。


「何してるの。早く手を離して」


「感電してるとさ、体って言うこと聞かないんだよ。だから、葵ちゃん。キミが止めてくれ」


 一気に意識が持っていかれそうになる。体中に電撃が駆け巡る感じがして、頭がボウっとしてくる。


「いい、落ち着くんだよ。今、新しい力に目覚めて感覚が暴走してるだけだから。落ち着けば大丈夫だから」


 精一杯電撃に耐えながらゆっくりと葵ちゃんに話しかける。


 それが功を奏したのか、電撃は僅かに弱まる。


「そうだよ。大丈夫だから」


 今すぐ悲鳴を上げたいけど、懸命に堪える。


 ゆっくりと、弱まっていく電撃。5秒ほど耐えていると、ようやく電撃は止まった。


「葵ちゃん大丈夫?」


 俺自身かなり体が痛くて、服はところどころ焦げていたが、まず第一に相方の心配をした。


「だ、大、丈夫」


 かなり荒い息で端目から見てもどうも大丈夫じゃなさそうだ。


 あっさりとそのまま意識を手放してしまいそうに見えた。


「いい、葵ちゃん。今かなり苦しいかも知れないけど、絶対気絶しちゃ駄目だよ」


 葵ちゃんを近くの椅子に座らせながら、俺が言う。


「だ、だいじょうぶ、だから」


 目はとろけて、息は荒く、上目遣いでこちらを見られた。


「取り敢えず落ち着くまでここにいるよ」


 俺も満身創痍だが、仕方ない。どうやら、俺がナイト役をやるしか無いらしい。


「じゃあ、蒔菜はここから出ていくね」


 先ほどまで気配も何も感じなかったのに、突然声が入り口の近くでする。


 見ると、白衣に棒キャンディを咥えている少女がいた。


 素早く身構えるが、彼女の首輪を見てひとまず安心する。


 彼女の首輪は赤く染まって警告音が鳴っていた。


「お前が二階堂くんのパートナー?」


「そうだよ。蒔菜がコレのパートナー。でも思った以上に弱かったね。せっかく『具現』が使えるようにしてあげたのに」


「なるほどね。二階堂くんが言うように、変な奴っぽいね」


「へへへ、変わっているっていうのは蒔菜にとっては褒め言葉なの。でも、もう少し頑張って欲しかったな。せっかく私も能力使って色々手伝ってあげたのに」


 なるほど、どうやら葵ちゃんを気配なくさらったのはコイツらしい。


「どうしてさっきの戦いは手伝ってあげなかったんだ?」


「手を出すなって向こうが言ってきたから言うこと聞いてあげてたんだけど。あそこまで情けないと思わなかったよ」


 そう言うと、自身も負けているというのに、笑顔のままで笑いながら教室から出ていこうとする。


「ちょっと待てよ。お前さ、『具現』を使えない人間に『具現』を使えるようにできるのか」


 さっきの会話で引っかかった部分だけ確認する。


「お前じゃなくて、蒔菜だよ。棺蒔菜」


「棺? お前」


「そう、棺留美お姉ちゃんの妹だよ」


「……世界は小さいね。それで、蒔菜。さっきの問いに答えろよ」


 言われて蒔菜は俺の体をジロジロと観察する。


「……うーん。お兄さんだと厳しいかな。私の方法だと、最低『放出』ぐらいは使えないと無理だから」


「……そうかい。悪かったな。呼び止めて」


「いや、いいよ。お兄さんには興味も湧いたし」


 そう言うと、妙に妖しげな笑顔をこちらに向けてそのまま教室を出ていった。


 さて、どうするか。


 取り敢えず、苦しそうな葵ちゃんが落ち着くまでは移動もできない。


 俺自身も葵ちゃんの電撃でかなり全身だるくて痛い。


 状況は最悪。


 唯一良かったのは、葵ちゃん自身の『具現』が強力だということのみだ。


「願わくばしばらく、敵と出会うなよ」 


更新間隔開いちゃってスイマセン。


いよいよ、葵ちゃんも具現開眼ですよ。


これからは天下に頼らず、無双ですよ。やったね。


次はまた、脇役話が入ると思います。


ご意見ご感想お待ちしております。


感想くれるとありがたいです



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ