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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
23/50

強者の条件 1

 戦いが始まってからどれくらいの時間がたっただろうか、俺と葵ちゃんは相変わらず、野球部達との死闘で奪いとった多目的ホールで籠もりながら戦っていた。


「そろそろ、お昼時かな?」


「そうだね、お腹も減ってきたしね」


 葵ちゃんの問いに頷きながら答える。一応多目的ホールで籠城戦を行なっているために、消耗は他の参加者に比べればそれほどでも無いが、それでも、多目的ホールに近づく者に対して常に気を張っていなければならないためそれなりに消耗はしていた。


 俺はポケットをまさぐる。そこには今日の朝ポケットに突っ込んできた飴がいくつか入っていた。


「舐める?」


 飴を取り出して聞く。葵ちゃんは頷いて俺から飴を受け取りそのまま口に運んでいく。


 俺も飴を口に運び丁寧に舐めながら葵ちゃんに話しかける。


「さーて、そろそろ学園の中も落ち着いてきたし移動しながら戦おうか。この多目的ホールに近づいて来る敵も減ってきたし、そろそろ、ジョーカーが攻めて来るかもしれない」


「いいけど、どこに向かうか、アテはあるの?」


「あんまし。ここからは、わりと運ゲーアンド奇襲にどれだけ備えられるかが肝心だね。多分、そろそろ残ってる連中も序列上位者だ。基本的に俺の実力なら逃げるのが一番なんだけど、それでジョーカーに積極的に狙われるのはよろしくない。だから、こっちが奇襲をかけながら戦いたいね」


「じゃあ、そろそろ『具現』を使う人たちとも戦う感じ?」


「そうだね。基本的に序列の五十位以内の連中から『具現』を使える割合が増える。……恐い?」


「そうね。今まで経験が無いから少し不安ではあるけれど。恐いってほどじゃない」


 葵ちゃんの口から緊張なんて言葉が出てきたことにびっくりしながら、今朝の出来事を思い出す。


「葵ちゃんも緊張するんだね」


「誰かさんみたいに吐くほどじゃないけどね」


「……痛い所つくな。じゃあ、そろそろ行くよ」


 皮肉で返されたことに軽く傷つきながら多目的ホールの出口のドアをかすかに開けて中を確認する。


 廊下はガラスこそバラバラに割られて散らばっていたが、人自体は見えず、気配も感じなかった。


「今がチャンス!」


 廊下に出ると、その静かさに違和感を覚える。いくら戦挙が落ち着いてきたと言っても、いくら野球部とサッカー部の主戦場だからあんまり他の連中が近づかないとは言っても、自分の足音の反響まで聞こえるのはいくらなんでも静か過ぎる。


「静かね」


 葵ちゃんも同じ感想を抱いたらしい。


「早めに場所を変えよう。いくら人の気配は少ない方がいいといっても、これは不気味過ぎる」


 そうだ。静かなのは強い奴が暴れまわったあとなのかも知れない。多目的ホールのすぐ隣でそれほど大暴れされてたようには感じなかったけれど、それでも、可能性があるなら常に頭の中に入れておくべきだ。「油断できるほど強くないなら、常に気張っとけ。死にたくないならな。」昔、親父が言っていた言葉を思い出す。別段生死に関係する場面ではないけれど、油断は敗北につながることは間違いない。


 取り敢えず、外に出ようと窓に近づく。普通、戦挙序盤に窓ガラスなんて全部割られているものだけど、ここいら一帯はまだ割れていなかった。丁寧に鍵を外し窓を開けた瞬間、今度は静寂をぶち壊す轟音が鳴り響く。


 その音は重く響くような音で、音が振動だということを体でわからせてくれた。辺り一帯の窓ガラスは振動でヒビが入っていく。音が鳴り響いたあと、今度は地震のように正真正銘地面が揺れた。


「いったい何なの!?」


「しんないけど、『天帝』辺りが暴れてるんじゃない?」


 学園の校舎を揺らすほどの規格外の実力者と言えば真っ先に思い浮かぶのは天帝である。


 なるほど、案外あの人が近くにいたのかも知れない。それなら人が近寄らなくて当然だ。天帝に挑む馬鹿なんて序盤に多少いるだけだろうし。


「そんじゃあ、さっさとここから離れるよ。葵ちゃ……ん?」


 後ろに振り返り声をかけると、そこにはさっきまで確かにいた葵ちゃんはいなかった。


「あれ、どこに」


 びっくりしながら辺りを見渡す。まだ数日しか葵ちゃんと関わっていないけれど、こんな場面でふざけるような人じゃない。まあ、天帝が近くにいて喧嘩を売りに行く事ぐらいは想像できなくもないけれど。


「一番ありえるのは、襲撃かな」


 途端に緊張が走る。音もなく、気配も無く襲撃されている可能性が一番高い。恐らく『具現』持ちだろう。まだ、首輪から警告音が響いてないから、負けてはいないだろうけど時間はかけていられない。


「面倒くさいけど、片っ端から調べるしかないか」


「その必要はねーよ」


 突如真後ろから声をかけられ、ほとんど反射的に刀を抜いて後ろに斬りかかる。


「おっと、中々素早い反応だな」


 だが、声をかけた男は反撃を予想していたのかあっさりと俺の一撃を躱す。


 振り向き相手の顔を確認する。そいつは俺もよく知っている人物だった。


「二階堂くんか。昨日と一緒で今は俺忙しいんだけど」


「そうかい。だけど、関係ねーな。今のオレはこの瞬間こそが全てだ。お前に負けたままじゃオレは前に歩けないんだよ」


 二階堂は待ちわびたという様子で俺と対峙している。


 けれど、一番の優先事項はコイツじゃない。


「後ろに向かって前進してよ。で、何? やるの?」


「昨日オレに勝ってだいぶ調子に乗ってるな。そんなにオレが弱そうに見えるか?」


 弱くは無いことは俺が知ってる。けど、恐い存在かと言われればそうでもない。


「言ったでしょ。急いでるんだ」


「お前のパートナーなら無事さ。どうしても、顔をみたいなら案内してやろうか?」


 余裕綽々で答える二階堂。


 どうやら、葵ちゃんをさらったのはコイツか、そのパートナーみたいだ。


「お願いするよ。ここで二階堂くんと戦って勝ったとしても、葵ちゃん探すのに手間取ったらいやだからね」


「ははは、お前本当に俺のこと舐めてやがるな。まあいい。お前のパートナーはすぐ近くにいるよ。どうしてもお前とはサシでやりたかったから無力化させてもらってはいるがな」


 さあ、次はどうするか。葵ちゃんの姿が見えたら迷わず二階堂くんを攻撃するのは確定だ。ただ、問題は二階堂くんのパートナーの存在だ。恐らく葵ちゃんをさらったのはそいつだろう。音も気配も無く、あっさりと葵ちゃんをさらっていった所を見ると、『具現』持ちは確定だろう。 


 さらに言えばこの瞬間にも狙われている可能性があるのだ。


 まあ、俺自身を狙うよりさらっている葵ちゃんを倒す方が簡単だと思うから、あんまり考慮しなくてもいいだろう。


 恐らくは俺にリベンジしたい二階堂が葵ちゃんを倒すのを止めていると考えるのが妥当か。


 俺が思考を巡らせていると二階堂はその場からあまり離れていない教室に向かって真っ直ぐに歩いて行く。


 あの教室に捕らわれているのかなと考え二階堂の後ろを歩く俺。この瞬間に後ろから攻撃してもいいならどれだけ楽だろう。ただ、葵ちゃんの姿を見つけるまでは攻撃できない。万が一、二階堂にもう一組、仲間がいたとしたら、二階堂がやられた瞬間に葵ちゃんが攻撃される可能性もあるからだ。


 それは向こうもわかっているのか、かなり無防備に歩いて行く。


 俺も気を張りながら付いて行く。いつでも攻撃できるように左手で刀の鞘を握りしめておく。


「ここだよ。さあ、入れ」


 案の定真っ直ぐ進んでいた、教室の入り口の前に立ち止まると教室のドアを開けて待ち構える。


 十中八九罠だ。まあ、あっさりと人質の所に連れて行ってくれる理由なんて本当はあるわけが無い。やるとしたら、罠にかけるか、それぐらいの余裕があるくらい強いかのどっちかだ。


 それでもまあ、やるしか無いし、進むしか無いのだが。


「わかったよ」


 言われるままドアに近づく。


 葵ちゃんの姿を教室の中に見つけて、二階堂の仲間がいなければすぐさま反転して二階堂を攻撃する。


 取り敢えずの行動指針を再確認し、覚悟を決めて教室の中を覗く。


 そこに葵ちゃんはいたし、二階堂の仲間もいなかった。けれど、俺はすぐさま二階堂に向かって攻撃へ移行できなかった。


 葵ちゃんの姿が不可解過ぎた。


 葵ちゃんはおおよそ人質らしからぬ格好だった。手足は縛られておらず。なのに教室の床に座り込んでひたすら床に手を這わせている。まるでメガネを落としたアニメキャラのようだ。


 俺の知っている葵ちゃんは捉えられてこんな風におとなしくしているタイプじゃない。暴れまわって一人で脱出するタイプだと思っている。それが、手も足も自由なのに黙ってたら得られている状況が理解できなかった。


「葵ちゃん?」


 思わず声が出る。その声に葵ちゃんが反応してこちらを向く。けれど、その瞳は俺に焦点が合っていない。あくまで声のする方向を向いただけだ。その瞬間、ようやく葵ちゃんの陥った状況を理解した。


 ヤバイ。もし葵ちゃんが陥っている状況が俺の想像した通りなら、一刻も早く二階堂を倒さないといけない。そう思い振り返ろうとするが、完全に振り向く前に二階堂に背中を突き飛ばされ、教室内の椅子を巻き込みながら転がる。


「天下くん。もしいるなら、すぐに敵を倒して! 出ないと」


 葵ちゃんが危機感を持った声で叫ぶ。けれど、その声をあざ笑うかのように二階堂が遮って詠唱を始める。


「光は真実を照らす。ゆえに私は光の届かぬ夜を求めた。『具現』『Night comes』」

分割です。中途半端で切れてスイマセン。


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