幕間 ジョーカーの切り方
少女の目覚ましは辺りから聞こえる悲鳴とカチャカチャと聞こえる金属音であった。
目覚めた少女は起き上がり辺りを見回す。
彼女の周りには自分と同じよにベッドに寝かされている生徒がたくさんいた。
ここは終着点である。保健室だと判断し、自身の現状を把握しようと思考を働かせる。
「ようやくお目覚めか、五十鈴鈴ちゃん」
声をかけてきた女性は火のついていないタバコを咥え、自分の隣に足を組んで椅子に座っている。
「全く、まさか脱落者第一号がジョーカーだなんて、さすがにびっくりしたよ」
「アナタは誰ですか」
恐らく教員であろう人を睨めつけながら五十鈴は自身の体を確かめる。
問題なく動き、痛みも感じない。不自然なほどに。
「うん? ああこれは失礼。今日学園に助っ人に来たばっかりだったな。私の名前は棺留美。この学園の保険医であり、お前を治療したものだ。。リンリン」
この人が治療したのかと、驚きながら見つめる。どうやら、腕はSランクらしい。
「変なあだ名を勝手に付けないでください。それと、今どうなってるんですか?」
「現状は、まだまだ序盤だ。まだ、部活連中の潰し合いとかやってるからな」
そう言われ、多少安心する。どうやら、倒されてずっと眠っていたわけでは無いみたいだ。さすがにこのまま戦挙が終わっていたら綏靖学園におめおめ帰れない。
「あと、一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
「私を倒した奴はまだ残ってるんですか?」
可愛らしい童顔からは想像もできない迫力を持って彼女は聞くがその質問を聞いた棺は大きく笑う。
周りには怪我と治療で悲鳴を上げているものもいる中で彼女の笑い声は不気味に響く。
「ははは、いやいや、失礼。残っているさ。ちなみにそいつらの名前も教えてやる。神乃天下と天上葵だ。二人共私のクラスの生徒でな、以外な活躍にびっくりだよ」
楽しそうに語る棺、だが、反面名前を聞かされた五十鈴は以外な名前に驚く。
「天上!? 天上家の人間がいるの!」
「ああん? ああ、そういえば、お前は九条の分家だったな。なら、天上の名前に反応するわけだ」
「訳がわからない。神武学園は蒼崎の管轄のはず。なら、天上家の人間がそんな学園を学び舎にするなんて――」
第一、そういう話ならニノマエが掴んであるはずである。
彼の得意分野は情報収集である。
そんな彼が目の敵にしている、天上家の重要な情報を掴んでいないわけがない。
「この戦挙、天上家に何か関係あるの?」
「私もよく知らんが、何らかの家の理由があるらしいぞ」
彼女は五十鈴から目をそらし、椅子から立ち上がる。
「では、そろそろジョーカーのお役を果たしてきてくれ。私もそろそろ増え始めたけが人の治療をしなくちゃいけない」
そうである。ジョーカーはこの試合をダレさせるのを防ぐ役目。ならば、それぞれが初戦を終え始め、中盤に差し掛かる辺りが一番の活躍どころである。
五十鈴も疑問こそ残っていたが、ここで考えても答えは出ない。
彼女もベッドから起き上がる。
「痛くないだろ? ジョーカーが早々と退場されると困るっていうんで、私も本気で治療したからな。ベストコンディションに近いはずだ」
「確かに、腕はいいようですね」
「まあな、馬鹿やって死にかけてる連中を死神から守るのが本職だからな。たとえ死体でもそこに魂があるなら生き返らしてやるよ」
「それじゃあ、今から戦挙に戻ります。もしかしたら、アナタの仕事が増えるかもしれないですけど、恨まないでくださいね」
「犠牲者第一号がよく言う」
「私も心をいれかえますよ。次は最初っから本気で行きます。別に『具現』を使ってもいいんでしょ?」
「……構わないさ」
そう言って、小柄な少女はツインテールを振りまきながら戦挙に向かって走っていった。
「……天下、頑張れよ。悪魔を一人目覚めさしたぞお前は」
五十鈴はまず部室棟へ行った。そこへ向かった理由は特にはない。ただ、一番騒がしかったというだけだ。
派手な乱闘が、開始から一時間近く経とうとしているのに一向に収まる気配は無く、至る所に気絶者が転がり、警告音がなり、回収班が一生懸命脱落者を戦場から運んでいた。
そんな中を五十鈴は特に慌てる様子もなく、隣で武器を持った人間達が殴りあっている中を悠然と歩き、水飲み場に辿り着く。そのまま、水道の蛇口に手をかけひねる。勢い良く水が流れ。五十鈴はその水に手を当てる。
そんな姿を見たラグビー部の男が五十鈴の背中から声をかける。
「おい、嬢ちゃん。こんな所でひどく余裕じゃねえか」
「……」
「オイ、聞いてんのか!」
「聞く必要があるの?」
「あーん!? どういう意味だ!」
「数秒後に倒れている人と会話する必要があるのって意味よ」
後ろから話しかけた男を振り返ることもなく答える。
その言葉を聞いた男は額に青筋を立て、顔を真っ赤にして吠える。
「上等だよ。女とはやりあわない主義だが、人を舐めてるやつは別だ。さっさと退場して後悔しやがれ」
男は拳を振り上げる。
攻撃を仕掛けてきた気配を五十鈴も感じている。けれども。彼女は慌てない。
慌てず騒がず、手を伝い流れる水に静かに語りかける。
「竜の渇きを癒すもの、清き水と真なる強者『具現』『リヴァイアサン』」
その瞬間、彼女の手を伝い重力に従って、上から下へと落ちていた水流が後方の拳を振り上げた者へと方向を変える。
「なっ!」
驚いた男は回避もせず振りかぶった腕をその水に巻き取られる。
そして、そのまま上へと持ち上げられる。
「オイ! 降ろせよ。テメェ」
「わかった」
そう言うと、ようやく五十鈴が男の方向へ振り向く
。
そして、冷たい笑顔を男に向けると、自身の右手を上から下へと振り下ろす。
その瞬間、男を持ち上げていた水が今度は男を地面へと叩きつける。
「ヒィィ!」
お化けでも見たかのように声にならない悲鳴を上げて男は地面へと叩きつけられる。
「ぎょぇううう」
一回の叩きつけでは気絶せず、半開きの口から呻き声を漏らす。
怯えた表情で男は五十鈴を見る。どうやら顔すら守れず、鼻の骨が折れているのかダラダラと血がたれ流れている。
そんな彼の悲惨な表情を見た五十鈴はゆっくりと、ハッキリと彼に向かって喋った。
「あらら、気絶しなかったんだ。残念。それじゃあ、もう一回ね」
その言葉を聞いた瞬間真っ赤に腫れ上がっていた顔が青ざめていく。
そして、宣言どうり彼の体がゆっくりと持ち上がっていく。
「ジェットコースターが一番恐い瞬間ってさ、頂点に登って行くあのゆっくりとした時間だと思うの。開始した瞬間から最高速のジェットコースターなんて論外。あの、もうレバーが降りてどうやっても逃げられない状況になって、覚悟を決めるしかなくなって、そんな覚悟を試すかのようなあのゆっくりとした時間。最高の恐怖よね」
「やぇえて、ごぇんなぁぁさぃ。ゆぃりゅひぃぃぇぇ」
顔面を強打しているからかハッキリと喋れなくなった彼をあざ笑うかのように、蛇のようにまとわりついている水が彼の体を先ほどの地点までゆっくりと持ち上げる。
「ぁぁあ、しょうだ。『まぁけぇぇ、ぐぽぽぽ!?』」
ラグビー部の男が思い出したように敗北宣言をして、首輪を強制的に赤く光らそうとする。けれど、それを素早く察知した五十鈴は内出血をして腫れ上がっている彼の口に水を流し込み言葉を遮る。
「ダーメ。アンタはもうジェットコースターに乗っちゃってるの。逃げれないの。だから、後は安全装置が外れない(怪我が小さい)ことだけを祈るしかないの」
ぐぽぐぽと口の中から泡が出ていく。必死に手足をもがかせるが、びくともしない。
「ゴートゥ、ヘル」
とても日本人チックな発音で数少ない彼女の知っている英語を喋ると同時に彼は地面へと叩きつけられる。
先程よりも勢いが良かったのか、地面が凹んでいた。
そしてようやく彼の首輪が赤く光り、警告音が響く。
一つの戦いが終わり、大きく一息五十鈴がつくと、あたりの人間が戦闘をやめてこちらを注目していることに気付く。
「丁度いいわ。注目されてるし名乗っときましょうか。綏靖学園序列十三位五十鈴鈴。覚悟してね。あなた達の死神だから」
大きく声を張り上げると同時に、五十鈴は先ほどまで男を吊り上げていた水を操り、水飲み場の水道の蛇口を全て開けさせる。
勢い良く流れる水。それは五十鈴が操っていた水流にドンドン吸収されていき、竜をかたどっていく。
ある程度の実力があるものはそれが見かけ倒しでは無いことに気づき逃げようとする。
「全てを飲み込め『リヴァイアサン』」
右手を前方へと突き出した瞬間、ダムが決壊したかのようにおびただしい量の水が竜の姿をかたどって襲いかかる。まずは外回りにまず出口へと回りこみ逃げていく生徒をくわえ込む。一周すると今度は更に内側に残っている者たちを飲み込んでいく。
「きゃぁぁぁ」
「マジかよ」
ほとんどの生徒達が状況を理解できずパニックになってそれぞれ叫ぶ。
彼らとて、戦挙で一時間以上耐えぬいている決して弱者とは呼べない者たちではある。
けれども、自身の理解を超えた力が自分に向かって降り掛かってくると冷静な考えなどできない。
ただただ、現状を嘆くのみである。
もしもこの瞬間に、言葉が喋れる瞬間に冷静になれていたのなら『敗北』を宣言できたのに。
荒れ狂う水流はとぐろを巻いた竜のような形になると動くのをやめる。そして、自身の体内に捕らえた者たちが溺れていくのを静かに待つ。一人、また一人と息が続かなくなったものから首輪が赤く染まっていく。水の中ゆえ、敗北宣言もできず、ただ苦しみながら意識を手放していく生徒たちを見ながら五十鈴は開幕時の負けを思い出す。
「待っていなさい。天上葵と神乃天下。アンタ達も最高の恐怖と苦しみを味わせてやる」
目の前で水竜の体の中で意識を失っていく者たちを見ながらジョーカーはゆっくりと復讐の炎を灯した。
スイマセン。また、脇役話でした。
次は主人公達が登場するはず……。
ご意見ご感想お待ちしております。
書いてくれると作者が泣いて喜びます




