幕間 勝者の行進
校庭に降り立った蒼崎は空を見上げながら、隣にいるパートナーに話しかける。
「今年も、結構集まったね。ただ、一年が多そうだけど」
「仕方ないんじゃないんですか? 真面目に勝ちを狙う人はあなたと戦いなんてしないでしょ」
「去年は結構、先輩やら、同級生やら集まってくれたけどね」
そう言いながら、辺りを見渡す。自分たちを武器を構えた生徒達が取り囲み、始まりの合図を今か今かと待ち構えている。
「ここが終ったら、どうする恋?」
「お好きなようにどうぞ。 私はただついて行くだけですよ」
「そんなことしてたら、『風のうしろを歩むもの』なんて二つ名がつくぞ」
「門番っていう二つ名よりはソッチのほうがいいですけどね」
暇つぶしの会話を続けていたが、ようやくお待ちかねのチャイムが鳴る。それと同時に学園長の声がスピーカーから響いてくる。
「皆の衆。この学園のメインイベントが今年もやってきた。今年はルールも凝っている。楽しんでくれ。それじゃあ、生徒会長決定戦。開始!」
「なんだよ。爺のやろう。味っけのない開幕をやってくれたもんだぜ。せめて『皆さんにはこれから殺し合いをしてもらいます』ぐらいのジョークは挟んでくれよ」
「不満を言う暇があったら周りの人たちに一言くらい声をかけて上げればどう? どうやら、百人近くがあなたと戦うために集まってるみたいよ」
「そうだね。では」
周りを見渡すと、多くの人間が跳びかかるタイミングを図っている。けれど、その第一歩を誰も切れない。怯えているのか、緊張で足まで震えている生徒もいる。
そんな中で蒼崎は全く臆すること無く、敵のどまんなかで声を高らかに宣言する。
「今日はみんな集まってくれてありがとう。本当はこのグラウンド一杯になるくらいの生徒とやりあいたかったんだけど、集まってくれただけで満足だよ。それじゃあみなさんやりましょうか」
その声を聞いた者たちは取り囲んでいた輪を徐々に縮めるように近づこうとする。
けれども、誰も、最初の一人にはなりたくないのか、最後の一歩を踏み出さない。
それを見て蒼崎は言葉を紡いでいく。
「栄光を手にするもの、その手に何も持たず。ただ、空を掴み拳を掲げる『具現』『神風』!」
言い切ると共に、立っていられないほどの風が吹き荒れる。
けれど、その風は蒼崎への、『天帝』へ跳びかかる勇気の後押しになった。
やられる前にやれ。
その思いで、取り囲んだ生徒は自らの武器を振り上げ、地面を蹴って飛びかかってくる。
「うぉおおおおおお!」
「死ねや!!!」
怒号と強風が吹き荒れるなか、周りにいた人は蒼崎の声を聞いた。
「遅すぎだね!」
蒼崎の声と共に、飛びかかった連中は空中から一瞬にして地面へとたたきつけられた。
「ぐへぇ!」
グシャリと、いう音と口から飛び出した呻き声がたたきつけられた男達から響いた後、一斉に首輪から警告音が流れる。
「強い風が吹いたらしゃがんでた方がいいよ。自分の足で立てない半人前ならね」
取り囲んだ連中は第一陣が一瞬でやられたのを見て、無意識に一歩下がる。
「おいおい、今更逃げないでね。せっかく来てくれたんだから、最後まで入念にサービスするから」
彼らが下がった一歩に合わせて、蒼崎は進む。
みんな、素手の男が自分に向かって歩くだけで、青ざめている。
武器を持っている側が脅されているようである。けれど、その行進がネズミ達の最後の恐怖の一線を超えた時ネズミ達は震える手で得物を握り、蒼崎へ一斉に噛み付いた。
けれど、あっさりと、さっきのシーンを巻き戻して観たかのように、同じように地面へと叩きつけられる。
あまりにもあっけなく。一瞬で地面に沈んでいく姿に周りの者は自分の姿を重ねる。
「ひ、ヒィー!」
その未来を想像できた連中は踵を返し逃げ出そうと走りはじめる。
「はぁー、逃げないでくれよ」
失望したようにつぶやく蒼崎は、逃げていく生徒に向かい手をかざす。
「一人遊びは苦手なんだよ」
つぶやきと共に逃げ出した一人の生徒が頭上から巨大なハンマーで叩かれたかのようにいきなりその場に倒れて気絶する。
それを確認し蒼崎は次の逃げた生徒に手をかざす。
同じようにその生徒も地面に叩きつけられる。
「簡単に逃げられないよ。僕の『具現』の有効範囲は広いからね」
そう言いながら、次々と逃げた生徒を潰していく。
もぐらたたきのように次々と地面へと叩きつけられ、次々と警告音が鳴り響く。
その耳障りな音は、取り囲んでいる人間達の精神を否応なく追い詰めていく。
武器を持って取り囲んでいたはずが、いつのまにやら、猛獣の檻に入れられた生きたエサの状態である。生徒達は自らが狩る側から、狩られる側になったことを悟り、武器をその場に捨てて、へなへなと座りこんだ。
「『負けた』、無理だったんだ。天帝に勝つなんて」
ある生徒が敗北宣言を言うと、周りの生徒達も思い出したかのように負けを認めていく。
その声に合わせ首輪が赤く光り、警告音がなる。
その音を聞き、露骨に嫌そうな顔を蒼崎が浮かべる。
「ありゃりゃ、なんだよ。みんなもっと遊んでくれよ。君たちは今日それで終わりでいいかもしれないけど、僕達今日一日戦わないといけないのにさ。簡単に諦めすぎだよ」
蒼崎はため息をつきながらその場を離れようとする。双鐘もそれに続こうとするが、そこに新入生らしき男が警告音鳴り響く中から割って入る。
「なあ、生徒会長さんよ。あんた見たところ退屈してんだろ。なら、俺が楽しくしてやるよ」
傲岸不遜な態度で蒼崎の前に立った男はニヤニヤと妙に癇に障る笑いを浮かべてこちらに話しかけてくる。
挑発などされたのはいつぶりであろう。
久しく、味わっていなかった嘗められるという行為に一瞬鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をしたが、すぐにその顔は笑顔に変わる。
「いるじゃん。生きのいいのが。そうだよね。やっぱり、この学園はそうじゃないと!」
「ははは、なあ、天帝。アンタ面白いね。自分が負けるわけ無いっていうその態度最高にいいぜ。だから、いまからその態度をぶち壊してやる」
男は自身の左腕の袖をまくり上げ、詠唱を口にする。
『具現』とは、自らの気を使って自分の世界を投影する行為に近い。ゆえに術者は自らの世界を反映させるトリガーとして、詠唱を口にするものが多い。
そうやって言葉を紡ぎ、自らに都合のいい現象を引き起こす。
「創造が神に許された芸術なら、私は破壊で芸術を表そう『具現』『ブロークン・アロー』」
言葉を言い切った瞬間から彼の左腕が眩い光を放つ。
その左腕に右手を合わし、弓を引くように右手を引く。
「なるほどね。『具現』まで発現はできていると。だからこその、ビックマウスか。一応名前聞いておこうか?」
「へっ、必要ねえよ。明日の朝には生徒会長だからな」
「ははは、謙虚さのかけらも無い。最高にイカしたルーキだね。やっぱりこうじゃないとね」
感心するかのように、挑戦者を見ながら蒼崎はつぶやく。
眼前で敵が能力を展開しても、その形状から能力が何んなのかわからなくても慌てていない。
「忠告だ。避けた方がいいと思うぜ。先輩」
「案外僕って天邪鬼なんだよね。そう言われると受け止めてみたくなる」
「会長、相手の能力がわからないのに受け止めるなんて馬鹿なことはやめて欲しいんですけど」
後ろから双鐘が蒼崎を咎める。けれど、本人は気にもしていない。
「大丈夫だよ、恋。それほどアイツのことを恐いと感じないからさ」
その返答に呆れながらも、いつものことなのか、それとも、蒼崎を信用しているのか、特にそれ以上口も出さずに静観し始める。
蒼崎は目の前の新入生に待ちきれないとばかりに手招きをする。
「さあ、思いっきり遊ぼうよ!」
新入生は弓を放つように左手に宿った光を蒼崎に向かって飛ばす。
けれど、蒼崎は避けもせずその光を見つめている。
「バーカ! 吹き飛べ!!」
その光が直撃すると、耳を塞がずにはいられないほどの爆音と地面がえぐれるほどの衝撃が起こる。
「へへ、やったか。バーカ、調子に乗ってるから。これで俺が――ー」
校庭の爆音が校舎に跳ね返りやまびこのように反響している中、巻き上がった土煙に向かって、新入生は得意げに喋っていたが、その声は土煙の中から発せられた声で遮られる。
「新入生。キミに3つほど、先輩である僕から話をしよう。まずは、一つめ、大口を叩くのは嫌いじゃない。けど、恐い奴の前じゃ、絶対にそんな事言わないことだね。僕は優しいから別に怒ってないけど、相手によったら、二度と学園に来たくなくなるぐらいボコボコにしてくる奴いるからさ。二つめは、俺の話だ。俺の具現は『神風』と名付けた理由さ。僕の具現は攻撃よりも防御の方に自信があってさ、だからこそ、『神風』と名付けた。神風は本来大切なものを守るために吹くからね。決して命知らずの特攻をすることを指すんじゃないことを覚えて欲しい。3つ目は、この学園でのこれからだ。この学園、キミより強い奴なんてゴロゴロいるし、ゴロゴロ生まれる。何時だって、手に入れた序列を下から脅かされる毎日さ。それは、僕だってそうだし、キミだってそうさ。だからこそ、面白くて、だからこそ、夢中になれる。キミが僕を脅かす存在になれることを楽しみに待ってるよ。ああ、それともう一つ。『やったか!?』なんて、絶対に言っちゃ駄目だよ。そういう時は大概相手は無事だからね」
土煙を一瞬で吹き飛ばし、蒼崎が笑いながら歩いて近づいていく。
その行進はゆっくりだが、新入生は動こうとしない。蛇に睨まれたカエルのように、ただ、蒼崎の目を苦しそうに見つめるだけだ。
「降参は宣言しないの?」
「……」
新入生は答えない。ただひたすら蒼崎の目を見続ける。それが彼にできる唯一の抵抗だとでもいうように。
頭をかきながら、新入生の前に立った蒼崎は関心したように、話しかける。
「オーケー。キミは強くなれるよ。最後まで戦い続けてるからね。牙も爪も折れても、心が折れなきゃ、まだ終わりじゃない。だから、敬意を表し全力を尽くすよ」
蒼崎は新入生の胸に拳を当て、足を地面がヘコむほど踏み込む。
「烈空!」
中国拳法の寸勁のような動作で放たれた一撃は無抵抗な新入生にまともに入る
ドン!
水の入ったドラム缶をハンマ―で殴ったような音が鳴り、辺りに鋭い風が吹く。
一瞬の間が開いた後、目の前の新入生は白目を向いてその場に倒れこむ。
新入生の胸は軽く陥没していたが、この学園の保険医なら問題なく治療するだろう。
「初戦としては、『具現』使えるやつまで出てきて、わりと楽しかったかな。ただ、もう少し乱戦を期待したんだけどね」
「お楽しみはこれからじゃないですか? それで、次はどうします?」
うんざりしたかのような顔で双鐘が話しかける。
「しばらくは休憩する? それとも、恋も戦いたい?」
「私は遠慮しときますよ。あんまり、戦闘に向いている『具現』でもないですし」
「そう。なら、ゆっくりできそうな場所を探そうか。まだまだ、これからだし、続きは中盤以降の強者狙いだね」
そう言いながら、勝者は大きなクレータと小さなクレータ数個を校庭に残しゆっくりと校庭を後にした。
ゴメンナサイ。
投稿遅れました。
これからはもうちょっとペース上げれるよう頑張ります。
今回は天帝さんのお話でした。
天帝さんのお話が長いのは偉いひとのお約束だということで
感想ご意見。お待ちしております。




