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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
17/50

ボーイミーツガールで始まる戦争 2

 決戦当日の朝、俺の目覚めは最悪だった。


「オェェェェ」


「大丈夫、天下くん? もうすぐ出ないと間に合わないわよ」


 朝、ベッドで目覚めた後、一人トイレで吐いていた。


「だ、大丈夫だよ葵ちゃん。だから、先に学校行っといて、俺は後から自転車で行くから」


 全くもって自分が情けない。昨日、二階堂と戦った後、葵ちゃんと軽く手合わせして、夕食を作って、食べて、風呂入って寝るまで普通だったのに。朝、起きた瞬間から、胃の中の物をひたすら便器に向かってぶちまけてる。


 自分でわかる。食中毒などではない、単に精神的な問題だ。


 朝から何度も、自分の負けと幼き時の刀を捨てさせられた時の記憶がフラッシュバックする。


 負けが恐い。


 今までまともに敵対することのなかった、学園の強者と戦い敗北する自分をイメージしてしまう。


 そんな俺に葵ちゃんが声をかける。


「……天下くん。一つだけ言っとく。信じてるから」


 その声は小さかった。だが、力強かった。


 その後、すぐに玄関のドアの音がした。恐らく葵ちゃんが出発したのだろう。

 

「……俺みたいなヘタレを信用するなんて、見る目ないよな葵ちゃんって。俺が葵ちゃんの立場だったら引きずってでも学校に連れて行くけどな」


 ああ、誰だって俺みたいなヘタレがトイレでこもってたら、学園に行かないことを心配するだろう。


 なのに、彼女は俺に言われた通り、学園に一人で向かってしまった。


 俺のセリフが一人にしてくれって聞こえたのか? いや、そうじゃないだろう、どうせ一昨日俺と知り合って俺のヘタレ具合をよくわかってないだけだ。


 でも、信用をあっさりと失うのも、


「もったいないよね」


 トイレで呟きながら、もう一度便器に向かって吐こうとする。


 けれど、もう吐き出すものはなく、口の中が胃液で酸っぱくなっただけだった。


「気分は最悪、体調も最悪か。これ以上底は無さそうなコンディションだ」


 自分の現状に笑いながら、口元を拭う。


「それでも、やるしか無いんだよな」


 葵ちゃんの姿を頭に浮かべる。


 もう、ここまで来たらやるしか無い。それに、


「ここで学校行かなきゃきっと俺は殺される」


 一時間以上トイレに篭った俺はようやく、トイレから出て口をゆすぐ。


 時計を見れば、開始まで三十分ほどある。


 急いで、着替える。


 朝食は食べたほうがいいのだろうが、さすがに口の中に押し込んでも道端で吐いている自分が容易い想像できたので、姉が買ってあった飴玉をポケットにたくさん詰め込んで、一つ口に放り込み玄関へと出た。


「自転車で登校も久しぶりだな」


 そう言って、自転車に跨る。


 別に慌てなくても、葵ちゃんと合流して、話ができるぐらい、時間には余裕があるはずだった。


 家から自転車で飛び出す。


 さすがに戦挙当日である今朝は学園へのんびり歩いている生徒は見かけない。


 空いた歩道をスイスイと進む。


「まあ、誰かと交通事故でも起こさない限り十分間に合うね」


 こういうのをフラグっていうんだろうか。


 呟いた瞬間、脇道からパンを加えた小柄な少女が飛び出してきた。


「まじかよ!」


 慌ててブレーキをかけるが、間に合わない。


 どん! 


 小柄な少女の体が宙を舞った。


 ……撥ねちゃった。


 やっべぇー、やっちまった。どうする? パンを咥えたかわいい少女と登校中にぶつかったらどうする? マンガで考えると教科書や荷物を拾ってあげて、朝のホームルームで再開して、恋が始まるのか。……ありえないな。取り敢えず、まずは病院に電話か。ああ、ゴメン葵ちゃん。時間内に間に合わない気がする。


 けれど、混乱して訳の分からないことを考えている俺を余所に少女は空中で体勢を整える。


 まるで、体操選手の鉄棒のフィニッシュのように華麗な三回転を決めて、道路に着地する。


「ちょっと、痛いわね。どこ見て走ってんのよ!」 


 着地を決めた少女はこちらを睨み、ぶつかった場所をさすっている。


 ぶつかった少女は、小柄な体躯であり、髪をツインテールにしていた。


 一見すると、小学生かと見間違えるほど、可愛らしい童顔と子供っぽい雰囲気ではあったが、服装が神武学園の制服であることから、高校生であることがわかる。


 なるほど、神武の生徒なら自転車に跳ね飛ばされたあと、空中三回転を決めて着地するのも理解できる。


「す、スイマセン。急いでてて。じゃあ、俺も急いでるんでごめんなさい」


 怪我もないなら急がないと、いけない。遅刻するとヤバイのである。


 俺は自転車を再び漕ぎだそうとする。


「あー! 私の焼きそばパンが地面に落ちてる。ちょっと、アンタどうしてくれんのよ」


 でも、彼女はまだ俺に絡もうとしてくる。


 だが、金で解決できるのなら、なんとかなる。


「わかりました。弁償するから許してください」


 そう言って、ポケットに手をやる。けれど、いつも入っている財布はそこには無く。代わりに飴玉が大量に入っていた。


「……百五十円。時間無いからそれで許してやる」


 汗が額から吹き出る。


「……どうした?」


 少女は不機嫌そうに俺を睨みつけている。


「……ごめんなさい。後日払います」


 そう言って、俺は逃げることを選択した。


 これ以上絡まれて時間を潰すわけにも行かないし、家に帰るわけにもいかない。


 逃げるしか無い気がした。


「……、どうしてこうもツイてないのかな。いきなり、神武学園に飛ばされ、お姉様とは離れ離れ。朝起きたら遅刻ギリギリで急いで登校、朝ごはんはコンビニのパン。更にそれすら、見知らぬ最低な男とぶつかって地面に落とす。おまけに犯人は逃げた。もう、限界。確かあの制服は神武の生徒よね。なら、多少はストレス解消してもいいよね。お姉様」


 ブツブツと少女がつぶやく声が聞こえる。


 内容は、……聞こえない。聞こえたくない。


「ちょっと、待ちなさい。半殺しで片をつけてあげるから」


 後ろを振り向く、少女は陸上のクラウチングスタートの構えを取っていた。


「待たないなら、こっちから行く! ヨーイドン」


 ロケットのように少女は加速し、恐るべき勢いで俺の自転車へと近づく。


「!? 速すぎだろ」


 俺も立ち漕ぎでスピードを上げる。


 けれど、じんわりと近づいている気がする。


 幸い、もうすぐ学園だ。取り敢えず学園の中に入れば、戦挙が始まるまでは手が出せない。


「逃げるな!」


 そう言うなら、溢れんばかりの殺気を納めてくれと思いつつ、必死に逃げる。


 赤か青か信号の色を確認せずに、何個かの信号を超えた後、ようやく学園が見えてくる。


 近づくにつれ、校門に立っている女の子の姿が目に留まる。


 葵ちゃんである。

 向こうもただごとならない表情で必死に自転車を漕いでいる俺に気づいたらしい。


 ふと、後ろを見る。やっぱりだんだん距離は縮まっている。


「こうなったら、トコトン逃げてやる」


 俺は葵ちゃんに向かって大声で叫ぶ。


「葵ちゃん、チャリに飛び乗れ!」


 俺は別段スピードを緩めることなく学園へと飛び込んでいく。


 葵ちゃんは、何事!? という顔をしていたが、タイミングを合わせて俺のチャリの荷台に飛び乗った。


「一体どうしたの?」


「登校中に美少女とぶつかったら、恋が始まらず殺人が始まりかけたから逃げてる」


 よく考えれば、七、八割俺が悪いけれど、そこは黙っておいた。


「??? それより、天下くん。取り敢えずこの首輪つけておいて」


「うん? これって」


「戦挙参加者がつける首輪。私が先に受け取っておいたの」


「ありがと。あと、後ろ見てくれる。まだ、追ってきてる?」


「……キミ、何したの? すっごい形相で追いかけてきてるよ」


 うーん、ひき逃げかな?


 学園の中を全速力で自転車で逃げ回っていると、学園全体に聞こえる、大きなチャイムが鳴る。それと同時に学園長の声が聞こえる。


「皆の衆。この学園のメインイベントが今年もやってきた。今年はルールも凝っている。楽しんでくれ。それじゃあ、生徒会長決定戦。開始!」


 学園長の渋めな声が力強く開幕を告げ、同時に辺りが一気に騒がしくなる。


 オーケー、戦挙が始まるなら、こっちからも仕掛けてやる。


「葵ちゃん。『放出』は使えるって言ってたよね?」


「うん。それで、後ろの子を攻撃すればいいの?」


「いや、十分に気を練ってくれ。とっておきのタイミングを作るから」


 そう言って、学園内で一番ひと気の無い、裏庭方面に自転車を漕ぐ。


 二人乗りになったせいで、大分距離も詰まっている。長くは逃げられない。


 かと言って、正面切って戦うのもちょっと遠慮したい。


「迎撃の準備はオーケー?」


 後ろに向かって声をかける。


「いつでも」


 力強い返事に気も楽になる。


「いつまでも、逃げるな! かかってきなさいよ」


 追跡者の声が聞こえてくる。


 ああ、もうすぐやってやる。


 ただし、俺の舞台でな。


 裏庭を突っ切り、自転車で横滑りしながら校舎に隠れるように道を曲がる。


 一瞬俺たちの姿は彼女の目には見えなくなる。


「逃げ切れると思うな。どこまででも、追ってやる」


 彼女は逃げる俺を追いかけて、同じように裏庭から校舎側に入る道についてくる。


 そこで、俺がようやく、自転車を降りて少女と正面から対峙する。


「ようやく、覚悟を決めた?」


「そうだね。逃げまわるのも疲れたし」


 その時、少女が気づく。


「アンタ、後ろに乗せてた女の子は?」


「え! いるじゃん。キミの後ろに」


 俺がそういった瞬間、彼女は後ろを振り向く。が、誰もいない。


「嘘だよ!」


 俺が声をかけ、再びこちらに敵意を向けるが、そこを葵ちゃんが攻撃する!


 真正面から? いや、頭上からである。


 彼女が俺たちを見失う一瞬に葵ちゃんは校舎の壁にできている凹凸に飛びついてもらった。


 そして、タイミングを見計らって攻撃してもらう。


「はぁぁあ!」


 葵ちゃんが気合を込め十分に練りこんだ気を刀を通じて少女の頭上から放つ。


 力強い気の塊が飛ぶ斬撃となって少女に襲いかかる。


「嘘! 何で上から」


 驚きが少女の回避を一瞬遅らせ、頭上からの一撃をまともに食らう。


 まともに葵ちゃんの『放出』を食らった少女はその勢いを受け流すこともできず吹き飛んで、そのまま気を失っていた。程なく彼女がつけていた首輪も赤い印が灯っている。


 パン!


 俺は葵ちゃんとハイタッチをする。


「さっすがー、葵ちゃんのおかげで何とかなったね」


「そうね」


 そういった彼女は刀を鞘に収めつつ、警戒を解かない。


 当たり前だ。もう戦いは始まっているのだから。


 けれど、俺はそんな雰囲気をぶち壊した。


「葵ちゃん、こんな時に悪いんだけど、百五十円貸してくれない?」


「この状況で何言ってるの?」


「必ず返すから」


 そう言って、戦場で顔の前で手を合わせ葵ちゃんにお願いする。


「?? はい」


 あまり相手にするのも馬鹿らしいのか、すぐさまお金は渡される。


 そして、それをすぐさま、倒れている少女の手に握らせる。


「焼きそばパンごめんね」


 初戦を終えた俺は目の前の犠牲者に謝りながら、自転車を放置し戦場へと進んでいった。


ジョーカ役の五十鈴さんが最初の犠牲者でした。


彼女はあっさり負けましたが、きっと強い筈なんで、次に期待ですね。


次の戦いの相手はあまり考えて無いんですが、部活をしている人間との戦いにしたいと思っています。


何部を出せというリクエストがあれば、応えたいと考えているので、希望があればお願いします。


感想いただけると嬉しいです。(ついに初感想いただきました)


では、次は少し更新が遅くなると思いますが、よろしくお願いします。


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