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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
18/50

ここが地獄の一丁目 1

「次はどうする?」


 歩き始めた俺はひと気の無さそうな場所を選びつつ、次の行動について相談する。


「真正面から敵を倒すって言ったら反対するんでしょ? ならまず、天下くんの案を聞きたい」


「隠れて待機が一番だけど、ジョーカーが恐いので、そこそこ戦いには参加したいんだよね」


「ジョーカーにビビり過ぎじゃない? 案外ジョーカー倒されてたりして?」


「この戦挙において重要な役目を担うジョーカーだよ。そんな簡単に負けないでしょ。最低限『具現』ぐらいは使えるんじゃない?」


「でも、なんか簡単に負けてる気がするんだよね」


 なぜか妙に自身をもって発言している。


 これが女の勘だろうか?


「まあ、それはいいとして、次に俺が提案するのはあえて激戦区に行きます」


 俺の言葉を聞き葵ちゃんが意外そうな目でこちらを見る。


「驚いた。天下くんも暴れたかったの?」


「いやいや、勘違いしないでよ。別に戦うつもりはあんまり無い。激戦区に行くって言っても、人が入り乱れている乱戦してる場所じゃなくて、部活同士の対抗戦をしている所にいこうと思う」


「うん?」


 不思議そうな顔をして、葵ちゃんが俺の話に乗ってくる。


「この戦挙は多人数対多人数の大規模な戦闘が公にできるイベントだから、日頃揉めてるグループ同士で戦うことが多いんだ。葵ちゃんも一昨日サッカー部と野球部が揉めてたの見たでしょ?」


「うん」


「そいつらは、大体戦闘場所を公に公開して、戦闘を邪魔されるのを防ぐんだ。戦挙に勝つことを目指す奴は、わざわざ戦挙捨てて戦ってる奴らの邪魔する気は無いからさ。それを逆手に利用しようと思う」


 我ながら賭けのような提案ではあるが、葵ちゃんは特に不満も漏らさず聞いている。


「つまり、そういった大勢対大勢の戦争をしている場所に紛れ込み、戦闘が佳境になるのを待つ。そして、そいつらの戦闘が終わったら残党を俺たちが叩く。後は、しばらくその場所でゆっくり待てばいい。戦挙そのものが中盤から終盤になるまでそこに近づく奴はいないだろうからね」


 そこまで言った時初めて葵ちゃんが不満そうに顔を歪ませる。


「ハイエナみたいね」


「それぐらいは我慢してよ。大事なのは勝つことだから」


 不満そうな顔は変わらないが、ハッキリとした否定の言葉を述べないから、ある程度は譲歩してくれるんだろう。


「それで? どこに行くの?」


「特別棟の多目的ホール」


 この学園の多目的ホールはかなり大きく。サッカーグラウンドぐらいの大きさはある。


「それでどことどこが戦ってるの?」


「野球部とサッカー部」


「何で屋外スポーツの連中が室内で戦ってるのよ!」


 葵ちゃんが突っ込まずにいられないといった風に突っ込む。


「あいつらが使用権争ってるグラウンドを戦挙で天帝が使うって噂が流れた瞬間、二つの部活が天帝と戦うのを避けて多目的ホールになったらしい」


「学校のグラウンドの使用権をかけて争ってるのに、天帝に怯えてるの? なんかカッコ悪い」


「そう言ってやるなよ。葵ちゃんは天帝の戦いを見たこと無いんだろ? あんまり関わりたくないよアレは」


 去年の戦いを思い出す。


 俺自身は早めに退場とはなったが、後半戦を治療棟のテレビ中継で見ていた。


 アレは災害レベルの化物だった。


 台風に石を投げるのを勇敢とは言わない。


 馬鹿っていうんだ。


 それを避ける行為を馬鹿にする気はなかった。


「取り敢えず多目的ホールへ向かいましょう。ここで話をするよりはよっぽどいいと思う」


 葵ちゃんの言葉に頷いて俺も多目的ホールに足を向ける。


 はぁー、何とか俺の提案を呑んでもらってよかった。後の心配は、殺気溢れる戦場で葵ちゃんが気配を殺してじっとしていられるかだな。




 もしも、死屍累々という場面を現代日本で見るならここがそれだった。


 多目的ホールには、無数の野球ボール、バット、サッカーボール、そして、力尽きた選手たちが横たわっていた。


 力尽きた選手達は学園の治療班が邪魔にならないように一人ひとり回収していた。


 そんな様子を俺たちは気配を殺し、多目的ホールの外の窓から、中をこっそりと覗く。


「案外早く片が付きそうね。サッカー部も野球部も消耗しててもうすぐ終わりそうね」


 中では死闘も終盤でサッカー部が残り二人、野球部十人となっていた。


 今年は野球部の勝ちかな。


 佳境に入った戦闘で、野球部キャプテンが残ったサッカー部の主将とゴールキーパーに言葉をなげかけている。


「もう降参しろよ。負けを認めんのはカッコ悪いことじゃないぜ? このままやっても怪我するだけだ」


「うるせえ、諦めたらそこで試合終了なんだよ!」


「はっ! そんな考えだから負けるんだよ。これは試合じゃない。いつも守るスポーツマンシップもクソも無い。だから、人数の少ないお前らに俺らは全員で挑む。悪く思うな。今の降伏勧告が最後の慈悲だぜ」


「ぬかせよ。立場が逆なら、諦めるのか?」


 劣勢なサッカー部がそう言うと、野球部主将は嬉しそうに笑う。


「そうだよな。悪かったよ。じゃあ、派手に散らしてやるぜ」


「こっちのセリフだ!」


 叫ぶと共に、サッカー部主将が走りだし、目の前に落ちていたサッカーボールを蹴る。


 気合と執念がこもったサッカーボールが野球部主将に向かって飛んでいく。


 けれど、野球部主将は落ち着いて、持っている金属バットを構える。


「どれだけ、重たい球でも。どれだけ速い球でも、俺が金属バットを持っているならば打ち返すのみ!」


 ひらりと半身をずらし、球に向かってフルスイングする。


 ゴッ!


 重たい音と共にサッカーボールがへしゃげていく。


 けれど、気が篭っているのか、普通のサッカーボールなら裂けるだろうと思われる程変形しても、バットに喰らいつく。


「流石だ。だが、負けるわけにはいかねーんだよ!」


 一瞬球の威力が勝ったのかバットが押されたように見えたが、野球部主将は強引にバットを振りぬく。


「フンヌラバ!」


 サッカー部の主将が蹴ったのと変わらぬほどの威力を持ったサッカーボールが今度はサッカー部に向かって飛んでいく。


 けれど、サッカー部主将は回避行動を取ろうとしない。


「オイラを忘れんじゃないぜ!」


 サッカー部主将の前に主将のパートナーである、ゴールキーパーの格好をした男が割って入り、打ち返されたボールを受け止める。


「よくやった!」


 その瞬間、野球部主将に向かってサッカー部主将が飛び込む。


 空中を歩くように飛んだ男は野球部特有の坊主頭に向かい、左足を大きく振り上げる。


「黄金の左足を喰らいな!」


「大した跳躍力と度胸だぜ。だから、代打後藤!」


「うっす!」


 野球部主将はその場にしゃがみこみ、蹴りを躱す。


 そして、その躱した左足に向かって、代打を命じられた男がバットを振り込む。


 鈍い音が響くが、軍配は野球部に上がる。


 彼の蹴りは弾かれ、サッカー部主将は足を抑えてその場にうずくまる。


「うぐぅ」


「黄金の左足ってネーミングはやめたほうがいいと思うぜ。黄金は結構柔らかいからな」


「余計な、……お世話だ」


 だが、もう一度サッカー部主将がもう一度立ち上がる。


 ふらふらしながら痛みに唇を噛み締めている。


「さすがの根性だな。だが、残念今度こそ負けだ」


 野球部主将が言うと同時にサッカー部の主将の首輪からピーピーと音が響く。


 サッカー部主将が後ろを振り向くと、金属バットを持った野球部員がキーパーを囲み、その輪の中で気絶していた。


「若林! 畜生ここで、終わりか。……残念だよ。じゃあ、残りの戦い頑張れよ」


 悔しそうではあったが、サッカー部主将は爽やかに言うと、キーパーを抱えて多目的ホールを出ていった。


「キャプテン。アイツいつもと違って、気持ちのいいやつでしたね」


「戦いが終ったらみんな仲間なんだとよ。そんな精神だから、気に入らねえんだよ」


 勝者であるはずの野球部は少し落ち込んだトーンで喋る。


 そして、窓で覗いている俺たちの方を向く。


 アレ? もしかしてバレてた。


「はぁー、用事は終わったから窓で覗いてる奴、入ってこいよ」


 どうやら、完全にバレているらしい。


 本来俺の作戦だと、戦いが終わって気が抜けている所を奇襲するはずだったんだけれど。


 まあいいや。随分向こうも消耗しているみたいだし、やってやりましょうかね。


「天下くん。どうするの?」


「当然、パーティーに招待されたら受けるのが礼儀だね。ただ、残飯を喰い散らかしても文句言われる筋合いはないよね。招待されたんだからさ」


 彼らが創りだした地獄に俺たちは踏み込んだ。





少し間が開いてしまいましたスイマセン。


次から野球部との対戦です。


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