幕間 どうせこの世は一天地六 1
なんか、アップロードがうまくいかないのでまた分割です。
その少女は絶望していた。
まだ始まって間もない自分の人生に。自らの才能に。
始まりは商店街のくじ引きだった。
たまたま引いた紙が、一等だった。
次は数字選択式の宝くじだった。
指が動くままに数字を選んだクジが当たった。
最後は、新聞に乗っていたセンター試験だった。彼女が選んだ答えはすべて正解だった。当時小学生低学年の少女がである。
彼女の両親は娘を娘として見なくなった。
その瞬間、彼女は金のなる木であり、寿家の神だった。
幼い少女の地獄はそこから始まった。
いつでも、娘の顔色を伺う両親。軽い怪我をするだけで、一緒に遊んでいた子供を怒鳴り散らす両親。
彼女は大切にされたがゆえに、親の愛を知らず、友達との友情を失い、全てに絶望した。
そんな彼女がこの学園に来たのは、親元を離れて生活したかったから。
当然両親は反対したが、自らの命を盾にとり、強引にこの学園に入学することを許可させた。
自分と同じように特別な才能を持った人間がいるこの学園に多少は期待をして、この学園の門をくぐったが、入学して一ヶ月。
確かに、この学園は狂ったように毎日騒がしいけれど、寿 幸が望んだものとは違っていた。
「戦挙も別に興味はないのよね」
腰まで伸びた栗色の軽いウェーブのかかった髪を持ち、色白の肌で病院の窓際が似合いそうな一見、薄幸の美少女のような雰囲気を漂わせた少女、寿幸は一人教室でつぶやいた。
教室には自分以外にもクラスメートが大勢いるが、自分の周りに人は寄ってこない。
入学したての頃は、そこそこ人が話しかけて来たのだけれど、二週間前に自らが引き起こした騒ぎ以来、あまり人が近づかなくなった。
「結局は、一緒か」
つぶやく彼女は外国の硬貨を指で弾いて自らの手の甲に乗せ、違う手で伏せる。結果は決まりきっている。
自分が望んだ方が上になっている。
「表かな」
つぶやき確かめると、コインは表になっている。
「親から離れれば、何かが変わると夢見たけれど。何にも変わらないのかな?」
ブツブツと呟きながら、器用にコイントスを続けていく。
何度も、何度も同じようにコインが宙を舞い、そのすべての表と裏を当てた。
『グッドラック』彼女の呪いとも言える、能力であり、彼女がたどりついた『具現』の形だった。
自身が直接関与することで起きる事象を自らの望む方向へ分岐させることができる。
例えば、サイコロの出目を予言しふれば、そのとおりの目が出る。
ただし、自身がサイコロを振らなければその効果は発揮できない。
この、暇つぶしのコイントスも彼女が振らなければ、表か裏かは50:50。けれど、彼女が振れば100%望んだ方向へシフトせされるのである。
同級生達は彼女の奇行とも呼べる暇つぶしを遠目で一瞥しながらも、明日に迫った戦挙の話題で盛り上がっていた。
彼らは一年生であり、初めて体験するこの学園の大イベントである戦挙に興奮を隠しけれない様子だった。
「――とコンビ組んだんだ。絶対勝ちあがってやるぜ」
「私は、友達と組んだんだ」
楽しそうな会話に混ざらず、ただコイントスをしながら時間を潰す。
今日までに相方を見つけなければ、教師側が勝手に決めた相手とパートナーを組むことになる。でも、それで良かった。
寿は深い溜息をつく。
「他人に運命を委ねる方がきっと正しい。アタシが選べばきっと、歪んじゃうから」
昼休み、自分で作ったお弁当を机に広げる。
寿は一人暮らしであるため、お弁当は自分で作っている。
今まで、包丁すら持たしてくれなかったため、自身で料理をするのが寿の密かな楽しみであった。
基本的にいつもつらそうな顔を浮かべている彼女がうれしそうな顔をして、自作弁当に箸をつけていく。
そんな、寿の学園での唯一の幸福な時間をとても共有できそうもない人間が教室に入ってくる。
男の髪型はリーゼント、ついでに似合わないサングラスをかけている。
時代錯誤の不良であり、病弱そうな雰囲気を漂わせる寿とは接点のかけらもなさそうな男だった。
「おまえ、寿幸だな」
「いただきます」
「おい! 聞いてんのか!?」
「うーん、卵焼きは中々うまく焼けたかな」
「無視すんなや!」
机に手を叩きつける。
自らの食事を邪魔されて、ようやく寿が不良に向かって目をやる。
その目はゴミを見るかのように冷ややかだ。
「話がある」
「見てわからない? どう見ても食事中でアナタみたいな人と話す余裕なんてなさそうなんだけど
」
「まあ、我慢してくれ。俺の名前は二階堂陣。序列百位の二年生だ。なあ、俺と一緒に戦挙に出ないか」
「断る」
さも当然といった風に答える。
「それじゃあ、話は終了ね。さっさと自分の教室に帰ってくれない。せ、ん、ぱ、い」
「この一年が。調子にのんなよ。わざわざ先輩が足運んだっていうのに、なんだその態度はよ!」
「この学園じゃ、年齢よりも序列の方が大事なんでしょ? ならアタシはアナタより偉いはず」
吠える二階堂に対して、一歩も引くことなく寿が答える。
「テメェ、ラッキーで序列上位者倒したからって、調子にのんなよ」
沸点に到達した二階堂が拳を握る。いつでも、殴りかかりそうである。
だが、二階堂が拳を振りかぶるよりも先に寿が彼の顔面に向かって銃を構えた。
「て、テメエ、どういうつもりだよ! 今日は戦闘行為をしたら……」
「だったら、何? 私は別に序列に興味もないし戦挙だってどうでもいい。ただ、アタシの楽しみであるお弁当の時間を汚されるのは我慢ならない」
慌てて二階堂が後退り(あとずさ)する。額に汗を浮かべながら、寿を見る。
「し、知ってるんだぜ。その銃は『トリガーハッピー』って呼ばれてる銃だろ。その銃は撃つ前に願かけをしなけりゃただの銃だ。だから、今引き金を引いても大したことはない。たかが拳銃でこの学園の序列上位者を倒せると」
「残念ね。アタシ趣味が料理とコイントスなんだけど。ついつい、やりすぎて百回オーバで成功しちゃってるんだよね。それと、アタシがこの銃を使う際の願かけは”コイントスの成功数”なのよ!」
そう、この銃は彼女が学園に入学するときに護身用に彼女が自ら手に入れた大金をはたいて、手に入れた曰くつきの拳銃。
持ち主が銃を使用する際、それまで。行なっていた願かけに応じその威力が左右される。
現在の彼女が引き金を引けば、目の前の男が戦挙前に壊れるのは目に見えていた。
「ハッタリだ! それに戦挙前なのに本気で引き金を引けるわけが――」
「だったら、試しましょうよ!」
寿の引き金にかかった指に力が入る。
「わかった。畜生。戦挙前に怪我したくないからな、勘弁してやるよ」
その迫力に圧倒され、二階堂がついに引き下がり、教室から出ていく。
よほどイライラが溜まっているのか、教室を出てすぐ見つけた綺麗な凛とした女の子を連れた冴えない男の子に絡みに行っていた。
「――ふぅー」
緊張の糸が切れたのか大きく息をついて、『トリガーハッピー』を腰に巻いたホルスターにしまう。
この学園で面倒なことに巻き込まれたのは二回目ではあるが、慣れはしなかった。
初めての時は、序列をちらつかせ、新入生の女の子を強引にデートに誘おうとするクズだった。
2週間前、声をかけられはっきりと断ってもしつこく迫り、最終的には暴力を使おうとしたため、『トリガーハッピー』を使って撃退した。
問題はそいつの序列が高すぎたことだった。
この学園では序列はイベントでもない限り、直接対決では序列が入れ替わる。そのため、序列三十位という序列をいきなり手にした。この序列が彼女の周りから人を遠ざける原因の一つになった。
いきなり見せつけられた『トリガーハッピー』の威力と高すぎる序列は、周りに壁を作ってしまった。
寿に挑戦しようとする人間こそいても、彼女が求めた"友達"になろうとする人間はいなかった。
もし、寿が社交的な性格なら何とかなったかもしれないが、幼い頃から両親に軟禁されるように育った少女は自分からうまく話すことができなかった。
目の前に広げているお弁当に目をやる。この学園に入る前は、自分で作ったお弁当を友達と机を合わせて仲良く食べるはずだった。けれども、今の自分の周りには誰もいない。
ふと、クラスメートと目が合うと、慌てて彼女から目を離す。
先ほどの騒ぎのせいで和気あいあいとおしゃべりに花を咲かせていた教室は静まり返っている。
そんな教室に居づらさを感じ、お弁当を片づけ、逃げるように、隠れるようにトイレへと駆け込んだ。
個室に入り鍵を閉め、彼女は涙を浮かべながらつぶやく
「こんな筈じゃ、……無かったのに」
昼休みが終わるまで彼女が顔をあげることはなかった。




