第7話
第7話 騎士、母になる
王城を後にしたドゥンは、街へ戻った。
歩きながら。
ドゥンは、ラピスのことを考えていた。
十代前半。
あの年頃の少年が、森の中で一人。
親もいない。
帰る場所もない。
しかも、ドラゴンに遭遇している。
「……」
ドゥンは小さく息を吐いた。
この街は、王国でも比較的大きな街だ。
商人も多く、冒険者も集まる。
騎士団の詰所もあり、ドラゴンが出ればすぐに討伐隊が組まれる。
だが。
それでも、この国ではドラゴンの脅威がなくなることはない。
街の外へ出れば、危険はすぐそこにある。
そんな場所に。
あの少年を一人で置いておくわけにはいかない。
「……親は、いないのか」
本人からは何も聞いていない。
だが。
あの少年の様子を思い出す。
王族のような服。
妙に落ち着いた態度。
そして。
何より――
あまりにも無防備だった。
「……放っておけないな」
ドゥンはそう呟いた。
自分が面倒を見るしかない。
そう思った。
「……あたしが、ちゃんと見てやらないと」
ドゥンは足を止める。
そして。
ふっと笑った。
「……ママにならなきゃね」
その日の夜。
ドゥンの家。
「……すぅ」
ラピスは、まだ眠っていた。
一日。
二日。
起きる気配はない。
ドゥンは何度も様子を見に行った。
「よく寝る子ねぇ……」
それでも。
無理に起こすことはしなかった。
三日目の朝。
「……ん」
ラピスが、ゆっくり目を開けた。
「……」
しばらく天井を見つめる。
そして。
「……お腹すいた」
その声を聞いて。
ドゥンはすぐに部屋へ入った。
「起きたのね」
「……うん」
「おはよう、ラピス」
「おはよう」
ドゥンは優しく笑った。
「よく眠れた?」
「……寝すぎた気がする」
「二日も寝てたもの」
「……二日?」
ラピスは目を丸くした。
「そんなに?」
「ええ。疲れてたのね」
ドゥンはそう言って。
ラピスの頭を軽く撫でた。
「まずは顔を洗ってらっしゃい」
「……うん」
ラピスは素直に頷いた。
ドゥンはその背中を見送る。
「……ほんと、手のかかる子ねぇ」
けれど。
その声は。
どこか嬉しそうだった。
◇
ラピスは言われた通り、顔を洗いに向かった。
冷たい水が顔にかかる。
「……」
もう一度。
ばしゃっ。
「……」
三度目。
ばしゃっ。
ようやく、頭がはっきりしてきた。
ラピスは鏡を見る。
「……」
そして。
「……ここ、どこだっけ?」
しばらく考える。
昨日まで森にいた。
ドラゴンを食べた。
そのあと、王国騎士だという男についてきた。
「……」
少しずつ思い出してきた。
「……そうだ」
ここは、あの騎士の家だ。
ラピスは部屋へ戻った。
すると。
先ほどの男がいた。
「おかえり」
「……ただいま?」
ラピスは少し首を傾げる。
そして。
「そういえば」
男を見る。
「名前、聞いてなかった」
「あら、そうだった?」
男は笑った。
「俺はドゥン」
「ドゥン……」
ラピスは、その名前を口にする。
「僕はラピス」
「知ってるわ」
「……そっか」
ラピスは頷いた。
そして。
「ドゥン」
「なに?」
「ここ、どこ?」
「……今さら?」
ドゥンは思わず笑った。
「ここはあたしの家よ」
「……そうなんだ」
ラピスは部屋を見回す。
屋根がある。
ベッドがある。
普通の家。
「……悪くない」
ぽつりと呟いた。
ドゥンは、その言葉を聞いて少しだけ笑った。
◇
ラピスはドゥンをじっと見る。
「……」
少し考えて。
「ドゥン」
「なに?」
「男なのに、なんで女みたいなの?」
ドゥンは一瞬、黙った。
そして。
「ふふっ」
小さく笑う。
「そうねぇ」
ドゥンは腰に手を当てる。
「家では、あたしはお母さんなの」
「……お母さん?」
「そう」
ドゥンはラピスを見る。
「今日から、あんたのママね」
「……ママ?」
「そうよ」
ラピスは少し考える。
そして。
「……分かった」
あっさり頷いた。
ドゥンは目を丸くする。
「え、受け入れるの早くない?」
「だって」
ラピスは首を傾げる。
「寝るところもあるし」
「そこなの?」
「うん」
ドゥンは思わず笑った。
「……変な子ねぇ」
「よく言われる」
「誰に?」
「……」
ラピスは黙った。
「……誰にも」
その答えに。
ドゥンは一瞬だけ表情を変えた。
けれど。
すぐに笑って。
「ほら、朝ご飯にしましょう」
「うん」
ラピスはドゥンについていった。




