第6話
第6話 王子、眠り続ける
街では。
ある噂が広がっていた。
「聞いたか?」
「何を?」
「ドラゴンを食べた少年がいるらしい」
「……は?」
「森で発見されたんだと」
「ドラゴンを食べた?」
「一頭丸ごとだってよ」
「嘘だろ……」
街の人々は、その噂に驚いていた。
ドラゴンは、この国にとって身近な脅威だ。
街を襲い。
建物を焼き。
人々を恐怖に陥れる。
だからこそ、ドラゴンを討伐する騎士や冒険者は、街の人々から信頼されている。
そんなドラゴンを――
食べた。
それも。
一頭丸ごと。
「誰がそんなことしたんだ?」
「それが、まだよく分からないらしい」
「少年だったって話だぞ」
「少年?」
「青い髪の……王族みたいな服を着ていたとか」
「王族?」
街の人々は顔を見合わせる。
そんな中。
一つの名前が出た。
「……ドゥンが連れてきたらしいぞ」
「ドゥン?」
「ああ」
その名を聞いた途端。
街の空気が少し変わった。
ドゥン。
王国騎士の中でも、上位に位置する騎士。
ドラゴン討伐にも参加するほどの実力を持つ。
「じゃあ、その少年をドゥンが?」
「そうらしい」
「一体、何者なんだ……?」
誰も答えを知らなかった。
そして。
その頃。
騎士団の訓練場では――
「構えろ!」
ドゥンの声が響いていた。
「遅い!」
剣と剣がぶつかる。
鋭い音が訓練場に響く。
騎士たちは必死に剣を振る。
ドゥンはその動きを一人ずつ確認していく。
「足が止まっている!」
「もっと腰を落とせ!」
「ドラゴン相手なら、その一瞬が命取りになるぞ!」
厳しい訓練だった。
騎士たちは汗を流しながら、必死についていく。
そして。
訓練が終わる。
「今日はここまでだ!」
騎士たちが息を切らす。
ドゥンは剣を収める。
「……」
ふと。
自宅にいる少年のことを思い出した。
「……あいつ、起きたかな」
その頃。
ドゥンの家では――
「……すぅ」
ラピスは寝ていた。
ぐっすりと。
昨日も。
今日も。
ずっと。
「……すぅ……」
街で噂になっていることも。
騎士団が訓練していることも。
自分が何者なのか調べられていることも。
ラピスは何も知らない。
ただ。
ひたすら眠っていた。
◇
その日の夕方。
ドゥンのもとに、王城から呼び出しが入った。
「……陛下から?」
「ああ」
ドゥンは短く返事をすると、王城へ向かった。
王城。
その最奥にある謁見の間。
そこには、この国の王がいた。
「来たか、ドゥン」
「お呼びと聞き、参上しました」
ドゥンは王の前で跪く。
「楽にしろ」
「失礼します」
ドゥンは立ち上がった。
王とは、以前から何度も顔を合わせている。
上位騎士であるドゥンは、王から直接命令を受けることも多い。
だからこそ。
王も、単刀直入に本題へ入った。
「ドラゴンを食べたという少年の話を聞いた」
「……はい」
「お前が連れてきたそうだな」
「その通りです」
王の表情が変わる。
「何者だ?」
ドゥンは少し黙った。
「まだ、分かっていません」
「分かっていない?」
「はい」
「身元は?」
「本人からは何も聞けていません」
王は眉を寄せる。
「名前は?」
「ラピス、と名乗りました」
「ラピス……」
王はその名を繰り返した。
「年齢は?」
「十代前半ほどかと」
「魔力は?」
その質問に。
ドゥンは少しだけ考えた。
「……そこも、まだ判断できません」
「そうか」
王は椅子に深く腰掛ける。
「ドラゴンを一頭、食べたというのは本当なのか?」
「本人は、そう言っています」
「本人は?」
「はい」
ドゥンは静かに答える。
「ですが、私はまだその少年を信用しているわけではありません」
王は黙ってドゥンを見る。
「危険な人物の可能性もあると?」
「可能性はあります」
「ならば、なぜ連れて帰った?」
ドゥンは少し間を置いて答えた。
「森に一人でいました」
「……」
「この国はドラゴンの襲撃が続いています。あの場所に置いておくのは危険でした」
王は頷く。
「それで、自宅に?」
「はい」
「随分と面倒見がいいな」
「放っておけなかっただけです」
王は小さく笑った。
だが。
すぐに表情を戻す。
「ドゥン」
「はい」
「その少年について、もう少し調べろ」
「承知しました」
「だが、まだ騒ぎにはするな」
「分かっています」
ドゥンは頷いた。
「しばらく様子を見ます」
王はそれ以上、何も言わなかった。
「頼んだぞ」
「お任せください」
ドゥンは一礼する。
そして。
王城を後にした。
その頃。
ドゥンの家では――
「……すぅ」
ラピスは、まだ眠っていた。
第7話は29日の0時更新( * ॑꒳ ॑*)
スローライフの幕開けです♩
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