第2話
第2話 王子、指名手配される
森の中を歩いて、三時間。
ラピスは木の根元に座り込んでいた。
「……疲れた」
膝を抱える。
歩くのは嫌いではない。
ただ、三時間も歩くものではないと思う。
「眠い……」
ラピスはそのまま目を閉じた。
すると。
「――いたぞ!」
遠くから声が聞こえた。
「……ん?」
ラピスは目を開けた。
森の向こうから、何人もの騎士が走ってくる。
「ラピス王子!」
「……僕?」
ラピスは自分を指差した。
騎士たちは剣を抜いた。
「抵抗するな!」
「え?」
「王都へ戻っていただく!」
ラピスは首を傾げた。
「……なんで?」
騎士の一人が、手にした紙を広げる。
そこには、ラピスの顔が描かれていた。
そして、その下には大きく――
指名手配
と書かれている。
「…………」
ラピスは紙を見た。
自分の似顔絵。
名前。
王族の紋章。
そして、その下に並ぶ罪状。
「……僕、何したの?」
騎士が答える。
「王城離れの破壊」
「それは……まあ」
ラピスは目を逸らした。
「王都からの逃亡」
「それも……まあ」
「そして――」
騎士の声が低くなる。
「国王陛下ならびに王妃殿下の殺害容疑」
「…………」
ラピスの目が止まった。
「父と母が?」
「今朝、王城で発見された」
騎士は剣を構えた。
「お二人は、何者かによって殺害された」
ラピスは黙った。
父。
母。
嫌いだった。
ずっと。
自分を捨てた。
自分を王子として扱わなかった。
それでも――
殺したのは、自分じゃない。
「……僕、出ていったときには生きてたよ」
「証明できますか?」
「……できない」
ラピスは空を見上げた。
嫌な予感がした。
誰かが、自分に罪を被せようとしている。
そして最悪なのは。
「僕が最後に王城を出た王族だから……」
「そういうことです」
騎士が一歩近づく。
ラピスは立ち上がった。
指揮棒を握る。
「……面倒だな」
騎士たちが身構える。
ラピスはため息をついた。
「僕、殺してないんだけど」
「ならば王都までご同行願います」
「嫌」
「なっ――」
ラピスが指揮棒を横へ振った。
――ゴォッ!!
森の中を風が駆け抜ける。
騎士たちの身体が一斉に浮き上がった。
「うわぁぁぁぁっ!」
次々と木の葉の向こうへ飛んでいく。
ラピスは指揮棒をしまった。
「……これでいいや」
そして歩き出す。
自分が指名手配された理由も。
両親を殺した犯人も。
なぜ自分が狙われているのかも。
まだ何も分からない。
ただ一つだけ。
ラピスには分かっていた。
「……帰る場所、なくなったな」
少しだけ寂しそうに呟いて。
それから――
「まあ、いいか」
また歩き出した。
こうして。
王家から捨てられた王子は、
王国から追われる指名手配犯になった。
そして誰も知らない。
その少年が握る一本の指揮棒が――
やがて、この国そのものを揺るがすことを。




