雪国の王子様の過去。3
「頭を上げて下さい」
私の言葉にエイリッヒは顔を上げると、瞳からポロポロと涙を流していた。
私はそんなエイリッヒにハンカチを差し出すと、エイリッヒはそれを両手で受け取り目元に当てる。
「……申し訳ない。こんなみっともない姿を晒してしまい」
「いえ、その涙であなたの心が綺麗なのが伝わりましたわ」
私が微笑むとエイリッヒも穏やかな表情になった。
「ありがとうございます……アリシア嬢。私も貴女のことをもっと知りたい。色々とお話し頂けますか?」
「ええ、ならばわたくしのちまたで噂されている辛辣令嬢と言われた理由からお話し致しますわ」
「はい。お願いします……」
私はエイリッヒに色々と話した。
幼少期の許嫁だった王子の事、私が性格を変えて辛辣令嬢と呼ばれるようになった事、その後にアレクとの出会いと屋敷が襲撃された時にアレクが助けてくれた事を……
「そんな事が……」
「はい。だから、アレクは婚約者である前にわたくしの命の恩人なのです」
胸に手を当てながら私がアレクへの想いをエイリッヒに話すと、彼は少し寂しそうな顔をした後、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「アリシア嬢。私も貴女を幸せにして見せます。ですから……どうか私を見て頂けませんか?」
「それは……」
「アレク殿下を貴女がどれほど愛しているのかは分かりました……ですが、この国には貴女が必要なのです。ここは氷に閉ざされた国ですが、私は貴女を必ず幸せにしてみせます!」
エイリッヒはそう言って私の瞳を見つめてくる。
その瞳は真剣そのもので、その言葉にも嘘偽りがないのが分かる。
しかし、私の心には今もアレクへの想いがある。
「……ごめんなさい。私にはアレクがいます。何度あなたに告白されても、わたくしの心は動かないですわ」
「それでも! 何度でも私は貴女に告白し続けます! 何度でも、何度でも……」
真剣な彼の瞳を見ていると吸い込まれてしまいそうで、私は咄嗟に視線を逸らした。
「……この話は終わりに致しましょう。わたくしはあなたの事も知りたいですわ」
「私の事……ですか? 分かりました。貴女の過去だけ聞いて私が話さないのはフェアではありませんからね……」
エイリッヒはそう言って雪の降り続ける窓を見た。
「あれは私がまだ幼く非力だった頃の話です……私には歳の近い親友がいました。彼の名前はロウ。我々には生まれた時から動物に変身できる力があります。ロウは狼に変身する事ができました」
遠くを見つめているエイリッヒの瞳は懐かしさの中に哀しみを感じられた。
その後、エイリッヒは淡々と昔話を始める……




