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五大老筆頭 徳川家康  作者: 牛熊


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10.関ヶ原の戦い -9

「完全に包囲されたのを見て動揺する東軍。しかし、ワシは小姓の持つ旗を切り捨て、刀を振りかざして叫び声を上げ味方を鼓舞。そして先手を取って攻めかかるよう命じる。西軍が反撃してきても慌てることなく対処し、逆に自らが前線へと駆け上がって攻め手を押し返す。そして返す刀で松尾山城へと鉄砲を撃ち込み、小早川秀秋よ従わぬとあらばお主ごと西軍を打ち破ってやろうと叫んで...」


「何適当なこと言ってるんですか。功績をあげようと味方が一番槍を奪い合って勝手に攻めかかり、西軍に逆襲されて泥試合に突入。前線が崩壊しかけたから本陣を前に出して耐え、その間に秀秋様たちが寝返って、西軍に襲いかかって決着がついただけでしょ。忠勝様から話は聞いてますからね。第一、松尾山城に向けて鉄砲を撃ったところで、どう考えても届かないでしょう」


 芝居がかった仕草で話す家康を前に、秀忠は呆れ果てながら話を訂正する。


 家康や大名たちが大勝に酔って調子に乗るのは仕方なく、決戦に間に合わなかった秀忠からすればあまり強くは出れない。


 それでもまだ大阪城にいる毛利輝元らがどう出るか分からない今、油断しきった家康をこのまま放置するわけにもいかなかった。



 秀忠はため息をつきながら家康に質問し始める。


「先手を取って攻めた割には押し返されたと聞きました」


「いや、三成殿や秀家殿の軍が強くて...。山沿いに防御陣地築いてるとかずるくないか?こっちは霧で周囲も見えず、仕方なく適当に部隊配置しただけだぞ」


「なんでそんな状況で攻めかかってるんですか...」


「戦い始めてから状況が判明したんだよ!それに、包囲されてたから先手を取らないとどうにもならん。軍を反転させるわけにもいかんし、前方に突撃するしか選択肢はない」


「で、結局秀秋様はなんで松尾山城を襲ったのですか?」


「毛利家や宇喜多家からあれこれ言われ続けて、遂に我慢が限界を越えたんだと。踏み絵と称して攻城を命じられたり、豊臣家への忠誠心を見せろとか言われてたらしい。そもそも会津征伐に向かう途中に勝手に巻き込んだくせに、信頼がどうとか寝言を言うなと酒飲みながら叫んでた」


「....子供ですか。まあ、まだ19歳だから子供みたいなものですけど」


 子供の癇癪で天下を二分にする戦が始まり、その子供が暴れて勝敗も決まったという事実を前に、生真面目な秀忠は頭が痛くなってきた。



「戦いの後にはすぐに佐和山城攻めを提案したくらいだし、豊臣政権そのものに対する恨みを溜め込んでいたんだろ」


「はあ、そうですか。でも秀秋様の寝返りを大谷吉継様は見抜いていたんですよね?兵数差が10倍以上あるというのに、奇襲した小早川勢が追い返されたと聞きましたが」


「おう、あれは壮絶だったな。準備万端整えていたというのもあるが、吉継殿の実力が垣間見れた瞬間だったわ。時間差で寝返った脇坂安治殿たちがいなければ、あのまま耐え続けたかもしれん」


 吉継が耐えていれば負けたのは東軍かもしれなかったというのに、家康は目を輝かせながら喋る。


 他の大名や武将たちもだが、久々の戦がかつてない大軍同士のぶつかり合いということもあり、活躍した者に関しては敵味方関係なく称賛が集まっていた。



「麓に展開していた部隊は本来小早川勢を止めるためのものですよね?ただ、それらの大名たちも会津征伐に参加する予定のところを捕まったようですし、三成様はあまり信頼すべきではなかったように思えます」


「そうだな。三成殿がどこまで信頼していたのかはわからんが、他に動かせそうな部隊がいなかったというのが実態だな。あのまま松尾山城を放置すれば、寝返りが続発して会戦を挑む前に西軍は瓦解していた。関ヶ原で会戦を挑むつもりは最初からなかったのだろうが、秀秋殿のことも含めぎりぎりの状況で最善を尽くしたということだ。実際、寝返りがなければ負けていたのはワシらの方だからな」


「安治様を調略したのは藤堂高虎様でしたか?今後も重臣として大事にしましょうね。で、なんで島津家に突撃を受けるような羽目になったのですか?」


「本陣を前進させすぎて、気がついたら島津勢と小西勢の目の前にいた。ちょうど道を塞ぐような場所に位置していたのもよくなかった」


「それは突撃されますね...」


 呆れ果てる秀忠を前に、家康は戦とはそんなものだとしたり顔を見せていた。





 関ヶ原の戦いは開始が10時頃で終了が昼過ぎと、驚くほど短時間で決着がついている。


 秀秋が裏切るのを躊躇う時間もさほど無く、戦闘が本格化したあたりで広範囲に霧が晴れ、松尾山城から状況が把握できるようになって裏切ったと考える方が妥当である。


 裏切り者として有名な秀秋だが、実際のところ秀秋は土壇場で裏切りを決めたわけではなく、ずっと前から徳川に付くことを表明し書状も家康に送っていた。


 西軍も城に向けて一部の軍を配置しており、秀秋の寝返りを予見していたと言える。



 そもそも西軍についている大名からして、秀秋のように会津征伐に参戦予定だったところを巻き込まれただけの者が多く、積極的に西軍のために戦おうとせず裏切るのはおかしな話ではない。


 吉川広家が毛利秀元の進軍の邪魔をしたという話もあるが、関ヶ原の戦いが短時間で決着したことを考えると、毛利勢や長束勢らが動き出す前に秀秋の攻撃が始まっただけという面もあった。



 毛利家にしても吉川広家を経由して、西軍総大将の毛利輝元が家康と寝返り交渉をしていたりと、積極的に西軍挙兵に関わった割には方針が定まっていない。


 輝元が東軍・西軍を両天秤にかけていたのは間違いないが、毛利勢の総指揮官であった毛利秀元は蚊帳の外に置かれており、策を弄しすぎて現場の統率を失ってしまったのは完全に輝元の失敗である。



 また、西軍は総大将である毛利輝元が大阪城に滞在したままで、関ヶ原の戦いは誰が指揮していたのかも曖昧である。


 大垣城に入っていた三成や秀家が作戦の発案者であることは間違いないが、両者と同格である毛利勢からすればその指示に従うかどうかは現場指揮官の秀本次第であり、西軍側の指揮系統が統一されていなかったという問題も存在している。


 そういう意味では、西軍が当初関ヶ原で会戦を挑む予定ではなかったのは間違いなく、秀秋の謀反を乗り越えてここまで盤面を持ち直したことは見事というしかない。



 戦いは小早川秀秋が14日に松尾山城を奪ったことから始まっているが、三成らが大阪城と連絡を取り合うには時間が不足している。


 輝元が出陣しても間に合うはずもないが、輝元が現地にいて指示を下すことが可能であれば、寝返りの約束を破って東軍の背後を攻めていたかもしれない。


 家康がその日赤坂に着陣したのは偶然だが、結果としては総大将が前線にいたかどうかの差がこの戦いの趨勢を決したとも言える。



 東軍も関ヶ原に急行した結果、南宮山に展開していた毛利家や長束家の部隊の目の前を素通りし、結果的に背後を抑えられるなどかなり軽率な動きを見せている。

 

 こうなってくると東軍も会戦を挑もうと西軍を誘い出したというよりは、小早川勢と合流しようとして思いがけず西軍と直面し、そのまま戦いに雪崩込んだようにしか見えない。




 松尾山城をきっかけに偶発的な戦闘が始まり、西軍の一部が寝返って東軍に合流し、そのまま決着がついてしまったということであれば、驚くほどの短時間で決着したことと整合性が取れる。


 ただ、天下分け目の決戦と呼ばれる戦いが双方グダグダの状況から始まり、よく分からないまま決着がついてしまったというのは、名だたる武将たちの活躍を期待していた第三者からすれば受け入れがたい話であったのかもしれない。



 なお東軍は勝利したものの、西軍との戦いにおいて家康と秀忠の両名が討たれかけるという、最悪の事態に片足を突っ込んでいた。


 島津家と真田家の両家がやり過ぎていた場合、関ヶ原の戦いは文字通り勝者のいない戦いとなっており、その後の日本は秀吉以前の時代に戻っていたであろうことは間違いない。





 秀忠と叫び合った後、疲れて休んでいた家康に本多正信はそっと近づき耳打ちする。



「で、三方ヶ原の如く漏らしたのですか?」


「...............してない」


「.........2枚目の絵を用意しておきますね」


「してないって言ってるだろ!」



 関ヶ原の戦いは歴史的な戦として知られているが、資料内容が一致しないものや不明瞭な点も多く、未だ全貌が掴めていない戦の1つでもある。



 島津家が家康の本陣に突入した際に、家康が漏らさずに済んだのか。


 それを証明する資料は今のところ発見されていない。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  素直に描かれるとグダグダの泥試合がたったひとつの幸運(全軍の意志決定を出来る存在が現地に居たか居なかったか)で勝敗を決したカタチだったと言うのは良質なコメディのようで笑う( ̄∀ ̄)しかし…
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