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五大老筆頭 徳川家康  作者: 牛熊


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9.会津征伐 -6

 家康率いる軍は6月16日に大阪城を出陣するが7月2日に江戸に到着と、有事の動きからすると遅い速度で進軍していた。



「こんなに進軍が遅くて良いのか?」


 もっと早く進軍させろと言いたげに、本多忠勝は暗に圧力をかけるように家康に聞いた。


「良い。久々の戦だから、調練がてら色々と確認しながらの方が良いだろう。どうせ西日本の大名が来るまで時間はかかるしな。それに時間をかけることにも意味がある。秀吉殿がやっていたアレをやりたいと思っていたんだ」


「アレ?」


「威をもって攻めるという奴だ。北条家とか相手にやってただろ。上杉家は既に周囲を囲まれており、稼ぎにありつこうと参戦する者も増えている。このような状況にあっては上杉家も強く出ることは難しく、直接戦わずとも圧力に負けて降伏してくる者が出てくるに違いない」


「はぁ...」


「北条もそうだったが、大きな口を叩いていても、いざ戦となれば腰が引ける者は多い。初戦で大軍を見せつけて相手のやる気さえ削げば、後は調略して切り崩していくだけよ」


「かなり都合の良い計画だな。というか、途中で鷹狩りしたのは調練ではなく、単に趣味なだけだろ...」


 忠勝は久々の戦で変な調子になっているのかという目で家康を見る。


 徳川家中において家康の戦の手腕は信用されておらず、特に調子に乗っているは毎回のごとく失態を見せていたのを周りの者たちは思い出す。


 しかし、当の家康は至極真面目な顔をして続ける。



「周囲に援軍もいない上杉家に何ができる?功を焦って自軍の統率が取れなくなる方がよほど恐ろしいわ。まともに戦う気があるのかも怪しい大名たちもいるしな」


「途上で長束正家殿の饗応を拒否して素通りしたが、あれは暗殺の噂を本気で警戒したということか?相手の面目は丸潰れだぞ」


「あれは相手をさせてすまなかったな。あんなのは噂を警戒したというより、単に意趣返しなだけだ。正家殿たちが協力してくれていれば、わざわざこんな戦をする必要もなかったんだからな」


「まあ、そのあたりは好きにしてくれて構わん。それと、殿は前回の戦は東北征伐で合っているな?」


「そうだな。結構経つな」


「ふむ、5年以上は期間が空いているな。参戦している他家の軍にしても戦は久々、若者の中には初陣といった者も多いだろう」


「つまり?」


「まともに軍が機能するか?ところどころで結構やらかす可能性は高いぞ」


「......まぁ、上杉家も似たようなものだから」


「それであれば、直近で戦の経験のある唐入り組を中心に戦わせるべきだな。上杉は経験豊富な武将たちを集めている。期間が空いているとはいえ、経験不足な者たちには荷が重いだろう」


「いやそれは不味い。あやつらの功績が大きくなりすぎると、第2の上杉家を生み出しかねん。大老の地位をよこせと言い出したら禍根を残すぞ」


「面倒だな。なんでこんなことを考えながら戦わなければならんのか...」


「文句は上杉家に言え」



 征伐に参加する大名は割り当てられた進軍経路に沿って順次合流する手筈となっていた。


 しかし、全ての大名が予定通りに合流できたわけではない。



 前田家と丹羽家は双方相手の準備を待ってから出陣すると言い出し、ある種談合のような形で出陣が遅れに遅れる。


 堀家は領内で旧上杉家臣が不穏な動きを見せたことに加え、合流予定の前田家と丹羽家がいつまで経っても来ないため進軍できなくなった。


 宇喜多家などは7月2日にようやく出陣式を行っているくらいであり、他にも西日本の大名には遅参する者が多く、関東・東北の大名を中心にいくつかの部隊に分けて侵攻する手筈が整えられることとなる。






 慶長5年7月19日。

 江戸城から徳川秀忠が率いる軍勢が出陣。


 本多忠勝を始めとする徳川家の譜代の家臣を中心に、真田信幸などの親徳川派の大名で構成された4万近い主力部隊となる。



「秀忠。功を焦って無理に攻めなくていいからな。本格的な攻勢はワシらや西日本の大名が着いてからでいいぞ」


「かしこまりました。父上。他方面からの侵攻状況も踏まえ、周りの者に意見を聞きながら進軍します」


 家康は出陣前の秀忠たちに声をかけて回る。


 久々の戦ということもあって緊張している者も多く、特に実質的な総大将を任されている秀忠には周囲からの期待が圧力としてかかっていた。


 徳川家の関係者を秀忠の軍勢に集め、外様大名を家康の軍勢に集めているのも、秀忠が少しでもやりやすくするための配慮である。



「相手がどう出てくるかはまだ分からん。まずは様子を探りつつ進んでいけ。信幸殿、申し訳ないが秀忠のことをよろしく頼む」


 家康は側にいた信幸に向かって軽く頭を下げる。


「お任せ下さい。非才の身ではありますが全力を尽くします」


「戦にめっぽう強い信幸殿が付いてくれるだけで安心できます。......ところで、お父上は?」


「......元気にしております。今回もかなり張り切っていまして......」


「......なるほど。討伐の方に力を入れて頂けるなら何より...」



 家康は、まさか余計なことはしでかさないよな?という目で信幸を見る。


 信幸もそのあたりは察しており、今回は流石に大人しくすると思いますという目で見返す。



 あの迷惑製造装置が本当に大人しく従軍するのか。


 まさか土壇場で上杉家に寝返ったりはしないだろうか。


 元々真田家は上杉家と交流があり、三成は真田家を経由して上杉家とやりとりもしている。


 このような状況にあって、家康と信幸は最悪の事態を懸念していた。



 そして2人の懸念通り、信幸の父こと真田昌幸は後に余計なことをしでかすのだった。

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