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五大老筆頭 徳川家康  作者: 牛熊


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5.唐入り -2

 忠勝を康政の隣に座らせ、家康は説明を始める。



「以前から秀吉殿に聞かされた話では、朝鮮出兵の目的は諸大名の力を削ぐことにある。戦が上手くいき、有利な形で年貢や貿易権を獲得できれば儲けものだが、そちらは本命ではない」


「意味が分からん」


「まあ、これだけだとそうだろうな。いいか、豊臣政権は短期間で天下を統一した。これは外交を絡めた勢力拡大を上手く活用したことによる。毛利が分かりやすい例だが、敵を上手く取り込み、別の敵を攻める際に助力させる。その繰り返しで順番に地方の有力大名を落としていったわけだ」


「殿もそれでやられましたからね」


「...康政の言う通り。しかし、このやり方にも問題がある。外様である有力大名がある程度勢力を維持した状態で残ってしまった。秀吉殿が健在な間は大丈夫だろうが、何かあれば再び暴れ出す者も出てくるだろう」


「上杉とか、伊達とか、島津とかだな。やっていいなら徳川もやるぞ」


「四国の長宗我部や、中国の毛利は?」


「長宗我部は仙石秀久によって軍や人材が崩壊したらしい。毛利は豊臣から別格の扱いを受けているので、わざわざ反抗する必要もない」


「止めてくれ忠勝...。普通なら一門衆や譜代の家臣に領地を割り当てるところだが、秀吉殿は出自もあってそういった人材が極端に少ない。先の問題は領地運営を任せられる人材が乏しかったせいというのもある。とはいえ、この状況から諸大名の粛清を始めることも難しい。そこで唐入りにより諸大名の力を削ぐという話に繋がってくる。勝ち目のない戦に兵と金を注ぎ込ませ、政権への反抗の力を奪いたいわけだ」




 秀吉の出自は外交や政権運営にも影響を及ぼしていた。


 秀吉は出自によって低く見られることが多く、一方でどの家とも因縁のない状態で外交を進めることができた。


 また、しがらみの無さが秀吉の躍進を支えた一方、人材層の薄さが明らかに足を引っ張っており、人材の育成や他家からの人材獲得にはかなり力を注いでいた。


 そのため諸大名を排除しきれなかった面もあるが、政権が不安定になれば諸大名が再び暴れ始める危険性を抱えてしまったことで、後々の政権運営に大きな支障をきたすこととなる。




 忠勝と康政がいまいち納得してないのを見て、正信が補足を入れる。



「現状、豊臣政権は諸大名による連合体です。近畿・中国は抑えていますが、東北の一揆のように地方は依然として不安定。安定した政権運営を実現するために、地方の力を削いで中央集権化を進めなくてはいけません。子供が夜眠れずに暴れて困っているなら、その元気も無くすくらい疲れされようという計画です」


「なるほど。暴れる前にとにかく走らせようというわけだな」


「地方の国人衆を従わせるため、族滅手前くらいまで叩きのめしておくような感じですね」


「大体その認識であってます」


「出兵に失敗した場合、政権の権勢に傷がつくのではないのか?」


「それはありますが、その程度で今の秀吉様が困ることはないでしょう。何と言っても関白ですし。武と政治の両面の頂点に立っている以上、下が多少不満を抱えたところで何もできません。そもそも、海を越えた領地などまともに運営できると思いますか?」


「...確かに。私は中国、今は明でしたっけ?がどの辺りにあるのかもよく分かってません」


「朝鮮出兵は唐入り、つまり明も攻略対象です。しかし、どのようにして朝鮮や明を攻めるのか、何をすれば戦略目標が達成されるのかも曖昧です。もう、この時点で上手くいかせる気はありませんよね。しかし、各大名には軍役が課せられているため、兵を出さないわけにはいきません。もちろん、戦が上手くいけば秀吉殿としても構わないでしょう。外に領地を持てば、国内で反乱を起こす暇など無くなります。そして、不利になればさっさと兵を引き上げるだけです」


「なるほど」


「話は分かるがつまらん」



 その後、秀吉の悪口に話題を移す忠勝と康政を見て、呆れながら家康が口を挟む。



「よいか、秀吉殿の本領は結果がどちらに転んでも得をする状況を作ることにある。唐入りが成功すれば良し、失敗しても政権の力が強まれば良し。そして、命令に従わない者や、与えられた命令をこなせないものがいれば処罰する。粛清などそう簡単にはできないが、命令違反は立派な口実になる。今のお主らのような者たちを炙り出すのも策の1つよ」


「そう言われますと流石に従うしかないですね...」


「この話はどのあたりにまで話されているんだ?」


「それは分からん。とはいえ、広げたい話題でもない以上、ごく一部の人間に限られているだろう。いずれにせよ何度も言うように徳川の仕事は国内の安定と後方支援。仕事をサボれば処罰される。参陣しないからといって気を抜くことはないようにな」


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