3. 真田家との婚姻 -1
徳川が北条の件で走り回っている間、並行して取り組んでいた案件がもう1つある。
真田の取り込みである。
嫡男である真田信幸と本多忠勝の娘である小松姫の婚姻を行い、徳川側へ取り込もうと話を進めていた。
真田昌幸は家康直系ではなく家臣の娘ということもあり当初難色を示したが、豊臣からの仲介もあって話を聞く姿勢になる。
信幸の調査や根回しを行っていたこともあり時間はかかったが、遂に信幸と家康の最終面接に漕ぎ着けたのである。
信幸との謁見を前に、家康は落ち着きがなくそわそわしていた。
徳川家の重鎮たちは周りに控えていたが、流石に目に余ったのか本多正信が口を出し始める。
「殿、いい加減落ち着いて下さい。報告書は既に目を通し、後は顔を合わせるだけでしょう?」
「そうは言ってもだ、あの経歴を見て落ち着いていられるか?しかもあの真田の嫡男とあっては、どんな男が来るか気が気でないわ」
「若い頃から戦場に出て、地元の国人衆だけではなく、北条・徳川・上杉といった大大名を相手に負けらしい負けは無し。あの父親からも城主代行を任せられる程、戦以外の仕事もこなせる万能ぶり。名が広まっていないのが信じられませんね」
「だろ?報告書の内容を信じるなら、あの父親と同じような人間が来ることになるぞ。1人でも手に余るのに、2人に増えたらワシの胃が持たん!」
「忠勝殿は実際にお会いし、思いの外まともだったと言っていましたよね」
「忠勝の言うまともが信頼できるかっ!」
「もうこちらに来ますので諦めて大人しくして下さい。徳川が軽んじられたら破談の可能性もあります。その方が不味いでしょ」
「うむむ...」
そうこうしている間に案内役が信幸の来訪を告げる。
「真田信幸殿がお越しになりました」
案内役に従い、1人の男が家康の前まで進み、頭を下げて挨拶する。
「真田昌幸が長男、信幸と申します。本日は徳川家の皆様にお会いでき恐悦至極にございます」
「うむ、ワシが徳川家康である。この度は遠路はるばる感謝する。面を上げて構わんぞ」
家康の指示に従い信幸が顔を上げる。
顔立ちにアクの強い父の面影はあまりなく、控えめに言ってどこにでも居そうな平凡な男にしか見えなかった。
病気がちということもあり、戦場を駆け回っているにしては覇気もあまり感じられない。
地味という評価がこれほど似合う人間もそうはおらず、本人を見てあの真田の嫡男であると分かる人間はほとんどいないだろう。
家康や正信が思わず影武者じゃないだろうなと忠勝の方を見るが、忠勝は平然としているため本人に間違いはないようだ。
徳川側が混乱する中、押し黙っているわけにもいかず家康は信幸と話を始めた。
「あー、信幸殿。旅の疲れなどは問題ないか?」
「ご配慮ありがとうございます。旅路自体は問題ありませんでしたが、なにぶん私自身が病弱なこともあり少々疲れてはおります。もし無作法がございましたら申し訳ございません」
「いやいや、気にすることはない。ワシの養女を娶ってもらうのであれば、義理とは言え親子というべき関係。細かなことで目くじらを立てたりはせんよ」
「そういって頂けると助かります」
「病弱とのことだが、それは昔からの話なのか?」
「はい。湯治にもたびたび出かけておりますが、なかなか思うように治らず苦慮しております」
「それは難儀なことで。健康に関してはワシもうるさい方でな、良さそうな薬があれば融通しよう」
「恐縮です。真田領内には有名な温泉地がございますので、関東が落ち着いた後にはぜひお越し下さい。怪我の後遺症に困られている家臣が居られれば、湯治の手配も行います」
「それは良い。太平の世が訪れれば、温泉地は観光名所として価値も出てくるだろう。北条の件がなかなか片付かないので今すぐにはとは言えないが、領内の開発において双方知恵を出し合う機会もこの先増やせていければよいと考えておる」
「全くです。相互利益から友好的な関係を作り上げられれば、今は良い感情をお持ちでない方も考えを変えて頂けるでしょう」




