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五大老筆頭 徳川家康  作者: 牛熊


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3. 北条の取次 -1

 天正15年5月8日。島津家が豊臣家に完全降伏。


 これで秀吉による九州征伐は終了し、畿内・中国・四国・九州といった西日本は豊臣の傘下となる。また、秀吉の関東進出が本格的に展開され始める。


 関東の管理は徳川の仕事ではあったが、秀吉が本腰を入れて関東の対応に乗り出してきた影響は大きく、この時期から豊臣政権による北条取り込みが本格化する。





 年が明けて天正16年1月。この時徳川家康は本多正信と鳥居元忠と共に火鉢を囲み、酒を飲んでだらだら過ごしていた。



「元忠、豆味噌取ってくれ」


「どうぞ。浜名の納豆もいかがですか」


「おっ、これがあると酒が進んでいかん...」


「そういえば先日豊臣が大茶会を開催しましたが、10日間の予定だったのを1日で切り上げた理由は何だったのでしょうか?」


「あー、あれは京都の住民の試金石だったらしいな。表面上は調子の良いことを言っていた割に結局秀吉殿を嫌っているのが分かったから、さっさと取り止めたんじゃないのか?」


「舐められたままで終わったのですか?大人しく引き下がる御仁でもなさそうですが」


「京都の再開発や検地など、住民から反発を受けそうな改革を徹底的にやってるらしい。もう嫌われているなら気にする必要はないと、遠慮なく好き勝手やってるようだ」


「京都の住民も成り上がりを嫌いますからね。やり返されるのを予想していなければ、間抜けとしか言いようがありません」


「全くだ。ウチが上洛した際にも田舎者扱いされたのは忘れんぞ。なんだ正信、何か言いたそうだな」


「いえ、我々が暇してていいのかなと思いまして。豊臣は北条の取り込みに忙しそうですが、本来我々の仕事でもありますし」


「そうは言ってもな、去年色々と頑張ったが結局北条とはまともな交渉にはならず。話をする気がない相手とは交渉のしようもないだろ。秀吉殿が動き出してようやく少しは話をするようになったくらいだぞ」


「北条もどうしたいのやら...」


「交渉の窓口だった北条氏規殿が重要拠点の韮山城へ回され、普請や軍備の手配で忙殺されているからな。聞こえてくる話も兵の手配や築城、鉄砲・馬の買付けばかり。戦になってもいいと本気で考えているようだが、徳川が味方につくと考えているのだけはやめて欲しい」


「とはいえ、いつまでもさぼっているわけにもいかんでしょう。殿も新しい官位を貰ったのですから多少は働かないと。駿府左大将の名が泣きますよ」



 天正15年8月8日、徳川家康は再び上洛し従二位・権大納言に叙任されていた。

 また、12月28日には左近衛大将および左馬寮御監に任ぜられ、豊臣政権内における出世街道を歩み続けている。



 一方で、徳川の仕事である対北条の交渉は全く進んでいなかった。


 この時期の北条は軍備強化をひたすら進めており、領内に兵役の案内を出し、各地で防衛拠点や流通拠点の普請に邁進していた。

 また、徳川との交渉役であった北条氏規は重要拠点の守将として配置され、徳川との交渉が更に進まなくなる。



 氏規は昔から「2000程の兵を率いて将として戦いたい」と言っていたが、よりによって自分が和平交渉をしていた相手と戦うという、最悪の形で夢が実現することになる。


 徳川からしても、窓口担当からいきなり引き離されたわけで、交渉は実質的に打ち切りだと北条から言われたようなものだった。




「いいか正信。年末に秀吉殿が周辺大名に向けて、北条の佐野支配を認めることを通知した。これ以上の領土拡大はともかく、大人しくするなら現領土には口を出さないということだ。つまり、北条の取り込みが本格化している証。豊臣主体で外交が可能なら、わざわざウチが出て話を複雑にする必要はない。それに、少なくとも豊臣側が譲歩した以上、北条も何かしらの返答をしないと面目が立たない。まずはそれを待とう」


「何かあってから対応すれば良いと?」


「いやまあ、代わりに真田の取り込みを頑張っているし...。ただ、報告は定期的に上がっていたが、正直書いてあることが凄すぎていまいち信頼性が...。忠勝が今裏取りをしているので、それが届けば動き出すぞ」


「真田の嫡男を呼び出すのですか?変な噂が立たないよう配慮が必要ですね」


「あくまでも非公式にこっそりとな。徳川と真田、どちらから断っても周りから良い目では見られん。最初からそんな話はなかったとしなければならん」


「小松姫の方は承知しているのですか?相手が気に入らないと暴れそうですよ」


「嫡男の方は会ってから判断すると言っている。ただ、やるなら当主の方を仕留めなくていいのかとも言っていた」


「......発想が戦国武将なんですよね」


「あれを養女にするワシの身にもなれ」


「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとしと言います。多少は荷が増えても構わんでしょう」


「既に重いんだよな...。さっさと隠居しないと腰を悪くしそうだ...」


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