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五大老筆頭 徳川家康  作者: 牛熊


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2. 関東惣無事令 -4

 真田との謁見後、家康と本多正信、榊原康政、本多忠勝が真田の対応について議論していた。

 ただ結局のところ、真田に対する家康の答えは1つだった。



「やはり真田は信頼できん」


「殿、気持ちは分かりますが、そこまで言い切る根拠でもおありですか」


「いいか正信。真田は目的のためには手段を選ばないぞ。稀代の横着者と言ってもよい。必要とあらば、それまで戦っていた相手に平気で頭を下げる。躊躇いもなく名を捨て、実を取ることができる。そのくせ、一度やると決めたら何があっても後に引かん。そうやって小国ながら北条・徳川・上杉と渡り合い、今の地盤を築き上げてきたわけだ。そんな相手をやすやすと信頼できるはずもない。」


「それだけ聞くと殿も似たようなものですけどね。同族嫌悪でしょうか」


「えっ...」


「だって、殿も豊臣と戦いながら、勝ち目が無くなればあっさりと降伏してますし。今川をさっさと見限って、織田に付いたのもお忘れですか?」


「あれは、その、織田が強すぎてどうしようもなかったから...。今川氏真殿にも謝ったし、武田を追い払った後は駿河の国主に戻すって約束したし....」


「でも約束を守ってませんよね?」


「北条が武田に負けたのが悪い!あの時勝っていれば今川も再建できていたはずだ!」


「牧野城の城主をあっさりと解任したのに?もうちょっと何とかしてもよかったのでは」


「もう過ぎたことは忘れろ!それに、氏真殿は今は京都に移り、妻の早川殿と仲睦まじくしながら蹴鞠や和歌を楽しんでいる。元大名でありながら、あの平和で自由な生活。羨ましくて仕方ないわ!」



 本気で羨ましがっている家康を前に、正信が呆れ返って何も言えなくなると、次は康政が口を開き始める。


「殿、そうなると真田はどうされるのですか?適当な理由をつけて討ちますか?」


「討つといっても派手にやるわけにいかず、かといって暗殺しようとしてやれる相手でもない。懐柔するにしても、少なくとも当主の昌幸は無理だ。それに儂があやつと似ておるとしても、決定的なところが違うから相容れない」


「どこが違うのですか。ほぼ一緒だと思いますけど」


「いいか、儂は最終的に安定した平穏な日々を求めている。しかし、昌幸は波乱を求めている。逆境や混乱と言っても良い。あれは乱世でこそ生を実感する人間だ。平穏な時代では生きていけないし、必ず揉め事を起こそうとするぞ」


「敵にしても味方にしても面倒この上ないですね。北条に討たれたら赤飯炊きますか?」


「いくらでも炊いてやるわ。あれが当主である間、真田は決して大人しくすることはない。死ぬまで安心できん」


「秀吉殿といい、腹芸が得意な相手は大変ですね。では当主が無理なら、他の者を取り込みますか?」


「誰か候補がいるのか?」


「とりあえず息子が2人います。長男が信幸、次男が信繁。ただ、次男の方は豊臣で人質になっているようです」


「じゃあ長男の方しかないのか。跡継ぎを取り込むのはかなり難しいぞ。評判はどうなんだ?」


「あまり情報はありません。ただ、上田で先陣を任された上、徳川軍にトドメを刺したくらいなのでかなり優秀かと」


「最悪の相手じゃないか...。とりあえず調査するか」


「どこから手をつけますか?」


「そうだな...」




 家康と康政が調査の手配を打ち合わせていると、それまで黙っていた忠勝が急に口を開く。


「殿、真田の跡継ぎにワシの娘を嫁がせたい」


「えっ!?」


「正気ですか忠勝殿!?」


「本気だ。とはいえ、相手が大名となれば家格が釣り合わん。殿の養女にする必要がある。殿、すまんがお願いできるか」


「お、おう。それくらいなら構わんが....」


「あの真田と縁戚になるのですか?真田が謀反でも起こせば、本多家にも火の粉が降りかかりますよ」


「構わん」


「忠勝、養女にするといっても具体的に誰にするつもりだ?」


「小松を嫁がせる」


「小松って、あの剣術好きで暴れまわっている娘のことか?あれをワシの養女に!?」


「げっ、子供の頃に暴れ猪に斬りかかったという...」


「あやつなら真田家でも問題なくやっていけるだろう。というか、あの男勝りな娘と釣り合うのはあの家くらいだろう」


「確かに頭もよく回り度胸もある。当主不在の場合には名代も務められるだろうが...」


「忠勝殿、止めた方がいいですよ。確かに能力面では問題ないでしょう。でも、殿の養女にした上で大名の妻になったら、関所で殿宛の献上品を強奪したりしますよ」


「問題ない」


「いや、ワシは困るんだが...」


「というか、なんでまた急にそんな話を?何かありましたか?」


「謁見の後、真田と話をした。嘘か真かも分からない話ばかりだったが、息子たちのことを話す時だけは雰囲気が違っていた。特に長男に関しては誇りに思っているようで、明らかに調子が違っていた。本人は気づいていないようだったがな」



 家康と康政は驚きながら顔を見合わせる。確かに真田が退出した後、忠勝もいつの間にか消えていた。

 普段の言動からするとかなり意外というか、わざわざ隠れて動くような人間でもないため完全に予想外だった。


 ましてや相手はあの真田。

 上田で叩きのめされた経験があるだけに、徳川家中で話をしたがる者もそういない。



「真田は武田時代から目をつけていてな。武田滅亡後の混乱の中、上手く立ち回って信州で地盤を固めたのも見事。今も北条・徳川・上杉といった大名に囲まれながらも意地を通している。武門に連なる者として、正直あの家が滅ぶのは惜しい。ましてやあの当主が誇りに思うような息子がいるとなれば、ぜひ一門に取り込みたい。徳川家にとって悪い話ではないはずだ」


「それはそうなんだが...。真田が何と言うか」


「徳川相手となると間違いなく嫌がりそうですね」


「もちろん今すぐにという話ではない。調査が終わり、徳川に利があると殿が判断してからで構わん」


「分かった。婚姻の方向で話を進めよう。ワシの名を使って構わん。徳川家としての正式な申し出には各方面の調整が必要だが、必要なら真田に伝えても構わない。それと、申し出の際には秀吉殿に仲介を頼もう。豊臣経由であれば真田も無下にはできんはずだ。真田が大人しくなるなら秀吉殿も手伝ってくれるだろう」


「上田で真田と戦った鳥居元忠殿や大久保忠世殿、井伊直政殿などにも話を聞いてみましょう。来年中に話をまとめるくらいの想定で進めます」



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