4話目 【隣室】
湖田家吏は、過去のことを阿須雌に断ち切ってもらった。
阿須雌と仲が良くなったように見えたが、湖田家吏の心の中では、
絶対に凶悪犯罪者にならずにこの部屋に出てやる、
という強い決断が下されていた。
あれから3日経過した。3日間の間、僕は小説を10冊、阿須雌に頼んで持ってきてもらい、それを読んでいた。
本の種類は任せたのだが、どうやら全て恋愛ものだ。推理系の小説が好きな僕にとっては、少々不満だった。
しかし、これもまた、なかなか面白い。
「それにしてもあいつ、どこに行ったんだ?」
ここ最近、阿須雌は何かとバタバタしていたようで、ご飯を持ち込む時しか姿を現さない。まあ、無理もないな、と思う。この「凶悪犯部屋」は全部で5つあり、その全ての部屋の管理人をあいつは務めているのだ。これが普通なのだろう。
バン!
急にドアが開けられたかと思うと、
「お待たせ!柄堂君!!面会の時間だよ!!」
と、汗だくの阿須雌は、大声で言った。
「め、面会・・・?」
「いやぁ、準備するの大変だったわ~!頑固な奴らばっかりだったし!でもでも、安心して!全員ともOKでたからさ!早速行こうか!!!はい!Stand up!!!」
「待てよ!阿須雌!!って、ちょっと!!」
強引に手を引っ張る阿須雌に抗えないまま、僕は自分の部屋(102号室)を後にした。
初めて部屋の外に出た僕は、その光景に驚いた。壁の色が・・・・・・赤黒い・・・。よく見ると、一面に、赤黒い花や飛沫が描かれている。この赤黒い画材は・・・、一体何だろうか・・・?触ってみたいが、今はそれどころではない。
「おい!阿須雌!!どこへ連れていく気だ!?おい!!!」
「この凶悪犯部屋に住む住人に会いに行くの!まずは~・・・103号室~!」
阿須雌が指さした先には、500メートルほど離れている、部屋のドアが見える。
「あそこまで猛ダッシュだ~!」
「だから、この手を離せよ!!阿須雌!!!」
手を引かれながら走るのは、意外としんどい。そして、阿須雌は足が速い。もともと運動が不得意な僕は、部屋の前に来たときには肩を大きく上下に揺らしながら、精一杯肺に酸素を送っていた。
「はい!到着~!!深呼吸して~!」
「はあ、はあ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。こ、ここには、ど、どんな人がいるんだ・・・?」
「柄堂君めっちゃ疲れてるね~!あはは!ここ、103号室には、部屋に入って1か月くらいの人がいます!」
「あ、そう、なの?ふ、ふぅ・・・。それで、他には・・・?」
「百聞は一見に如かず!とりあえず、失礼しま~す!」
「ちょっと、おい!!!」
阿須雌は僕を無視して、103号室のカギを容赦なく開けた。開け放たれたドアの先に見えたのは・・・・・・闇。
「あれ?お~い!阿須雌ちゃんだよ~!」
阿須雌は暗闇に向かって呼びかけるも、応答なし。仕方なく電気をつけると、モノトーンで統一された殺風景な部屋が現れた。住人は男のようにも考えられる。・・・・・・しかしそこには、誰もいなかった。出かけている、という考えは通用しない。・・・消えた・・・?
「あ、そっかそっか、五月雨ちゃん、シャワー浴びてるのかな?」
五月雨ちゃん・・・?ここの住人の名前なのか・・・?それに耳を澄ますと、微かにシャワーの音が聞こえる。
そんなとき、
「あれ?もしかして弓良ちゃん来ちゃった?」
と、女性の声が聞こえた。かたん、と風呂場のドアが閉まる音が聞こえる。
「五月雨ちゃん、例の面会のやつ!新人の柄堂君!連れてきたよ!」
「そっかそっか!そういえば今日だったね!ちょっと待ってね~!」
新人って・・・。まあ、それは良いとして、どうやら五月雨さんは女性のようだ。阿須雌のことも、下の名前(偽名)の「弓良茂」で呼んでいる。
「お待たせ、えっと、湖田家吏、柄堂君だよね!初めまして!」
「あ、はい、初めまし・・・て!?」
とっさに僕は目をつむった。お風呂上がりの五月雨さんは、下半身にしかタオルを巻いていなかった。つまり、胸が、丸出しな状態なわけで・・・。
「あ、あの!う、上は隠さなくてよろしいんでしょうか・・・!」
目の前は見てはいけない見てはいけない・・・!!
「ふぇ?ん?ああ、そっか・・・!柄堂君、目を開けていいよ??」
「え、その・・・、え?ええ!?」
五月雨さんの胸は、立派な大胸筋で美しく厚い胸板があった。
「あっははは!!!柄堂君最っ高!!!あははははは!!!」
阿須雌が大声で腹を抱えて笑う。そんなことは気にする余裕もなく、僕は目の前の大胸筋に目を奪われ、言葉を失っていた。
「お、お、男・・・?男性の、方ですか・・・?」
「声だけだとわからないよね~!ごめんね!僕は五月雨 源人!よろしくね~!」
「す、すみませんでした!!!!!」
「あの、五月雨さんは、どうやってここに来たんですか?」
「ああ、その話ね。僕は、弟と一緒に交通事故に遭ったんだよ。それで死んでしまった。
3つの選択肢の話は知っているよね?それで弟に、3つ目の選択肢を選ばれたってわけ。」
「そ、そうだったんですか・・・。」
「柄堂君はどうして?」
「僕は、母と火事に巻き込まれて、死にました。母も、3つ目の選択肢を選んだんです・・・。」
「そうだったんだ・・・。辛かったよね・・・。」
僕の顔を見てか、五月雨さんは悲しそうに俯いた。
「僕も、この部屋に入ってすぐに部屋を訪問したよ~!」
明るく振る舞ってくれる五月雨さんに、胸が痛くなる。自分のせいで、気を使わせてしまった。
「なるほど、どうでしたか?僕、五月雨さんが初めてで・・・。」
「う~ん、ネタバレはNGって言われたんだよね~・・・、弓良ちゃんに。」
「そうだよ~!自分で学べなくなっちゃうからね~!」
阿須雌がにこやかに話す。
「これだけは教えておくよ、柄堂君。君が一番最後に会うのは、101号室の人になると思うけど、その人が僕らの最終形態だと思っていい。いつかああいうふうになる、僕も・・・・・・君も。」
「そうなんですか・・・。肝に銘じておきます。」
「この部屋の住人たちは、徐々に凶悪犯へと近づいていく。この面会は、その過程を見るもんだ。だから・・・」
「はいは~い!ストップストップ!面会終了~!!!ネタバレはだめですよ!」
「・・・うん、わかったよ、弓良ちゃん。」
ここまでで、阿須雌に話を切られてしまった。
「あの、ご丁寧にありがとうございました!!」
「いいっていいって!気にしないで!またね、柄堂君!」
「じゃあ、失礼しました!」
話した時間は短かったが、得たものは大きかった。心構えをして進むことができる。
「次は104号室!部屋に入って半年くらいの人がいます!」
僕は、この面会がどんなに大変で、どんなに恐ろしいか、このときは知る由もなかった。
たけのんです!添削をして、comicoでも投稿しています!
次回もいつになるかはわかりませんが、読んでいただけると幸いです!




