3話目 【追憶】
阿須雌は本物の悪魔だった。
母親が死んだことを教えられた湖田家吏は、
人格が変わったように狂ってしまい・・・・・・。
母さんは、女手一つで僕を育ててくれた。父さんは、僕が5歳の頃に他界した。僕が商店街を父さんと歩いていたときだった。僕は前から歩いてきた男に、いきなりナイフを首につきつけられた。そして、男はこう喚き散らしたのだ。
「金を出せ!!出さない奴が1人でもいたら・・・、このガキの首、ぶった切るぞ!!!」
周りはパニックに陥った。端の店から順に金を盗られていく。僕が必死に助けを訴えたその時、
シュッ。
鮮血が滴り落ちた。頬を切られたのだ。そして次の瞬間、僕の体が地面に叩きつけられた。
「おいお前・・・。死にてぇんだろぅ?死にたいんだろ!?ああぁ!!?」
男に馬乗りされ、ナイフを押し当てられた。ナイフが顎に当たる感触、今でも忘れられない。あの男は、あの眼は・・・
狂っていた。
死を覚悟した。涙が目尻から耳へと伝う。頬がぴりぴりと痛い。目をつむった。ぎゅっと。その男が見えないように。その狂った眼が見えないように。
目をつむっていてまず最初に感じたのは、目の前の空気が動いたことだった。そのあとに聞こえたのは・・・。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
父さんの雄叫びだった。驚いて目を開くと、父さんが男と戦っていた。男はナイフを振り回していた。嫌な予感がした。
僕は叫ぼうとした。「逃げて」と叫ぼうとして・・・・・・でも、叫べなくて。・・・手遅れで。
父さんが思いっきり倒れた。父さんの肩から胸にかけてできた赤黒い線は、血飛沫を飛ばした。辺りは、男の狂った狂った狂った笑い声が響いていた。僕はよろよろと父さんに歩み寄った。
「・・・・・・柄堂・・・。」
「父さん!大丈夫!?父さん!!」
「・・・柄堂。・・・・・・はやく・・・。」
「喋らないで父さん!血が、血が・・・。」
「・・・逃げて、柄堂。」
それは、僕が父さんに言いたかった言葉だった。父さんは僕の頭を震える手で優しくなでた。それきり、父さんは動かなかった。
まもなくして、警察が到着、無事犯人も逮捕された。しかし父さんは、病院に搬送された後・・・死亡が確認された。
父さんが死んでしまったのは、僕を守ったからだった。
それから、母さんは毎日僕を励ましてくれた。自分だって、辛く、苦しいはずなのに、僕に涙は全く見せなかった。笑顔で、「えっちゃん頑張れ!」「えっちゃんのせいじゃないよ!」「お父さんは、誰よりも勇気があった人なのよ!」と、いろいろな言葉で慰めてくれた。僕は、両親にとても愛された人間だったと思う。しかし、母さんは・・・・・・。
母さんは、自分の息子を凶悪犯罪者にした。そして、自分は地獄から逃れた。凶悪犯罪者になんてなったら、生き地獄だ。僕は・・・・・・耐えられない・・・・・・。
母さんは、僕を、裏切った・・・・・・?裏切った・・・・・・!裏切ったんだ!!!!!
「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い!!!!!
「どうしたの~?そんなにショッキング~??」
「うるさい!黙れ!!!この悪魔め!!!」
「そりゃ、私は悪魔だけどさ・・・。でも、考え方を変えてみなよ?柄堂君??」
「あ?・・・どんな、ふうに・・・?」
人差し指をぴんと立て、笑顔で僕を見る。
「柄堂君のお母さんは、息子がどんなになっても生きていてほしかったんだと思うよ??」
「生きて・・・?ほしかった・・・?だったら、二つ目の項目がいいんじゃないか・・・?」
二つめ、息子を助ける代償に、自分が地獄に落ち、永遠に苦しむこと。
「それはさ、自分が苦しむのが嫌なだけだったんでしょう??」
「僕の母さんは、ぼくのためなら、そういうことだって、してくれる!!僕が中学三年生のときだって・・・」
「いつまで甘えてんだい!?あんたが母親のことを全て知ってるなんてこと、あるわけないだろう!!!
人には知られないようにしている心情や隠し事が!一つや二つあるんだよ!!!」
「ひっ・・・・・・!!」
悪魔は大声で怒鳴った。突然のことに、僕は驚いて小さく悲鳴を出してしまったほどだ。何か言おうと試みたが、あまりの正論に、開いた口が元に戻る。
「・・・たく、これだから若いのは嫌いなんだよ・・・・・・。」
悪魔は面倒くさそうに、髪の毛をかき上げる。
「阿須雌って、歳いくつなの・・・?」
「なに?あんた、私を口説こうとしてるの??」
「違うよ!馬鹿!話題を逸らしたことくらい気づけ!」
「あっはは~!そうだったか~!私は今年で478歳だ!」
「・・・あ、お前悪魔だもんな。」
「お前って・・・!私、大先輩!あんたよりいくつ年上だと思ってんだい!?」
「僕が今年17だから、461歳差かな?」
「あんた、高校生だもんね・・・。いやあ、青春真っ盛りのときにお亡くなりになるとは・・・うぅ・・・。」
「やめろきもい。・・・ばばぁのくせして。」
「ちょっと!聞こえたよ~!!柄堂君~!!!」
「ぷっ・・・。あっははははは!!」
「なに笑ってんのあんた・・・。あんたも気持ち悪いけどね・・・・・・。」
「ありがとう、阿須雌。少し気が紛れた。ただ、僕は凶悪犯罪者になんてならない。それだけは言っておく。」
「そうなの?でもそれじゃあ、ここから出ることはできないよ??・・・嫌だよ私、お荷物が増えるのは。」
「ああ、嫌だろうし、面倒だろうな。僕は、ここに居座り続けてやるよ。」
「やだ~、私、ムカついて殺しちゃうかも~!」
阿須雌は笑いながら、しかし鋭い視線で僕を射抜く。
「だから・・・・・・勝負だ。お前は僕をどんな手を使ってでも凶悪犯罪者にすればいい。
ただ、僕はそれをどんな手を使ってでも食い止める。絶対に、お前が諦めるまで。」
「その間にあんたはおじいさんになって死んじゃうんじゃない?この部屋でただ一人。」
「そのときは・・・、お前も殺す。道連れにしてやるよ、阿須雌。」
「面白い子だよ、あんたは・・・・・・!あっはははははははは!!!!!その勝負、受けてやる!」
「だと思った。」
僕の戦いは、今、この瞬間から始まった。
「絶対に勝って、生還してやる。」
僕は阿須雌に聞こえないよう、そっと決意を固めた。
遅くなりましたが、投稿です。
comicoにも、投稿し始めました。
楽しんでいただけたらと思います。




