#3 失われた過去
リリーナはあの街の出来事から2日経った後、見知らぬ部屋で目が覚める。
見知らぬ、といっても大体目が覚めたときは同じ光景だ。そう変わった宿屋などありはしない。
ユーリがどこかの街まで運んでくれたのだろう。
ベッドから起き上がって窓の外を観るとどうやらもうお昼過ぎのようだった。
「あ、目が覚めた?おはよう!ってあ、もうお昼か。」
見知らぬ女性の声がするので振り向くと、リリーナより少し年下の女性が椅子に腰掛けていた。
銀髪の綺麗な女性だが、それに不釣り合いな眼帯を付けている。
「あら?どちら様?」
「あれ?分からない?まぁ無理もないかー。ちょっと待ってて。」
そう言うと彼女は独り言を呟きながら眼帯を外そうとする。
「クラリス!ちょっと出てきてよ!無駄な体力を使いたくない?えー!」
ため息をつき、リリーナのほうへ向き直る。
眼帯をしていた方の目は金色で、していない方の綺麗な青い瞳とは全く色が違う。
表情こそ違えど、その姿には見覚えがあった。
彼女はごほん、と咳払いすると、急に芝居がかった低い声で、
「その手、私も乗らせてもらおう。...どう?これで分かった?」
「あの港に居た旅の方?」
「ぴんぽーん!正解!わたし、エミリアって言います!リリーナちゃん、よろしくね!」
「え、ええ。よろしく。でも、雰囲気が全然違うけれど...」
「実は二重人格っていうらしくて、"もう一人のわたし"がいるの。あまりに違いすぎて同じ人間なのかは怪しいけどねー。たぶん危なくなったら出てくると思うから、クラリスって呼んであげてね。」
二重人格。本では読んだことがあるが、本物を見たことはリリーナには無かった。
子供の頃、まさかそんなわけないと一蹴した記憶がある。
でも彼女のあまりの変貌ぶりを見れば、これが真実だということは明白だ。
「色々と聞かなきゃいけないことは多そうね... あ、エミリアちゃん、ユーリはどこ行ったの?」
「さっきどこかへ出掛けていったよ?すぐに戻るとか言ってたけど。」
エミリアが居たので、私が寝ていても外出したようだ。
でもやけにさっき会ったばかりのエミリアを信頼しているような...?そんなことを考えていると部屋のドアが開く。
「ただいま戻った。姉さん、リリーナの具合は?」
「見ての通り起きてなおかつ元気だよー。よかったね、ユーリ。」
ユーリが新品と思われる白いコートを着て部屋に現れる。
ユーリとエミリアはいたって普通に会話しているが、明らかにおかしい部分があった。
エミリアを姉さんと呼んだのだ。
これは徹底的に問いつめなければいけない。
「姉さんってどういうこと!?」
「そのままの意味だが?」
「ユーリのお姉さんって魔王に襲われて亡くなったんじゃ...?」
ユーリは母と姉の仇として魔王に憎しみを抱いていた。
どこかの村、あの魔王によって焼かれた村でころされてしまったのだ。
「そのはずだ。俺の記憶の中では2人ともしんだはずなんだ。だが、俺の姉エミリアは目の前にいる。間違いなくこれだけは今起こっている事実だ。」
しんだはずの人間はが実は生きていて、聖剣を持って私達の前に現れた。
これは幻なのか、それとも現実なのか。
「ねえ、エミリアちゃん。そのことについて知ってることは何かある?」
リリーナがエミリアにそう質問すると、エミリアは申し訳なさそうな顔を掻きながら、
「実は...わたしもよくわかんないんだよねえ。記憶がはっきりしないんだよ。村が焼かれたという光景は頭に浮かぶし、事実だと思うんだけど、それって凄い前の話でしょ?それから今まで何してたのか全く分からなくて...」
記憶喪失。
思わずリリーナは頭を抱える。
二重人格に記憶喪失って一体彼女はどんな壮絶な人生を送ってきたのだろう。
とりあえず今分かることを聞いてみないと仕方が無い。
「手がかりとかは無いの?あと何か覚えてることとかは?」
そうリリーナが聞くと、エミリアは少し天井を見上げて考え込んだ後、少しずつ話し始めた。
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気がつくと、わたしの目の前には黒い人が立っていた。
黒い人は少し悲しそうで、申し訳なさそうでわたしを見下ろしている。
わたしはというと、鎖に縛られて動けなくて、じっとその黒い人を見つめ返すことしかできなかった。
しばらくすると黒い人はわたしに向かってゆっくりと話始めた。
すまないと思っている。
何度詫びても足りないぐらいだ。
俺を憎んでくれたっていい。
お前の名前はエミリア。
俺と君の2人の母はいつだってお前を見守っている。
大事な人を、自分の大事な人達を救いにいけ。
お前だけの力で。
するとわたしを縛っていた鎖は砕けちり、動けるようになる。
そして目の前に一本の剣が現れる。
青くてとても綺麗な剣。
「あなたは一体誰なの?」
「いずれ分かる。今は自分の心にのみ従って動け。」
黒い人はわたしに向かって小さな四角い箱を投げてくる。
それを受け取ると黒い人はスッと消えてなくなった。
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「鮮明に覚えてることはこれだけ。それからは行く先も無く旅をしてた。その旅の途中で自分の中のもう一人の自分に気がついて...今に至るってとこ。話せることはこれぐらいかな。」
「その黒い人に渡されたものって?」
「これだよ。」
エミリアは箱を取り出す。
箱を開けると指輪と綺麗に折り畳まれた紙が1枚。
指輪は白く輝く宝石が付けられており、自ら光り輝いているかのような輝きが箱を開けた途端に現れる。
「指輪...?」
「うん、綺麗な指輪でしょ?結構気に入ってるんだ。」
「姉さん、ちょっとその指輪見せてもらっていいか?」
「うん、いいよ。」
ユーリが指輪を受け取り、じっくりと調べ始める。
「この宝石、北の大陸で見たことがある。確か1つの原石から2つの色の宝石が出来、お互いを引き合わせる力を持っているらしい。だからペアリングによく使われている。」
「そうなんだ!じゃあもう一つこれに似た指輪があるってこと?」
「可能性は高いな。あと彫ってある文字だが...かなり古い言語で書かれているから読めないな。エミリアとは書かれているようだが。」
もう一つの指輪。指輪に書かれている文字。そして謎の黒い男。
これがエミリアの過去を解き明かす手がかりになりそうだ。
「ねえ、紙には何が書いてあるの?」
「えーっとね...」
リリーナの質問に対して、エミリアが紙を読もうとしたが、
「え?クラリスどうしたの?」
エミリアが急にもう一つの人格、クラリスと会話をし始める。
すると眼帯を外してじっと空を見始める。数秒も立たないうちにエミリアは急に青ざめた表情になって、
「か、影が...」
「影?」
「まさか!リリーナ、説明は後だ!姉さんどうすればいい!?」
エミリアは表情を変えて、港で見た凛とした表情になる。
さっきとは違う落ち着いた低い声で話し始める。
「剣の力でこの部屋を保護する。私から離れるな。」
エミリア、いやクラリスは聖剣を抜いて部屋に突き立てる。
すると青く暖かい光が部屋中を包みはじめる。
「これが聖剣の力...?」
「来るぞ!油断するな!」
そうクラリスが言った瞬間にガタガタガタと地震のような地響きが鳴り響く。それと同時に外から人々の悲鳴が聞こえる。
地響きは数秒で止んだが、外の悲鳴はより一層強くなる。
「何が起こってるの?」
リリーナは何が起こってるのか分からず、途方に暮れる。
クラリスが聖剣を床から抜き、外を見てみろと言うので外を見てみると、そこには壮絶な風景が広がっていた。
人々が魂を抜かれて影になり、影が人間を襲い、取り込んで魂を抜く姿。
まさに地獄絵図だった。
暗雲に包まれた空には1人、
魔王が居た。




