#2 氷の怪鳥と影の襲来
地上の砂漠地帯とは違って地下通路はかなり寒い。
灯りから出る微かな暖かさと明るさを頼りに、一歩一歩地下通路を進んで行く。
「うう...寒い...」
リリーナが手を擦りながら呟く。
「東の大陸出身だから寒さには強いと思っていたんだが?」
「ううん、ローランドは東の大陸でも比較的気候が穏やかなの。風が強い日はちょっと大変だけど、所詮その程度よ?」
「へぇ、それは良いな。東の大陸と聞くと寒いイメージしか無かった。地上、行くか?」
「行かないって言ってるでしょ!」
「ごめんごめん。」
そんなやりとりをしながら数時間歩き続け、丁度二分の三あたりかとユーリが言ったその時だった。
地下通路の寒さとは違う、もっと強烈な寒さ、冷気が通路が駆け巡る。
「!!!」
リリーナは反応出来なかったが、ユーリは咄嗟に反応してリリーナを庇った。
通路の先から氷の羽が無数に飛んできたのだ。
そのまま二人で床に倒れ込んだが、ユーリの背中には何本も氷の羽が刺さってしまっている。
「ユーリ!大丈夫!?」
「何とかな。」
「いや、何とかって...背中に刺さって...」
「それより次が来る。今は自分が生き残ることだけを考えろ。」
そう言ってユーリは立ち上がって大剣を構える。
「...分かったわ。私が魔法で次は防ぐから、その間に奥にいる奴を倒して!」
「了解!」
リリーナは呪文を唱え始める。すると、掌の平に大きな火球ができ、どんどん炎が濃縮されていく。
「一発強烈なの行くわよ!スパークフレア!」
火球を奥へ放り込むと火球は爆発し、大きな火柱が通路に駆け巡る。
暗かった通路が一瞬にして明るくなり、所々で燃えて熱気が立ちこめる。
それを見てすかさずユーリは奥へ走る。
奥は少し広い空間が広がっており、天井に穴が空いていて他の場所よりは若干明るい。
それより目を見張るのは一面に広がる氷。ここだけ全くもって別空間だった。
そこで待っていたのは氷のような色をした鳥の魔物。商人が言っていた通りだった。
ユーリは東の大陸の冬山で同じような魔物を見た事がある。確か名前はフレスベルグ。
「おかしい、こんな所にこいつが棲み付くわけがない。意図的に連れてこられたか、もしくは...」
ユーリが考えを巡らせていると、フレスベルグは奇声を上げて羽を飛ばしてくる。
それを走って避け、フレスベルグとの距離を一気に詰める。
飛んでくる氷の羽を避けながらフレスベルグに向かって一閃。しかし、硬い氷に覆われた羽は鋼よりも硬い。
チッっと舌打ちしながらもユーリは大剣を振るのをやめず、フレスベルグを殴打しつづける。
フレスベルグは怒り狂い、羽を一気に散らすとともに一気に周囲を凍らせる吹雪を発生させる。
それに反応して壁際まで距離を取り、羽が当たらないように避ける。
「チッ、ここではこちらのほうが圧倒的に不利か。もっと日の光が当たりさえすれば...」
「ユーリ!」
後ろからリリーナの声がする。追いついてきたようだ。
「リリーナ、あの氷を溶かせないか?氷が硬すぎて剣が通らない。」
「...やってみる。でもちょっと1つ約束してくれる?」
「何だ?いきなり。」
「私が良いって言うまで後ろを振り向かないでね。」
「あ、ああ。分かった。じゃあ奴の注意を引くから後は任せた!」
ユーリは困惑しつつも、フレスベルグのほうへ走り出す。
次の瞬間、背後から凄まじい熱気を感じ、肌が焼けてしまうかのような錯覚を覚える。
付近の氷が溶けるどころか一瞬で蒸発し、灼熱地獄と化す。
フレスベルグの氷も例外ではなく、一瞬で溶けて身体が露になる。
その隙を逃さず、ユーリの大剣は羽を斬り取り、横薙ぎでフレスベルグの身体を真っ二つにする。
「ふふふ...」
「リリーナ?」
後ろから聞き慣れた声の、でもいつもと様子が違う笑いが聞こえる。
名前を呼びかけるとあっと驚いた声を上げ、背後に渦巻いていた熱気が収まる。
「ご、ごめん。後ろ向いていいわよ。」
そう言われたユーリが振り返るといつもの様子のリリーナが居た。
何が起こったのか、ユーリは何も分からず首を傾げるだけだった。
ただ何か事情があることは察したので、深くは聞く事は無かった。
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フレスベルグを倒した後も地下通路の魔物による襲撃は続いた。
ただフレスベルグほどの難敵は居なかったため、無事に目的地に辿り着くことが出来た。
しかし、そこで待っていたものはただの廃墟だった。
南の大陸で栄えた港町エールポートも今は人の気配が全くない。
むしろ、人の姿だけ忽然と消えてしまったかのような印象を受ける。
何故ならついさっきまで誰かが生活していたかのように物だけが綺麗に残っているからだ。
事実、ユーリとリリーナは街のほとんどを見て回ったが誰も居なかった。
「一体どうなってるの...?どこかへ避難したのかしら?」
「いや、その割にはあまりにも物が綺麗に残りすぎている。港を覆う壁も大きな損傷は見当たらない。」
「じゃあ何だっていうの?何も起こっていないのに人だけがどこかへ消えてしまったってこと?」
「そう考えるしか無い。」
地下通路に居た不自然な魔物の群れ。
人の不自然な失踪。
このエールポートに一体何が起こったのか。
「ここに居ても埒が明かない。ここから離れるぞ。」
「でもここからどこへ行くの?」
「海沿いに歩けば別の港があったはずだ。そこは無事だといいが...」
そこでふと前を見ると誰かがこちらに歩いてくるのが分かった。
銀髪で眼帯をした不審な女性だ。数少ない生存者かと思ったが、冒険者のような服装をしているのでどうやら違うようだ。
「すいません、ここを通りかかった旅の者なのですが、何があったかご存知でないですか?」
リリーナが少し前に出て話し掛ける。
すると女性は立ち止まり、何故か眼帯を外してこちらをじっと睨みつけてくる。
遠目で分かりづらかったが、眼帯で隠していた目は片目と色が違っているようだ。
「ふむ、違うようだな。」
「何がですか?」
「失礼。私は見ての通り旅行者だ、この港の住人ではない。だが...」
女性がそう言うと不意に剣を抜く。
剣は青い宝石のようなもので出来ており、綺麗に装飾されていて剣というよりは芸術品だった。
他の剣とは全くもって異質。
リリーナは直感で全てを分かってしまう。
それが聖剣であることに。
そのことを指摘しようとするが、女性の声に遮られる。
「これからここで何が起こるか、私には分かる。剣を抜いたほうがいいぞ。」
「え?」
リリーナが反応した瞬間に晴天だった空が急に暗雲に包まれる。
ユーリは気配を察し、言われた通りに大剣を抜く。
「リリーナ気をつけろ、何かが来る。」
「う、うん。嫌な何かが近づいてきてる。」
3人は周囲を警戒するが、その嫌な何かは突然、そこに始めからいたかのように出現した。
それは影。
誰かの人影。
その人影は理性の欠片もなく、人と似たような悲鳴をあげ続ける。
そして3人に向かって一歩、また一歩と近づいてくる。
自分にはない失われた何かを求めて。
「な、なによこれ...一体なんなの!」
「わからん!ただこちらに危害を加えてくるのは間違いない!リリーナ、俺から離れるなよ!」
パニックになっているリリーナをなだめるが、ユーリ自身も何が起こっているのか分からない。
長い間旅をしてきたが、これほど得体の知れない恐怖は体験したことがないからだ。
だが銀髪の女性は動じる様子もなく、人影に向かって剣を構える。
「奴らは影だ。影と言えども斬ればしぬ。躊躇うな。」
そう言って人影に近づいて剣を振る。
剣の青い軌跡と共に影は真っ二つになり、そして跡形もなく消え失せる。
ユーリも負けじと大剣を振り、人影をなぎ倒していく。
しかし、人影を斬っても手応えがなく、斬れば斬るほど不気味さを増していった。
それどころか、人影は街の奥からどんどん増え、一面を埋め尽くしていく。
「ちっ、一体何だって言うんだ...」
「ユーリ!どうするの!」
「魔法を街の出口までの影を一掃してくれ!そこから脱出する!』
「分かった!」
「その手、私も乗らせてもらおう。」
リリーナは呪文を唱えると、右手に大きな炎の槍が出来る。
その炎の槍を出口に向かって投げ、投げた先の人影が全て炎で焼く。
すると出口までの道を塞いでいた大半の人影が消え失せる。
「よし、出口まで一気に走るぞ!」
「うん!」
ユーリがリリーナの手を引き、銀髪の女性が先陣を切って走り出す。
しかし、走り出してから数秒も立たずにリリーナが倒れ込んでしまう。
「あ、あれ...?体が動かな...」
段々ろれつが回らなくなり、声が途切れてしまう。
「お、おい!しっかりしろ!」
ユーリの声に反応しようとするが、視界がぼやける。
やがて視界は完全に消え失せた。




