#1 過去の世界
目を開ける。
木で出来た天井が見える。昼間なのか、窓から差し込む光がとても眩しい。
目を閉じる前とは全く違う光景だ。
ここはどこ?何が起こったの?頭の処理が追いついていない。
どうやらベッドに寝かされているようだったので、とりあえず身体を起こす。
身体を起こすと身体が妙に重く、少し目眩がする。かなり長い間眠っていたのだろうか。
「お目覚めか、お姫様。」
声に反応して、小屋の壁にもたれかかっていたユーリを発見する。
服がぼろぼろで前見たときよりボロボロで、見るからに痛々しい。
でもそんなことよりもっと目を引くのは左手。
リリーナが覚えている限りでは、魔王によって斬り落とされたはずだ。
その左手が今何故か存在している。
「ユーリ...?その手、どうしたの?」
「この手か?生えてきた。」
「ちょっと、ふざけないで。真面目に答えてよ。」
「いや、ふざけてなどいないさ。斬り落とされたはずなのに何故か左手がある。自分でもよく分からない。」
斬り落とされたはずの左手がある。
あれは夢や幻だったのか?いや、そんなはずはない。
「そんなことより、もっと他に聞く事があるんじゃないか?」
他に聞く事。
ここはどこ?何が起こったの?
ユーリは知っているのだろうか。
「全ては知らない。だが、今分かっている情報を話す。とんでもないことを言うかもしれないが、真面目に聞いてくれ。
俺達は6年前にタイムスリップしたらしい」
-------------------------------------------------
人魔戦争。
東の大陸で突如として現れた魔物の軍勢、それを率いる魔王と人間との間で起こった戦争のことである。
激しい戦いの末、東の大陸の人間のほぼ半数が死に至り、他の大陸も多くの被害を出した。
その戦争で大きな戦果を出したのが勇者と2人の仲間である。
強大な力を持つ魔王を聖剣によって討ち滅ぼし、世界に平和を取り戻した。
...以上が世界で伝えられている伝説だ。
しかし、本当に人魔戦争などというものがあったのだろうか?
人魔戦争が起こったとされる6年後、新たな魔王と帝国という新たなる脅威が迫る中、人魔戦争の真実が今紐解かれる。
-------------------------------------------------
「はぁ...一体何が起こってるのよ...」
「分からん。もしかしたらこの状況だって魔王が仕組んだ幻の可能性だってある。だがそんなことを今考えても仕方ない。この現実を直視して今何をすべきか考えるべきだ。」
「何をすべきか、ね...」
ユーリの話をまとめるとこうだ。
魔王と戦った日から丁度6年前にタイムスリップ。
西の大陸に居たはずなのに、南の大陸に飛ばされてしまっている。
最初に目が覚めたユーリは周囲に衰弱して倒れていたリリーナを保護。近くの街の宿へ担ぎ込んだ。
どうやらラスティは別の場所に飛ばされたらしく、付近には居なかった。
ユーリの左腕は目が覚めたときからあった。何故かは不明。
「...6年前ってことは、人魔戦争の1年前よね?」
「ああ、そういうことになるな。」
「じゃあ逆に好都合だわ。人魔戦争でローランドに何か起こったか分かるかもしれない。これが本当の6年前の世界なら、ね。今まで通り東の大陸へ向かいましょう。ラスティは心配だけど...あの子ならきっと上手くやれるわ。」
「わかった。とりあえず2,3日休んでから出発しよう。その間、俺は他に情報がないか探しておく。」
「ええ、分かったわ。色々とありがとう。ユーリも無理しないでね。」
ユーリは分かってると言って、背を向けて部屋から立ち去る。
「もう、人の話を聞いているのかしら。まったく。」
少し無理しすぎよ、とリリーナは溜息をつく。
あんなに見るからにボロボロな格好で出歩いて不審者扱いされても知らないわよ、独り言を言いながらベッドに倒れ込む。
「...」
人魔戦争。
あの戦争で私はローランドから逃げる羽目になった。
何があったのか確かめなければ。それが姫としての最後の務めだから。
-------------------------------------------------
南の大陸は砂漠や荒地が大半を占める厳しい環境だが、人々はその中でも知恵を働かせて生き抜いている。
その知恵の一つに地下通路がある。
砂漠の下の硬い岩盤の下に無数の通路を掘り、それで各都市を繋いでいるのだ。
ユーリとリリーナが飛ばされた南の大陸の交易都市ゴルドサンドも例外ではない。
「ユーリ、ここで合ってるの?」
リリーナが案内された通路の入り口で問いかける。
地下通路の中はとても暗く、灯りを付けないと前を見えなさそうだ。
「ああ、ここを通れば南の大陸の北の港町に出られるはずだ。」
ユーリはそう言ってランプに灯りを付ける。
灯りを付け終わった頃だろうか、地下通路から重そうな荷物を背負った商人が飛び出してくる。
顔面蒼白でとても慌てている様子だ。
「何かあったのか?」
そう問いかけると、
「ま、魔物がいきなり出てきて...慌てて逃げてきたんだ...本当にしぬかと思ったよ...」
「魔物?地下通路は魔物はほとんど出てこないはずだが。」
「いや、本当だって!いきなり目の前に鳥の魔物が現れたんだ!羽を飛ばしてきておかげで荷物が穴だらけだよ!」
そう言って商人が荷物を見せると氷のように硬い羽がいくつも突き刺さっていた。
この砂漠地帯に似つかわしくない氷の羽。この地下通路で何かが起きているのは間違いない。
「どうするの?魔物がいるんじゃ進めないわ。」
「いや、このまま進むしかない。それとも砂漠から行くか?」
「絶対嫌よ!」
「ならすぐに出発するぞ。俺から離れるなよ。」
ユーリとリリーナは灯りを頼りに暗いトンネルの中へと入って行った。




