#4 過ぎた力
気がついたら僕は森の中に立っていた。
キマイラと戦った、あの不自然な空間。
身体は何ともない。指一本も動かせないほど衰弱していたはずなのに。
そして何故か右手には聖剣を持っていた。
豪華な装飾が施された鞘に収まっているそれは明らかに今まで見た剣とは違っていた。
雰囲気というか、オーラというか、言葉では言い表せない何かがその剣にはあった。
「一体何が...起こったんだ...?」
ジークに覚えているのは声が聞こえた直後に、剣が空から目の前に落ちて来た光景だ。
その剣をジークは必死に掴もうとした。しかし、腕は動かなかった。
その時朦朧とした意識の中で確かにもう一度聞こえたのだ。力が欲しいかと。
辺りを見回す。
血で染まった地面。所々破壊された地面や木々。
戦闘の後は残っているようだったが、肝心のキマイラの姿がどこにもない。
ジークには今起こっていることが全く理解出来なかった。
ともあれ聖剣を手に入れるという目的は達成出来たためトラキアに戻ることにした。
落ちている双剣を拾い、聖剣は上着に包んで森を後にする。
帰り道は何故か森は異様なほど静かで、何の動物の声もしなかった。
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ジークはトラキアに着くと寄り道せずに真っすぐ王城へと向かった。
すぐさま新王に謁見しようと手続きをしようと担当の兵士に話しかける。
「ジークフリードです。すぐに王に謁見したいのですが。」
「はい、少々お待ちください。」
そう言われ廊下で待っていると、急に辺りが慌ただしくなり、兵士がジークに向かって走ってくる。
兵士は特別な紋章を身につけており、ジークにはそれが王の直属部隊だということが分かる。
「一体何の騒ぎですか?」
隊長らしき人物がジークの目の前に立ち、残りの兵士がジークに向かって剣を向ける。
「ジークフリード・アルノーグ、貴様を国家反逆罪で逮捕する。」
「え?」
「国家反逆罪だ。お前が王に対して謀反を企んでいることは既に分かっているんだ。大人しくしろ。」
「私はただ王に与えられた任務をこなしただけです!謀反だなんてそんな!」
兵士達はジークの言葉を聞かず、ジークを牢屋に連行する。
牢屋に入れられて数時間後、何の尋問もなく死刑が申告された。
「...」
迂闊だった。
この任務自体がジークを始末する為の罠だったのだ。
聖剣を手に入れられなければそこで死に、逃げ帰っても聖剣を取って帰ってきても謀反の罪を着せて死刑。
あの謁見を受けた時点で"詰み"だったのだ。
武器も道具も取り上げられ、手首には錠。
ただ牢屋でじっと死刑を待つ他無かった。
ジークは運良く取り上げられなかったあるものを手に取ってじっと眺める。
それは、指輪。
特殊な宝石が付けられていて、それは対になった同じ宝石を引き合わせるという希有な性質を持っていた。
「エミリア...」
ジークはその言葉だけを連呼していた。
牢屋に入れられた今、そんな姿は彼女には絶対に見られたくないほどに情けない姿だった。
もし、彼女と生きて行ける未来があったのなら...
そんなことを考えながらどれぐらい経っただろうか。
暗い牢屋の中では時間の経過など分かりようがない。
不意にある言葉を思い出す。森で聞いたはずのあの言葉。
「力が、欲しいか?」
力が欲しい。
ここから逃げ出して彼女に会いたい。
この国の行く末などもうどうでも良い。もう一度彼女に...
「いいだろう、力をくれてやる。」
頭の中で声が響き、そしてジークの意識は暗転した。
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意識が戻る。
焼け野原。
城が。家が。建物が。
全て無惨に壊されている。
人がそこら中に倒れており、もう生きた人の気配はしない。
ただ何かが焼ける音が聞こえるだけ。
「なっ、なにが...」
「これがお前の望んだ力だ。」
空から声が聞こえる。
姿は見えない。確かに"それ"はそこに居た。
気がつくとジークの右手には聖剣があった。
いや、もう聖剣と呼べるのだろうか。刀身は血で真紅に染まっている。
「僕はこんな力なんて望んじゃいない!」
「いや、望んださ。彼女に会いたいなどという気持ちでごまかしていたが、お前は心の底ではこの国を心底憎んでいた。彼女の目を奪った、そして自分を暗い牢屋に閉じ込めたこの国を。」
「違う!だからってこんな皆殺してしまうような望みなんか持っていなかった!」
「でもお前は力を望んでしまった。その結果がこれだ。」
ジークの目は何かの力によって前に向けさせられる。
そこには。
剣で胸を刺されて死んでいるエミリアの姿があった。
「う、うわああああああああああああああああああああああああ!!!」
剣を落とし、頭を抱えて悶える。
そして悲しみによって抵抗力を無くしたジークの心に"それ"は入り込んだ。
その瞬間、ジークを中心とする黒い球体がトラキアを飲み込んで行く。
トラキアは、完全に跡形もなく消滅した。
-第2章 fin-




