0020暗殺者たちと孤高の王
茶色の髪はうなじ辺りで刈られ、ボサボサ。死んだ魚のような目は光がなく、鼻は顔面に埋め込まれた塔のように末広がりだ。
ダルゲゾンが首を傾げた。
「ずいぶん明け透けだな。グランザル殿にばれても殺せる自信があるということか」
「そういうことになりますねぇ」
カマキリ男は、自身の右側で飽食してぼんやりしている少年を指し示す。
「こちらは小生の奴隷エスロビ。15歳ですねぇ。肩の烙印を見れば、まあ小生の下僕とすぐお分かりいただけるでしょうねぇ」
髪の毛はブラウンで癖毛であり、まさに紅顔の美少年といった風情だ。
オレは無意識に自分の肩へ手をやった。少し嫌悪感をつのらせて質問する。
「そんなに奴隷の子を自分の側にはべらせたいのか?」
ラフィークは不気味な目をこちらへ向けた。
「エスロビは小生の分身のようなものです。この通り、小生と顔が似通っていて、気に入ったので買いました。誘ったりしないでくださいねぇ、クラネア氏」
「誰が誘うかよ」
ガドニスが興味深そうに訪ねた。
「ラフィーク、君は今まで何人始末してきたんだ?」
「6回ですねぇ」
「回?」
「小生は暗殺を愛していましてねぇ。相手を人間だと認識したことはこれまで一度もありません。ですから、『6人』ではなく『6回』なのですよ」
ガドニスは肩を上下させた。
「なかなかいい趣味をしてらっしゃる」
最後にグランザルが立ち上がった。豊富な白髪に、骨と皮だけのような痩せ細った面。いたるところに皺が目立つ。
「わしと7人とは殺し合う立場じゃからのう。わしの自己紹介はただ大海賊『骸骨』の元頭領、62歳ということで勘弁してもらおう」
一同を眺め渡す。その口調はあくまでほがらかだった。
「どれ、一通り7人の挨拶が終わって、少しは互いのことが知れたかのう。宴もたけなわじゃが、食事はこれぐらいにして、ちょっとわしについてきてほしい」
老人は猫なで声でそう言うと、立ち上がって出口へと歩き出す。オレを含む7人はぞろぞろと後をついていった。
食堂を出て厨房の反対側へ向かい、通路へ抜ける。着いたのは元聖堂横の列柱回廊奥、『8号室』だった。
「先に着いていたものは薄々勘付いていただろうが、ここがわしの寝起きしている部屋だ。ちょっと荷物が多くて狭いがな」
前置きして扉を開ける。間取りはオレの1号室と同じだったが、内容が違った。
そこには長剣が多数入った剣立てや、斧、槍、短剣、棍棒、鎖鎌などなど、各種の武器が揃っていたのだ。その奥に小ぢんまりしたベッドが置かれている。さながら武器庫だった。
館主はオレたちを部屋の中へといざなって、ロウソクを机に置いた。
「これがお主らの、そしてわしの武器じゃ。どれでも好きなものを自室に持ち帰って、7日後の日没までにわしを殺しにきてほしい」
殺される側の人間が、嬉々として相手に得物を渡す。何とも異様な話だった。グランザルが楽しそうにつぶやく。
「わしはそうじゃな、とりあえずこれだけ備えておこうかな」
長剣を一振り取り出し、鞘に収めて腰に佩いた。
オレは短剣の投擲が得手だが、単純にそれらだけを手にするのはまずい。グランザルにばれてしまえば奇襲は不可能となるからだ。そう考え、オレは重たい長剣を腰紐に吊り下げて、その上で短剣を三本手に入れた。
他の者は様々だ。ダルゲゾンとベルサリオとブロニッカは鼻を鳴らし、武器など顧みず立ち去った。必要ないのか、この公開の場では選べないのか、どちらかだ。『飛燕』ガドニスは比較的軽そうな短めの長剣を手にする。ハイドロは短剣を無造作に検めた。『蟷螂』ラフィークは槍を手にする。確かに彼の手足の長さに槍が加われば、間合いで負けることはないだろう――振り回す余裕のある場所であれば。
オレは自分の準備は終わったとばかり、1号室――オレに割り当てられた部屋へと引き下がった。どうやら暗殺者7人は、来た順番通りに部屋を割り振られたらしい。最初に到着したオレは、だから1号室だった。
ドアにかんぬきをかける。ロウソクの火を消さないように注意しながら、武器を外して壁に立てかけていった。その上でベッドに腰掛ける。改めてグランザルの依頼に思いを馳せた。
数年前まで近海を荒らし回っていた大海賊――『骸骨』の元頭領、グランザル。彼がどこかに隠したという莫大な財宝。それを、自分と一対一で闘って勝利した者にくれてやるという。何という不思議な話だろう!
オレはベッドに寝転がった。石壁のこの部屋には明かり取りの窓はあるものの、縦に細長い通風孔といった趣きなため、採光は良くない。まあ、今は夜なので別にいいが。
ベッドの横に置かれた背負い袋に手を伸ばす。届かなくて、起き上がって身を寄せた。袋の中からズールの巻物を取り出し、中身を再読する。
『また一仕事頼みたいと思っている。危険性は全くない。それどころか巨万の富を得られる好機会だ。以下の場所に立つ館を速やかに訪問せよ。仔細はそこで聞くとよい』……
今読めば、なるほどそういうことだったかと合点がいく。確かにこんな仕事、手紙に書いて信じてもらえるものでもなかっただろう。
だが――
肝心の標的であるグランザルは、かなり手強い、と思う。少なくとも最初に出会ったときのあの殺気は尋常のものではなかった。一流の戦士の風格さえ備わっていた。オレが闘っても勝てるかどうか。
なら、闘わないに限る。今のオレの目的はズールとの再会であり、7日後の日没まで何事もなく過ごせば確実にそのときを迎えられるのだ。莫大な富も財宝も、それに比べればちっぽけなものだった。
それにしても、ズールはオレ以外に6人もの暗殺者を抱えていたのか。結構驚かされた。前に本人から聞いたことがあったような気もするけど。
リゲール王子の飼い犬として働き、彼が即位した今は見捨てられたズールとその暗殺者たち。今回の仕事は、他の連中には容易いのだろうか。グランザルと対決して、彼らの中から勝つものが出てくるのだろうか。
何にしても、初日の夜はみんな様子見だろう。動くものはいないはずだ。オレは手紙を丸めると背負い袋に差し込んで、シーツを被った。
二日目。予想通り、オレたち7人――奴隷のエスロビも入れれば8人か――も、グランザルも召し使いチャベスも、全員無事で朝食の席に着いた――チャベスは給仕係だったが。
オレは何となくほっとしていた。自分でも珍しい感情だったが、やはりズールをよく知る者同士という点で仲間意識が働いたらしい。グランザルの財宝については、一晩明けて考え直してみると、やはり魅力を感じてしまう。ズールと何不自由なく将来を暮らせるという観点からすれば、確かに貴重な宝物だった。
でも、ズールと懇意らしいグランザルを殺すというのも、どことなく気が引けた。仮に勝てると考えても、老人はズールに自分の封蝋印と直筆の文面でオレたちをここへ呼び集めさせたほど、彼と信頼関係にある。それを殺害するのはズールの不興を買わないか。




