0019暗殺者たちと孤高の王
「罪悪感は?」
オレは首を振った。
「ないな。オレに殺されたのが、そいつの生まれ持っての寿命なんだと考えるようにしているから」
「へえ、僕と同じだね」
「僕はガドニス。24歳。聞きたいことは?」
黒い髪を銀の環で頭上で絞って垂らしている。細い面で冷ややかな目つきは、さながら狐のようだ。
無口な大男・ダルゲゾンが、珍しく手を挙げて積極的に話しかけた。地鳴りのような声音だ。
「貴殿は強敵に出会ったとき、興奮で打ち震える性質か?」
ガドニスは肩をすくめた。
「いいや。僕が興奮で打ち震えるのは、若い美人のお嬢さんを目の前にしたときだけさ」
冗談で返されても巨人は気を削がれない。
「ふむ。……それがしは貴殿を見て高ぶっているぞ。どうやらかなりの使い手と見た。それがしは強者が好きだ。それと闘うことも、打ち破って死に至らしめることも、な。どうだ、ガドニス殿。ちょうどいい広場もある。そこで一対一でそれがしと闘わぬか?」
「遠慮しておこう。僕はむさいおっさんが嫌いなんでな」
グランザルが組んだ手に顎を載せる。興味深げに目をすがめた。
「わしからも聞いておきたい。お主は今までの数知れぬ暗殺で、手傷を負ったことはあるかいのう?」
ガドニスは微笑した。
「僕を殺して、着物を剥いで確かめればいい。僕は財宝を隠しているあんたを殺すことに、やぶさかではないんだ――今はまだ、その気はないけれどな」
「俺はハイドロ。18歳。質問はなるべくなら受け付けたくないな」
若干の幼さと大人らしさが溶けて混じり合う相貌だ。髪は緑がかった黒色で、後ろでまとめて垂らしている。
オレは面白く感じて尋ねた。
「それはなぜだ?」
「まだ俺には帰りを待ってくれている仲間たちがいる。俺の帰還を妨げるような真似を、たとえそいつが何者であっても、されたくはない。まあズールと再会して、彼に安全の確認を取ってもらってからの話だが」
「2年半経った今でも、お前の言う仲間とやらは待っていてくれるのか?」
「もちろんだ。そう確信している」
ラフィークが右に座るエスロビの頭髪をもてあそびながら、ハイドロに目を向けることなくつぶやいた。
「青いですねぇ。人の心は移り変わるもの。肉親でもない限り、他人を信用してはならないのが当然ではないですかねぇ」
ハイドロはこざかしいとばかりに鼻を鳴らす。
「お前は赤の他人であるズールを信用して『蟷螂』として活動してきたんだろう? そんな事を言われる筋合いはないな」
ラフィークは失笑した。
「あれ、そうでしたねぇ。小生としたことが……。ほらエスロビ、口元をお拭きなさい」
「私はベルサリオ。24歳よ。サバは読んでないから安心して。質問疑問、何でも受け付けるわ。ただし口説こうとしても駄目だからね」
化粧を変えて、確かに絶世の美女と呼んでもいい素晴らしい顔立ちだ。金髪を結って腰まで垂らしている。体型も抜群で、同じ女のオレでもついつい見とれてしまう。
ガドニスが両腕を組んだ。
「こんなことを言うのは何だが、君はこの7人の中で一番弱いと見える。本当にズールを仲介人とした暗殺者なのか?」
「心外ね。これでも3人――そんなに多くないけど――の男を殺してきたわ。高い報酬をもらってね。失敗したことは一度もないわ」
ハイドロが前髪をかき上げた。疑問の目をベルサリオにぶつける。
「どうせベッドに誘い込んで隙を見つけて殺す、程度の殺り方だろ」
美女は口を尖らせた。
「あら、それでも成功してきたんだからいいじゃない」
少年が呆れたように追撃した。
「おい、本当にそうなのかよ」
「あ……」
黙ってやり取りをうかがっていたグランザルが、ここで哄笑する。
「ベルサリオ嬢は面白いのう。お主にならぜひとも殺されたいものじゃ」
ブロニッカがゆで卵を頬張った。
「将来の夢とかあるの?」
ベルサリオは一転、両目を輝かせる。
「私が落ち延びた先は貴族レイアム様の屋敷でね。この2年半、彼の愛人として過ごしてきたわ。いつか上手いこと正妻を追いやって……」
しかし何か気になることでもあるのか、声の調子が落ちた。
「上手いこと正妻を追いやって、その地位を横取りするのが私の夢なの。そう、夢なの……」
オレはその変化を不思議に思ったが、追及する気はなかった。
「何だ、結構夢想家なんだな」
「いいでしょ別に」
「それがしはダルゲゾン。34歳だ。グランザル殿を殺して財宝を手に入れるのも魅力的だが……それがしは自分より強い者と闘うことの方が望みだ。もしグランザル殿が強いというのであれば、一戦交えることも辞さぬだろう」
岩が引っ付いて出来たような顔貌に、これ見よがしに鍛え上げられた筋肉を持つ、山のような大男だ。髪の毛はない。
ラフィークが杯の水を飲んだ。
「その巨躯で今まで暗殺してきたなんてねぇ。目立ってしょうがなかったでしょう?」
「問題ない。護衛や目撃者がいても、標的もろともことごとくこの拳で殴り殺してきたからな」
嘘じゃないとでも言わんばかりに、節くれ立って強くて硬そうな拳を見せ付ける。
ハイドロが試した。
「『岩躯』……。それがダルゲゾン、あんたの暗殺者としての異名だろう。聞いたことがあるぞ。ひたすら殴り殺す屈強な殺し屋の話をな。見た目も暗殺の仕方も、異名そのまんまだな」
ダルゲゾンはうそぶいた。
「さあ、それがしは知らぬな」
ベルサリオが肉の切れ端を口に放り込んだ。
「ダルゲゾン、貴方この2年半どうしてたの?」
「差し障りがあるので答えたくないな」
「僕はブロニッカ。26歳だよ」
赤いおかっぱ頭に二重顎が道化のようだ。
「ここの料理は美味くて最高だね。いい腕だよ、君」
7人のうち唯一の肥満体型は、目を輝かせてそのように賛美した。褒められたチャベスもさすがに悪い気はしないようだ。慇懃に一礼する。
「ありがとうございます」
俺は脂肪だらけのブロニッカに少し呆れていた。
「そんなにぶくぶく肥えて……。それでも本当に暗殺者なのか? 今までどうやって逃げてたんだ?」
ブロニッカはスープをお代わりした。
「これでもすばしっこいんだよ、僕。それに汗っかきじゃないから、全力疾走して退散した直後でも、周囲に怪しまれたりはしないんだ」
ハイドロが鶏肉を切り裂いて咀嚼する。
「いったいどんな手で暗殺するんだ? どうみても鈍重そうだが」
ブロニッカは嘲笑した。
「僕は簡単に手の内を明かす馬鹿じゃないもんね。異名も答えないよ」
会話を聞いていたグランザルが、くくくと笑った。
「これは楽しみじゃ。ぜひともわしを殺しにきてほしいものじゃな」
嘘偽りのない願望のようだ。肥えた殺し屋は届いたスープに新たなパンを浸す。
「考えとくよ。お金がなくちゃ腹一杯食べられないからね、莫大な財宝とやらは魅力的なんだ」
「最後は小生ですねぇ。名前はラフィーク。ブロニッカ氏と同じく26歳ですねぇ。既に名乗りましたが、異名は『蟷螂』。長い手足を武器とします」




