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0018暗殺者たちと孤高の王

 ズールはときどき仕事の依頼を持ち込んできたが、その暗殺対象はリゲール国王の政治に反対する一部の臣下だったりした。もちろん俺はズールを信頼していたので、迷うことなく引き受ける。下見や様子見を入れても、3ヶ月以内には抹殺に成功していた。かなり早いほうだという。


 その頃の俺は、『陽樹』の面倒を見る必要も『カラス』を全滅させる目的もなくなり、暗殺稼業と両親の墓を守ること以外は何もしなかった。セグリットに裏切られた心の傷も()え、少しずつ、じわじわとだが、ズールを筆頭に他人を信じられるようになっていた。彼らの訪問とその際の昔話が、俺の唯一の楽しみだった。




 しかし喜んでいる暇もなかった。それから1年と経ってない2年半前、ズールが俺の家に慌てふためいてやってきたのだ。


「リゲール国王がお前たち暗殺者を消そうとしているらしい。すぐ逃げるんだ。早く!」


 ズールの異常な血相に、俺は事態の深刻さを悟った。決断は素早かった。


「ズールはどうするんだ?」


「俺もいずれ脱出する。だが今はお前たち殺し屋の逃亡が優先だ。俺を信じて、今すぐ都を出てくれ。地図の場所に行ってくれさえすれば、いつか必ず便りを寄越す」


 かくして俺はいったん王都から離れ、港町に落ち延びていった。


 資金は『陽樹』に注ぎ込んできたため、手元にはわずかしかなかった。それすらはたいて家を買った俺には、優雅な田舎生活を楽しむゆとりもなく、船の積み下ろし作業に参加してどうにか糊口(ここう)をしのいでいった。




 そうしてつい最近、俺はズールの手紙を受け取ったのだ。彼への信頼は、危険な香りもする今回のいざないに踏み込むことも苦とさせなかった。


 まさか、彼の仲介した暗殺者7名が揃うとは、夢にも思わなかったが……




   (三)




 オレも含めた暗殺者たちは、食堂で思い思いに料理を口にする。オレは果実をかじりながら、試みに尋ねた。


「ズールから2年半前、地方へ姿を消すよう言われたのは、全員同じか? フネス王国現国王リゲールがオレたちを抹殺しようとしている、という理由で……。少なくともオレはそうだったが」


 オレは周囲の客人たちを見渡した。ガドニス、ハイドロ、ベルサリオ、ダルゲゾン、ブロニッカ、ラフィーク。オレと視線を交錯させたものは、皆黙ってうなずいた。やはりそうだったか。


 オレは最後に館主である老人グランザルを見た。つい睨む勢いになってしまう。


「グランザル、お前は実はリゲール国王側の人間じゃないのか? 今までの話はでたらめで、オレたち暗殺者を一網打尽(いちもうだじん)にして殺そうとしているんじゃないのか?」


 招待主は一笑に付した。冗談交じりで語る。


「そう思うのならここは危険じゃ。今にも国王の兵隊が来るかも知れんぞ。クラネアよ、早々に立ち去られてはいかがかな」


 オレは少し頭にきて、つっけんどんに返した。


「単なる思い付きだ」


 酸っぱいチーズを噛み締める。もしグランザルがその気であれば、何も7人全員が揃うのを待つ必要などない。来た順番に手当たり次第に殺しているはずだ。それに、自分を殺した者に財宝を授けるなどという突拍子(とっぴょうし)もない話は、早々思いつくものでもないだろう。


 オレは思索をもてあそびながら食事を続けた。黒いパンを千切り、温かいスープに浸して口に運ぶ。秋も盛りのこの時期に、暖を取れる夕食はありがたかった。


 太っちょのブロニッカが何度もお代わりを要求する。これはもういつものことであった。たいていは召し使いのチャベスが「もう提供できません」と断りを入れるまで、ひたすら食べまくるのだ。どんな胃袋をしているのか覗いて見たいところである。


 それに次いで――というのは失礼かもしれないが――食欲旺盛なのが、『蟷螂』ラフィークの奴隷であるエスロビだった。ご主人様のにこやかな笑みのもと、礼儀作法にかなった指使いで料理に舌鼓(したつづみ)を打つ。元は高貴な家の出だったのかな、とオレは推測した。ラフィークが左側、エスロビが右側というのが、彼らの慣習的な立ち位置らしい。今は座っているが。


 意外に小食なのがダルゲゾンである。食べなくても栄養不足にならない体質なのか、この館に来てから(つつ)ましい量しか摂取していないのに、その岩のような巨躯は一向細くならなかった。それとも、毎日訓練と称して敷地外の森へと運動しに出かけていくから、そこで野生動物でも狩って食べているのではないか。そんな勘ぐりさえしてしまう。


 他の面々はいつも、それぞれの体格に見合った食事量である。ついさっきまで何のためにこの屋敷に来させられたのか分かっていなかったわけだから、むしろ当然であるかもしれない。両手を血で汚した暗殺者である以上、いつでも官憲から逃げ出せる体調を整えておいて当たり前なのだ。


 酒は用意されていたが、まだ気を許していないのか、ブロニッカも含めて飲もうとするものはいなかった。これはオレが最初の客としてここに到着して以来、相変わらずである。


 やがてグランザルが――彼も酒は控えている――手を叩いた。


「一人一人自己紹介しようではないか。暗殺者としての異名は伏せるとして、本名と年齢、軽い質問の受け答えぐらいは構わないはずじゃ。もちろん気に食わない問いかけなら返事を断ってもよい。どうじゃろうか?」


 一同を見渡す。賛成するものも反対するものもいなかった。消極的肯定と捉えたか、グランザルはオレを指名する。


「ではここに来た順番で語ってもらうとしよう。まずはクラネア、お主からじゃ」


 オレはやれやれと立ち上がった。視線を集中されて少し気恥ずかしい。




「オレはクラネア。21歳。何か質問はあるか?」


 ベルサリオが頬杖をついてにやにやと問いかけてきた。


貴女(あなた)、ズールと寝たことある?」


 下品な質問にオレは面食らった。


「いきなり何だよそりゃ」


「あの人、仕事以外の話は一切しないから。私が誘っても、ベッドに近寄るどころかさっさと帰ってしまうし。で、どうなの? クラネア」


 オレはどう答えるべきか困惑した。同性にズールを取られないためにもそうだと答えておくべきだろうか。それとも嘘をついておいた方が無難だろうか。


 しかしオレの回転する頭が答えを返すより早く、ベルサリオは沈黙から何かを読み取ったらしい。彼女はつまらなさそうに手を振った。


「ああ、もういいわ。何となく分かったから」


 自分から話題を引っ込める。オレは小さく安堵の息を()いた。


 今度は少年のハイドロが挙手する。


「グランザルを殺す自信は?」


 オレは肩をすくめ、実際の心情を述べる。


「さあ。そもそも話自体が疑わしいし、オレはグランザルに恨みはないからな。殺す自信以前に、殺さないという選択肢の方が有力だ」


 より明確な直感――「オレの腕では殺せそうにない」――については言わなかった。


 ブロニッカが自身の指を舐めながら尋ねてくる。


「差し障りがない範囲でいいけど、今までに殺した人数は?」


「そうだな……」


 オレは過去を思い返しながら指折り数えた。


「8人。大物小物、色々いた」

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