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0014暗殺者たちと孤高の王

 バンジョーもといズールは、ぬるま湯のような風に髪をなぶらせる。


「そして今日、俺はリューカス暗殺の成否を尋ねに、セグリットの舟の逃走先である岸壁を目指した。その途中さ。港の方から上がってきた担架に、ブレー一丁の『潜水能力のやたらと高い13歳の少年』によく似た子が乗せられているのを見たのは。武装した騎馬の男たちが素性を怪しんでいる様子なのに気がつき、これはもしやレジムではないか――いや、まさしくそうであろうと察してね。機を見るに敏と、割り込ませていただいた。どんぴしゃだったわけだな。打ち合わせもなく話を合わせてくれてほっとしたよ。ある意味、俺にとっても賭けだったからな」


 なるほど、そういうことか。それにしてもこのズールという男、今回の依頼人だったのか。


「なんでリューカスを暗殺してほしかったんですか?」


 ズールは笑って手を振った。


「違う違う。俺は暗殺の仲介人だ。依頼主は別にいる。それについてはまあ秘密だな。リューカスを(うと)ましく思う人間が頼んできた、というだけで察してくれ」


 俺は今回の暗殺における不審な点を(ただ)した。


「なんで今日に限ってリューカスは護衛を連れていたんですか? なんで桟橋に5人もの番兵がいたんですか? 彼らは俺をまさに暗殺者として捕まえようとしていましたが、どこからそういった情報を得ていたんですか?」


 俺はセグリットの手で罠にはめられたんですか? とまではさすがに聞けなかった。ズールは困った顔で肩越しに答える。


「さあ、俺にはさっぱりだ。あずかり知らぬ。ともかくも彼と会って話してみればいいことだ」


 言及を避けたわけだが、真実そのようなので俺は押し黙った。


 ズールが俺を連れて行ったのは古着屋だった。店員は俺を採寸し、見合うシェーンズとブリオーを適する価格で販売した。もちろんズールのおごりだ。まとった衣服は暖かだった。


「じゃあ、ここまでだ。達者でな、レジム」


「色々ありがとうございました、ズールさん」


 青年は俺を残して去っていった。俺は再び肩の傷がうずき出したのを感じながら、貴族ノルドイの屋敷へ帰還する。そこが『陽樹』の王都における根拠地であるのだ。


「レジム! 何だよその服は?」


「おいレジム、顔が真っ青だぞ」


「腹減ってるだろ? パンでも食おうぜ」


 仲間の少年少女が俺を出迎えてくれた。無事に再会できて俺はほっとする。港で絶望的な思いをしたのが遠い過去のようだ。


 やがてセグリットとエウーズも階下にやってきた。彼らは心配そうに俺に接した。


「エウーズから聞いたぞ。よく帰ってきてくれた。本当にすまなかった。今さっき、リューカスの死が伝わってきたところだ」


 セグリットは心底から詫びる様子だった。


「まさか奴が護衛を引き連れているとは思いもよらなかった。港では俺の舟を出す隙もないほど、番兵たちがうろついていた。理由はどうあれ結果的に見殺しにしたような形になってしまって、心から謝罪する」


 俺は聞きたかった言葉が聞けて、自分という入れ物が再度満たされた気持ちになった。俺は失ってなどいなかった――


 どっと疲労感が俺を包む。良かった。セグリットは俺の味方だ。


「ズールに会いました。助けてもらいました」


 セグリットは目を丸くした。


「そうだったのか。あるいは――」


 言葉を区切り、慎重そうに己の疑心を明かす。


「あるいは、ズールが俺たち『陽樹』を試すために、匿名の手紙でリューカスに事前通報したのかもな」


「ズールが……?」


 俺は彼の顔を思い浮かべた。病院を出てからは、嘘をついているようには見えなかったし、「あずかり知らぬ」とまで言っている。彼がリューカスの殺害を依頼しておきながら、その裏で標的の防備を固めさせるなど、果たしてありうるのだろうか。もしそうなら、俺を助けた意味は?


 エウーズが俺の頭に手を載せた。


「何にしてもご苦労だったな、レジム。ゆっくり休めよ」


「ありがとうございます」


 こうして俺の初の暗殺は成功裏に終わった。しかし俺は両手にこびりつくリューカス殺害の手応えで、なかなか寝付けなかった……




 そんなことがあってから一ヶ月後。リゲール王子とミゼッタ姫――宰相ファレイムを後見人とする――の関係が不穏であるとの噂が流れた。夏の暑い盛りに、俺はセグリットに呼ばれて面談室に入る。そこにはズールがいて、セグリットと何やら重苦しく相談していた。


「ようレジム。肩の傷は()えたか?」


 俺の姿に魅力的な笑顔を見せる。俺は首肯した。


「おかげさまで助かりました。……セグリット団長、シャーロットから聞きましたが、俺に用があるとか」


「まあ座れ」


 俺は椅子に腰を下ろした。それぞれを頂点としたいびつな三角形が出来上がる。『陽樹』リーダーは気さくに話しかけてきた。


「この前確認したんだが、リゲール王子は俺たち『陽樹』とその後援者である商人組合について、(すこ)やかなる存続を気にかけておられるそうだ。そこで基本方針として、『陽樹』は王子陣営側について運用されていくことになった」


 その話ならエウーズからも聞いている。『陽樹』メンバーは皆承諾済みのことであった。


「ズールさんの今回の依頼もまた、王子側からの仲介により持ち込まれたものだ」


 セグリットは俺の瞳を射抜くように見つめてくる。どうやら今回もまた俺の潜水能力を当てにしたらしい。


「レジム、一ヶ月前のリューカス殺害に続いてお前にしか出来ない仕事だ。宰相ファレイム側であり、職人組合側でもある、盗賊団『カラス』のナンバー2――ゼンダを暗殺してくれ」


 俺は俄然(がぜん)乗り気になった。『カラス』は親父やお袋の仇だ。その幹部を殺すというのは、俺の復讐にかなうものである。前傾姿勢で返した。


「分かりました。是非やらせてください」


「そういってくれると期待していたよ、レジム。ありがとう」


 セグリットは微笑んだ。2人して握手を交わす。


『陽樹』と『カラス』の争いは断続的に続いていた。だが『カラス』の隊商襲撃を防ぐには毎回こちらの動きが遅すぎて、いつも襲撃後の残骸を前にしたり、はたまた『カラス』への待ち伏せが不発に終わったりと、成果に乏しかった。それに対する苛立ちも俺の中にはある。今回は上手くいくのだろうか。


 それにしても。


「『カラス』のナンバー2のゼンダなど、どうやって特定できたんですか? この3年間、連中の組織構成は謎に包まれたままだったのに……」


 俺は疑問をぶつけた。ズールが答える。


「その情報は言えない。ただ判明したとだけしか他にないんだ。レジム、分かってくれ」


 煙に巻かれた気がする。俺はこの前の一件もあり、ズールに不信感を抱いたままだった。しかし、とにもかくにも『カラス』への報復をこの手で敢行出来るのだ。俺は細事(さいじ)にこだわらず、新たなる暗殺計画を完全に成功させようと気合を入れた。


 馬のように縦長い顔の輪郭。目鼻口のパーツが相貌の中央に寄り集まっている。女のような丈長い灰色のブリオーを好む。常に長剣を帯びて威風堂々(いふうどうどう)。がっしりした体格……

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