とくべつになりたい2ー2
墓の前で合掌する。
墓は『剣聖』の名前からは想像も出来ない位に簡素なもので、他の墓と変わり映えはしなかった。
尤も、話を聞くに飾らないのを美徳にしたからこそ、そこに息衝く人間臭さを街は好ましく迎えたのだろう。
一は一際熱心に手を合わせている。やはり親友と言うものは特別なのだろう。
…アニは何を以ってあの日『とくべつ』と口にしたのか。
これから俺が為す行為は恐らく、アニの特別を踏み躙る事になるだろう。
俺は一に発破をかけた。だがその実本当にカガリノマエと付き合うことも考えている。
下種な話だろう?本当に自分のこう言う所が俺は大嫌いだ。
これは善か偽善か、なんて事ではない。
これは純粋な悪であるべき事なのだ。
「やっぱり…あかんのう。ここに来ると」
目を細めて一は言った。
そう言えば服装も紺色の作務衣ではなく黒だ。喪に服すのだから気を遣ったのだろう。
「泣きたくもなるか」
ああ、とド正直に返されたものだから言葉の接ぎ穂がなくなってしまい気不味い空気が流れる。
元より笑い飛ばすような話でもない。完全に間違えた。
にしても我ながら不粋な問いをしたものだ。一が親友を一遍に失くしたのはほんの数年前の出来事だ。時間が傷を癒すにはまだまだ時間が経っていない。
そう俺は思う。
仕方ないな、と踵を返し…立ち止まる。
この空気にしてしまった原因は俺だ。
だから、俺がどうにかすべきだと、それが道理だと思う。
俺は一がどんな気持ちでここにいるのか、大体の推測は出来る。そう言った感情のサンプルは俺の中に沢山、それこそ腐る程ある。いっそ在庫処分したいくらいだ。
だが、それは飽くまで推測であって個人の抱いた感情そのものでは決してない。
だから、俺には一の気持ちが分からない。
ジャックにサイコパスと言われたのも頷ける。
だからせめて今は。
一に背中を貸してやろうと思う。
背中なら一の顔は見れない。
「…今は泣いて良いと思うぞ」
「うっさい…もう泣いとる」
「そうか」
親友を想って泣く事くらい許されて然るべきだろう。
俺にもたれかかる重さを感じながら立ち尽くす。
すすり泣く声が聞こえる。
咽ぶ声が聞こえる。
「背中が…冷たい」
「それ今言うかいあんさん…」
「で、さっきから僕空気なんだけどさ。ちょーっと気になる事があるんだけどねぇ」
にゅっと気持ち悪いフェードインをしたのは…ジャック。場の空気の読めなさは一流でいっそ清々しい。
「君の親友の霊魂。ここにないよ?」
「!?」
泣き顔が一転茫然とする。
「いやぁ、君たち。特にハールーンだけど僕が死の案内人にしてカボチャの王様『ジャック・オ・ランタン』な事忘れてないかなぁ!?一応『魔王の欠片』の探索が急務だけど、僕の本職は魂を導く事だからね!だから、あわよくば回収しようと思ったんだけど…」
「無かった…?嘘やろ」
いやぁ、本当なんだなぁ…と軽く言ってしまうものだから俺と一は直前がシリアスだったから目を丸くした。
「じゃあ梶の魂はどこにあるんや!?」
「分からないよ。僕にはいない事は分かってもどこにいるかは分からないよ」
詰め寄る一を無視して人外じみた動きでするりするりと逃げ回る。
「ただ、そうだねぇ。彼にまつわる物に取り憑いて付喪神になったり。そういったケースは割りかしあり得るかな」
「じゃあもしかして初期の三本の刀に憑いてるとかじゃないのか?」
話から想起したのは『剣聖』の『永遠結』、『剣姫』の『久遠護』、『鉄打ち』の『縁徹』。
『剣聖』の『永遠結』は魔獣カガリノマエに折られたが他の二本については言及されていない。
「いや、それは有り得ん。ワリャの刀は梶の死体を運ぶときにはボロボロで梶を見送った後にゃ勝手に折れた。せやから今は木刀の『水月』を使うてるんやけんど。で、篝の刀はカガリノマエになったときに変質して別物になったはずや。せやから…それは有り得ん」
重苦しい空気が再び場を満たした。
雨はゆっくりと降り始めるーー。




