表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/53

#7-7「ドラゴネクスト!」

「不可能も理不尽も不幸も、全部壊して幸せにする……それが、心のヒーラーなんです!」


 ジアンソでのあの決意を思い出し、私はミルカさんに言い放つのだった。


 そして、何メートルか後退した。


「じゃあ、やっちゃってください」


「アンタ戦わないんかい!!」


 フィオさんの怒号が耳に響いた。ごもっとも。


「も、もちろん戦う気はありますっ! でもそのー……やっぱり、現実的に考えると正面から素手で向かっても勝てないですし……特に私じゃ」


「まあ、そりゃその通りだけど……」


「ほー? そりゃ、武器が欲しいってことかい?」


 私達の前に立つユイナちゃんが、こちらを振り返った。


「じゃあこれ、ハーティに貸すよ。お嬢様なら習ったことあったりしない?」


 そう言ってユイナちゃんは、自分の背中を指差した。そこに背負われているのは、サファイアを宿した星弓。


「"天命の弓"……! で、でも私、矢なんて持ってません!」


 確かに、弓なら使い方は家で習ったことがある。だけど、そもそも撃ち放つ矢が無いのでは、使い方以前の問題だ。


「だいじょーぶ! とにかく構えて構えて」


「は、はいっ」


 言われるがまま、私はユイナちゃんが投げた弓をキャッチして構えた。


「ミルカ!! モウコロシテイイカァ!?」


「ええ、どうぞなのです」


「ハーティ、右ッ!」


 フィオさんに言われた通り、矢も取り付けないまま右に照準を合わせる。狙った先では、ミルカさんに首輪を外された小さな鎧の幽霊が、短剣を構えて突進してきていた。


「……こ、これは……!」


 照準が鎧に合ったその瞬間、弓を持つ左手が熱くなった。火傷しそうなほど熱いのに、触れていても痛みを感じない心地良い炎。そんな青い炎は、細長い棒状に自らを形成していった。


「矢が……!」


「ナニィ!?」


 右手で青い矢を掴むと、見えない弦がピンと張ったような感覚がした。いける。訳がわからないけど、この矢を放てる……!


「やあああああっ!!」


「グオオオオオッ!?」


 右手を離すと、流星のような輝きを放つ矢は、まっすぐに鎧の胸元を捉えて容易く貫いた。胸に大きく開いた穴の向こうで、他の幽霊達が慌てているのが見えた。


「バカ、ナァッ」


「や、やった……ユイナちゃん、これって!」


 やがて、矢を喰らった幽霊も力無く倒れた。振り返ると、一部始終を見届けたユイナちゃんがグッと親指を立てた。


「"持ち主の強い心を矢に変えて放つ神器"。やっぱ、ハーティが持ってるのが一番っぽいね」


「ユイナちゃん、そんなことどこで知ったんですか?」


「フフッ……説明書読んだ」


「説明書とかあるんですね」


 神秘の武器っぽいのに。


「すごい……」


「モラッタァ!!」


「あっ……!」


 ゆっくり話してる場合じゃなかった。背後ではステラちゃん目掛けて、一回り大きな鎧の幽霊が鉄の斧を振り下ろそうとしていた。


「"エレメントワーク"!」


 瞬間、オレンジの髪が視界を通り抜けた。フィオさんは素早く両者の間に割って入り、振り下ろされた斧の前に両手をかざす。


「ナッ!? オノガ、キエタ!?」


 鎧が驚きの声を上げる。彼の一撃は、2人には届かなかった。というより、彼の攻撃そのものが消失した。斧は消滅し、彼の手元には、細い木製の柄しか残っていない。


「あー、なるほど……鉄斧をサビまみれにして自壊させたんだ。なんか前より使い勝手良くなったみたいね、あたしの神授」


 フィオさんは自分の手を見つめながら言った。


「幽霊が取り憑いたフォークや鎧には、なぜかエレメントワークが効かないみたいだけど……その斧はアンタが装備してるってだけで、幽霊の憑依してないただの無機物だものね?」


「コイツッ……!」


「うおりゃ!」


 幽霊が激怒して振り翳した鉄の拳は、彼女には届かない。横から割り込んだユイナちゃんの飛び蹴りが、彼を部屋の壁まで突き飛ばしたのだ。


「グオオオオオッ!?」


 大爆発の如き轟音と共に、鎧は部屋の壁を突き破る。白い壁に巨大な穴が開き、その奥の整頓された物置き部屋が露わになった。壊せないのは外へ繋がる外壁だけで、お屋敷の内部に耐性は無いらしい。


「ステラはあたしが守る! 2人でコイツらを叩いて!」


「みんな、でもっ」


「大丈夫です。私達に任せてください」


 私はステラちゃんにそう言って、前へ向き直った。奥ではミルカさんが「行け、行け」と幽霊達に手で合図している。それに合わせ、高笑いを上げながら幽霊達が歩き出した。


「い、いっぱい来る……!」


「平気。僕が付いてるよ」


 思わず呟いてしまった私の肩を、ユイナちゃんがとんとん叩いた。彼女はそのまま、両手を真っ黒な竜の手に変えて幽霊達の方へ歩き出す。


「オマエラ!! カコンデ、ツブセ!!」


「オーッ!!」


「ユイナちゃん!!」


 叫んでももう遅い。一斉に走り出した鎧の幽霊達は、そのままユイナちゃんを上からその身で押し潰した。


 鉄の山の中に、彼女の姿が消えてしまった。いくら中身が空っぽでも、鉄の塊があんなに降り注いだら……!


「効かーーーん!!」


「グワアアアアッ!?」


 元気な叫び声と共に、あり得ない出来事が起きた。ユイナちゃんは、布団を跳ね除けて起きるかのように、鎧の大群を容易く吹き飛ばして立ち上がった。力任せに吹き飛ばされた鎧達が、パーツをでたらめに撒き散らしながら四方八方に倒れていく。


「ユイナちゃん!? その顔、一体……」


「あー、これ? 前黒亀と戦った時、なんやかんやあってさー。変身できるようになったんだよね」


 爪痕のような紋様を両頬に浮かべ、真っ黒なツノはいつも以上に鋭く、太く突き立っている。それでも、その声色はいつもと変わりなかった。


「んー、でもなんかあの時ほど強くなってないなー……まーとにかく、これがワンレベル先に進んだ僕。名付けて──」


「コノヤロォォォッ!!」


 唯一吹き飛ばされずに堪えたタフな鎧幽霊が、大剣を振り上げながらユイナちゃんに叫んだ。


「──"ドラゴネクスト"ッ!!」


「ヌオォォォォ!?」


 それでも力の差は明白。ユイナちゃんのアッパーを叩き込まれた鎧は、打ち上がってお屋敷の天井に突き刺さった。


「ナニィ!? ドウスル、ドウスル!?」


 宙に浮くナイフやフォークが、その様子を見て慌てふためいた。


「あ、あなた達も覚悟! ですっ!」


「グェェ!?」


 その隙を狙って、私は弓で空飛ぶ食器達を射抜いた。スプーン曲げをされたかのように形を歪ませて、小さなお化けたちが墜落していく。


「よし、このまま……きゃっ!?」


 突然の衝撃。何が起こったかも分からないまま、私は床に頭を打ちつけられた。くらくらする……この感覚……人の手?


「全く、不甲斐ない子分達なのです」


「ミルカさん……!」


 その声で確信した。ミルカさんが死角からこちらへ飛んできて、私の頭を押さえ込んだらしい。


「止まりなさい。それ以上動くと、この人の首をへし折ることになるのです」


「え……嫌!! 拒否です!!」


「少し黙ってください。人質に拒否権は無いのです」


「嫌!! 拒否です!!」


「話聞かない人ですね」


「いだだだだだだだっ!!」


 あっ、ががが!! お、折れる!! 首折れちゃう!!


「さあ。オレンジの人も竜の人も、そこに這いつくばって──」


「……みんな目瞑って! やあああっ!!」


「ッ!?」


 うっ……眩しっ……。


「"エレメントワーク"!」


 突然の眩い光に視界が奪われて、何も見えない。だけど、フィオさんの声がして、私の腕が細いロープに絡まれる感覚がした。


「ユイナ! こっち来て引っ張って!」


「わっ……わあああああっ!?」


 状況もわからないまま、私の体が何かに引っ張られていく。そして、誰かに腕で受け止められた。


「よし、救出!」


「ユイナちゃん……!?」


 ようやく視界が開けた。見ると、私はロープを握ったユイナちゃんの足元にいた。


「今の光って……!」


「……そういえば、あなたもいましたね」


 正面では、ミルカさんが目をこすりながら不機嫌そうにそう言う。だけど、私の視線は別の方へ向いていた。


「ずっとビビっててごめん。あーしも戦う!」


 そこには立ち上がり、右手を正面に構えたステラちゃんがいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ