第六話 健太のドキドキハーレム日和(前編)
そしてやって来た土曜日の早朝、六時半頃。
佐代里は山吹色のワンピース。秋香は水色のサロペット、友子は茶色のサマーニットにデニムのホットパンツ。健太はデニムのジーパンに、グレーと白の縞柄夏用セーターという組み合わせ。四人ともそれほど派手ではない普段着で谷風寮を出発した。
今日の天気は晴れ。少し蒸し暑いものの、絶好の遊園地日和となった。
「私、遊園地行くの、久し振りだぁっ」
「あたしも二年振りくらい。すごく楽しみだね」
「わたし、今日はフィジカルに思う存分楽しむよ!」
わくわく気分で最寄りの地下鉄新神戸駅に歩いて向かっていく寮生三人。
(何か、ものすごく気まずい。僕、女の子を連れて歩くの、生まれて初めてだよ)
すぐ側を歩く健太はかなり居心地悪く感じていた。冴えない二七歳の男が、三人の女子中高生を連れているという図。親子にも兄妹にも見えない関係だ。周囲の人から不審に思われるに違いない。そのことを健太はとても不安に感じていた。
地下鉄を降りた後、さらに新快速電車、特急電車、バスを乗り継いで、谷風寮を出発してからほぼ四時間かけてようやく辿り着いたお目当ての遊園地『和歌山アドベンチャーランド』。
入場ゲートにて、
「家族連れですか?」
受付をしていたお姉さんににこやかな笑顔でこう問いかけられる。
「いっ、いえ」
健太は慌てて答えた。
(家族連れに、見えるのか?)
瞬間、彼は心の中で不思議に思う。
「こちらはわたしの姉と妹、こちらはわたしのお兄さんです」
友子は受付のお姉さんに冷静に説明した。
「とても仲良さそうなご兄妹ね。では、行ってらっしゃい」
お姉さんは梅雨空を吹き飛ばすような爽やかスマイルで見送ってくれた。
(ありがとう、武士さん。上手く説明してくれて)
健太は心の中で感謝の意を示す。
「土曜日だから人いっぱいだね。秋香ちゃん、迷子にならないように私と手つなごう」
入場ゲートから数メートル進んだ所で、佐代里は秋香に手を差し出した。
「佐代里お姉ちゃん、そこまでしてくれなくてもあたし、絶対大丈夫だよ」
秋香は笑顔で自信満々に言い張った。
「そうかな? はぐれても知らないよ。健太くん、最初はどれに乗りたい?」
「……僕は、べつに、どれでもいいのですけど」
佐代里の問いかけに、健太は少しだけ考えてから答える。
「じゃ、ジェットコースターから乗ろう。一番近くにあるし」
「いいねえ、あたしもこの乗り物大好き♪」
「さっ、佐代里さん、秋香さん。わたし、遊園地へ来たからと言って、必ずしもジェットコースターに乗らなければならないということは無いと思うの。他に、もっと面白い乗り物がたくさんあるし。なんか、ぐるりんって一回転してる箇所も何個かあるよ」
友子はジェットコースターのレールを見上げ、びくびくしながら言う。
「友子ちゃん、ジェットコースターはすごく楽しいよ。友子ちゃんの大好きな物理学の検証が出来るよ」
佐代里は笑顔で勧める。
「健太お兄さんも、嫌ですよね?」
「僕は、べつに、構わないのですけど……」
友子に顔を近づけられ、健太はやや緊張する。
「どうしても乗りたいんだったら、三人だけで乗って来てね。わたし、ここで待ってる」
友子は顔をやや引き攣らせた。
「まあまあ友子ちゃん、そんなこと言わずに。せっかく来たのに」
「友子お姉ちゃん、そんなことしたら絶対迷子になっちゃうよ」
佐代里と秋香はにこっと微笑みかけ、友子の肩をポンッと叩く。
「……わっ、分かったわよ」
結局、友子はしぶしぶついていくことにした。
今日は休日ということもあり園内はかなり混み合っていた。家族連れや若いカップル、中高大学生の男または女同士のグループなどが園内を行き交う。この四人のような、二〇代の男性一人に女子中高生三人という組み合わせは、当然のように他に見られなかった。
(この場から、早く抜け出したいものだ)
健太は周囲からの視線を非常に気にしていた。
四人は乗車待ちの列に並び三〇分近く待って、ようやく乗れることになった。
「よかった。運よく一番前の席とれた」
「こんなにラッキーなのは、無職お兄ちゃんのおかげだね」
佐代里と秋香は満面の笑みを浮かべる。
「なっ、なんで、こういう時だけ……」
一方、友子は暗い表情だった。
「私、健太くんのお隣がいいな」
佐代里は健太の背中にぎゅっとしがみ付いた。
「あたしも、無職お兄ちゃんの隣がいい!」
秋香は健太の右手をぎゅっと握った。
「わたしもです」
友子は健太の左手を握り締めた。
「じゃあ、じゃんけんで決めよう」
佐代里は提案する。
「やだやだ、わたし、絶対健太お兄さんのお隣がいい!」
友子は駄々をこねる。
「じゃ私、前側の席譲ってあげるよ」
「わたし、二列目で健太お兄さんの隣が……」
「友子ちゃん、遠慮しなくても。せっかく譲ってあげたのに。こっちおいで」
佐代里は、つかまれていた友子の右手をグイッと引っ張り、最前列左側の席に追いやる。
「……失礼、致します」
健太は恐る恐る友子の右側に座った。
「健太お兄さん、こっ、怖いです」
友子はびくびく震え上がる。
それをよそに、座席の安全バーが下ろされた。
もう引き返すことは出来ない。
「怖いです、怖いです。たっ、助けて」
友子は蒼ざめた表情で、安全バーを必要以上の力でしっかりと握り締めた。
〈発車いたします〉
この合図で、ジェットコースターはカタン、カタンとゆっくり動き出した。
「わたし、この速くなるまでの時間が一番怖いの」
友子は周りの風景を見ないよう、目を閉じていた。
坂道を登り切り、レールの最高地点に達した直後、一瞬だけ動きが止まる。
「ぎゃあああああああーっ! 位置エネルギーが、運動エネルギーにいいいぃぃぃぃ」
そのあと一気に急落下。と同時に、友子はかわいい叫び声を上げる。もちろん楽しんでいるからではない。恐怖心を強く感じていたのだ。
「わぁーいっ、たっのしいいいいぃぃぃーっ!」
「きゃあああああああーんっ!」
佐代里と秋香は喜びの悲鳴を上げる。
「…………」
健太は走行中、平静を保ち終始無言であった。表情も全く変わらなかった。
「あー、すごく気持ちよかったぁ。無重力疑似体験、最高!」
「宇宙飛行士気分が味わえたね、佐代里お姉ちゃん」
ジェットコースターから降りた直後、佐代里と友子は幸せいっぱいな表情をしていた。
「友子ちゃんって物理の知識が豊富なのに、これは苦手なんだね」
佐代里はふと疑問に思う。
「りっ、理論と実践は全くの別物だから。これとかバイキングみたいに急落下するやつとかについては、金輪際実体験はしたくないの」
友子は安堵の表情を浮かべていた。
「ごめんねー友子ちゃん」
佐代里はぺこんと頭を下げる。
「あたし、じつを言うとちょっとだけ怖かったな。あのジェットコースター、あんな高い所から落ちてくるんだもん。もう少し、急降下する直前の高さが低かったらちょうどいいのになぁ」
「低過ぎてもダメよ。理論上少なくともループ半径の2.5倍以上の高さから急降下しないと、一回転するまでにコースターがレールから外れて落っこちちゃうよ」
秋香の呟いたことに、友子は物理学的視点で突っ込む。
「それ、高校の時、物理で習ったような。どうやって導き出したのかは、忘れたけど。確か、ループ軌道の最高地点でジェットコースターがレールから受ける抗力が0以上になると、軌道から外れることなく一回転することが出来たはず」
健太は考察してみる。
「ジェットコースターの質量をm、ループ軌道の最高地点に達した時の速度をv、急降下する直前の高さをh、軌道半径をR、重力加速度をgとする。ジェットコースターがループ軌道の最高地点に達した時、高さhにある時の位置エネルギーが、運動エネルギーと最高地点の高さ2Rにある時の位置エネルギーとの和に変換されるので、mghイコール2分の1mv2乗プラス2mgR。この式からv2乗を求めると2g(hマイナス2R)。これを、最高地点での抗力を表す式R分のmv2乗、マイナスmgに代入して、抗力が0以上となるhを求めると、h大なりイコール2分の5Rになるわね」
友子は頭の中で計算式を組み立て、どのようにして導かれたのかを口頭で説明する。
「すごいね、まだ中学生なのに」
健太はほとほと感心する。
「友子ちゃんの言ってること、全然分からないや」
「あたしもさっぱり」
佐代里と秋香はぽかんとしていた。
「わたしも本で少し読んだだけだから、正しいかどうかは自信ないよ」
友子は照れ顔で謙遜する。
「ねえ、次はアマゾン川クルーズに行こう。先月出来たばかりの新アトラクションだって」
佐代里はパンフレットを見ながら三人を誘う。
「そこはすごく楽しそうね」
友子の表情に爽やかな笑みが戻った。
このアトラクションは四人乗りのボートに乗って、アマゾン川に見立てたコースを進んでいくようになっている。前側の二列席に佐代里と健太、後ろ側に秋香と友子が座った。
「ジャングルだぁっ。動物の鳴き声もするし、本物のアマゾン川みたぁーい!」
「友子お姉ちゃん、楽しいでしょ?」
佐代里と秋香が嬉しそうに尋ねてくる。
「うん、最高。RPGの冒険者になった気分。佐代里さん、アマゾン川が流れる熱帯雨林地域はジャングルではなく、セルバって呼ばれてるよ」
友子は雑学的突っ込みを入れて、満面の笑みを浮かべる。
「みんな川の中見てーっ、ピラニアさんが泳いでるよ」
佐代里は座席から立ち上がって覗き込んだ。
「佐代里お姉ちゃん、身を乗り出すと危ないよ。川にボッチャンしちゃうよ」
「はーぃ」
秋香に笑顔で注意されると、佐代里は照れ笑いを浮かべ、すぐに座る。
「ここにいる生き物達は全てニセモノなのでしょうけど、本物のアマゾン川のようですね」
健太は少し夢の無いことを呟いてしまった。
次の瞬間、
ドバァァァーッ!
「きゃっ! びっくりしたよ」
と、突如水飛沫が上がり、佐代里は思わず目を閉じた。
川の中から何かが飛び出て来たのだ。
正体は、ワニだった。四人のボートのすぐ側まで迫って来た。
「襲われないって分かってるから安心出来るね。あっ。こっちにも」
秋香は森の方に目を遣る。オオアナコンダが現れ、四人のいる方へ近づいて来たのだ。
「よく出来てますね」
健太の鼻のすぐ先まで迫った。健太はこのヘビの頭の部分を手で触れてみて、とても感心する。
「ナマケモノもいたぁっ! かわいいーっ! ぬいぐるみに欲しいーっ!」
秋香は嬉しそうに叫びながら対象物を指差す。
「あれは、ノドチャミユビナマケモノね。向こう側にもう一頭ナマケモノがいるけど、あれはタテガミナマケモノよ」
友子は自信満々な様子で説明する。
「さすが友子ちゃん、種類まで分かるんだね。ナマケモノって、人間で言うとニートみたいな暮らししてるんだよね。現社の先生がそう言ってたよ。楽でいいなぁ。私もあんな風になりたいよ」
佐代里はそれを眺めてにっこり微笑む。
「……」
健太はなんとも複雑な心境に陥ってしまった。
さらに進んでいくとオオハシ、ジャガー、ピューマなども現れた。
「すごーい! アマゾン川に生息する生き物達がかなり忠実に再現されてる!」
友子はこの光景に大興奮していた。
「最後の方で、イグアスの滝も再現してるみたいだね」
パンフレットを眺めながら、健太は伝える。
「わたしもそれ、とっても楽しみです。どれくらい本物に近いのか」
友子は目をきらきら輝かせる。
しかしそれから約五分後。
「えっ!?」
友子の顔が急に蒼ざめた。
高い木々がうっそうと生い茂る熱帯雨林の風景が途切れたあと突如、急斜面の経路が四人の目の前に現れたのだ。
四人の乗ったボートは物理法則に従い当然のように急降下した。
「ぎゃあああああああっ!」
友子は口を大きく縦に開け、大絶叫する。
「きゃあああああーっ!」
「わあああああーっ!」
佐代里と秋香は今の状況を楽しんでいる様子だ。とても爽やかな表情をしていた。
「……」
健太はまたも平静を保ち、無言無表情であった。
水飛沫も四人にけっこうかかる。
急斜面を下り終え、少し進んだ所がゴール地点となっていた。
「お気をつけてお降り下さいませ」
ボートの動きが止まり、スタッフから降りるよう指示される。
「あっ、あのう、大丈夫ですか?」
健太は、ぐったりしてした友子に問いかけた。
「いや、全然」
友子は沈んだ声で答えた。
「友子お姉ちゃん、あの急斜面がイグアスの滝を表現してたみたいだね」
秋香は嬉しそうに話しかけた。
「こんなの、イグアスの滝じゃないよぅぅぅ」
友子は今にも泣き出しそうな表情で嘆き、健太の手を借りてボートから降りたのであった。
「ねえ、友子ちゃん、お写真が出来てるよ。友子ちゃんすごい表情してる。ムンクの『叫び』みたい。記念に買おう」
出口ゲートを抜けた所に貼られていた写真を眺め、佐代里はくすくす笑う。
遊園地の絶叫マシンにはありがちだが、急降下する際に写真を撮られていたのだ。
「そんなのいらなーい」
友子はむすっとした表情で、不機嫌そうに言う。
「無職お兄ちゃんは表情が全然変わらないね」
「それはまあ、模擬面接で担当者からきみは無表情だとよく指摘されたものですから」
秋香に不思議そうに指摘され、健太は照れくさそうに打ち明けた。
「いつでも冷静沈着ってことの表れだね」
佐代里はこう解釈する。
「いやぁ、どうなのかな?」
健太は反応に困ってしまう。
「絶叫マシンにも動じない健太お兄さんは、木鶏のようで素晴らしいです。ねえ、次は、お化け屋敷へ行きましょう」
「えっ!? あっ、あたし、絶対入らないよ!」
友子に提案に、秋香は即反対した。
「秋香さんは、お化け屋敷苦手なんだっけ?」
友子はにやけ顔で訊く。
「いや、べつに、そんなことはないんだけどね」
秋香は俯き加減で否定した。
「それじゃ、秋香さん一人で、お外で待っとく?」
「それも嫌。迷子の子に間違われちゃいそう」
「そうでしょ」
友子はくすりと笑う。
「秋香ちゃん、私が隣についあげるから安心して」
「嫌だ、嫌だ。別のとこ行こう」
秋香は佐代里の袖をぐいぐい引っ張る。
「あのう、小野川さん嫌がっているようですし。その……」
健太はこう言ってみたが、
「秋香ちゃん、健太くんもいるんだよ」
「いやーん」
佐代里は嫌がる秋香の手を握り締め、有無を言わさず手を引いて連れてゆく。
「秋香さん、ここのお化け屋敷は全然怖くないよ。初心者向けでホラーというよりむしろ和風ファンタジックな雰囲気なの」
「そっ、そうなの?」
友子は秋香を口説いた。秋香は少しホッとする。
お化け屋敷の入口では、一つ目小僧やろくろ首などがお出迎えしてくれていた。受付で入場料金を支払って、いよいよ建物の中へ。
一歩踏み入った瞬間、
「きゃあああああああっ! むっ、無職お兄ちゃあああああっん」
秋香はお化けもびっくりするような大声で叫び、健太の背中にぎゅっとしがみ付く。秋香の目の前に、血まみれの女幽霊が現れたのだ。
「あの、小野川さん。ここにいるお化けは、全て作り物なので……」
「友子お姉ちゃあああん、出口まだなのぅ?」
「慌てない、慌てない」
「あのう、小野川さん、服が、伸びてしまうので、あんまり引っ張らないでね」
健太はちょっぴり迷惑がった。
「ごめんなさい、無職お兄ちゃぁん」
秋香は今にも泣き出しそうな表情で謝るも、健太から離れようとはしなかった。
「秋香ちゃん、この幽霊さんよく見るとそんなに怖くないよ」
「秋香さんのしぐさ、とってもかわいい」
佐代里と友子はにこにこ微笑みながら秋香の様子を眺める。
「あっ、あたし、お化けとか大嫌いで、今でも真夜中は一人でおトイレに行けないんだ。だって花子さんが出て来そうなんだもん」
「秋香さんは小学校時代によく聞かされる噂話のトラウマ、まだ引きずってるのね」
「友子お姉ちゃんは、お化け屋敷は怖くないの?」
秋香は健太にしっかりしがみ付いたまま、友子の方を向いて質問する。
「うん。だって全てニセモノだと分かっているもの。幽霊なんてもの、この世に存在するわけはないよ。ここにいる幽霊の正体は全てコンピュータグラッフィックスなどを駆使して作られたものだもの」
と言いつつも、友子もカタカタ震えながら健太の片方の手をちゃっかり握っていた。
「友子ちゃん、それは紛れもない事実だけど、雰囲気を楽しまないと損だよ」
佐代里はにこにこ笑いながら、女幽霊達のオブジェが飾られてある壁に向かって呟いた。
四人はこの先のコースも引き続きゆっくりペースで進んでいく。
「ぎゃぁぁぁっ! のっぺらぼうだ。火の玉だぁ」
墓場エリアに突入すると、秋香はますます怖がってしまう。
その後も提灯おばけ、からかさ小僧、砂かけ婆、ぬりかべ、山姥などの和風おばけ達のマネキンがおどろおどろしい効果音と共に出迎えてくれた。
入口を抜けてから十分ちょっとで出口に辿り着くと、
「やっ、やっと出れたぁ。ものすごーく長かったよぅ」
秋香は安堵の表情を浮かべる。彼女にとっては体感的に一時間以上にも感じられたようなのだ。
「もう終わりなのかぁ。私もう少し歩きたかったなぁ」
「二百メートル以上あるみたいだけど、かなり短く感じたね」
佐代里と友子はやや不満げな様子。
「僕、かなり疲れました」
健太はぐったりしていた。
「おんぶしてもらってごめんなさい、無職お兄ちゃん。次は、あたしが決めるね。これがいいな」
秋香はパンフレットを指差す。ストロベリーカフェという乗り物だった。
「よぉーし、いっぱい回すよう」
友子はこの乗り物中央付近に設置されているハンドルに手をかけ、力いっぱい回してみた。回転速度がどんどん増す。
「とっ、友子ちゃん、回し過ぎだって。私、外に飛ばされそう」
「友子お姉ちゃん、遠心力効かせ過ぎだよ」
「そうかな? もっと速く出来るんだけど。わたしは、まだまだ物足りないよ」
「僕も平気なのですけど、もうやめてあげた方が……」
健太は冷静に、気分がハイになっている友子を言い聞かせた。
「わっ、私、まだ目がペロペロキャンディーみたいになってるよ」
「あたしもー。地面がゆらゆらしてる。気分悪ぅい」
下りた後、ふらふらしながら歩く佐代里と秋香に向かって、
「佐代里さん、秋香さん。ごめんなさい。ついつい調子に乗り過ぎてしまいました」
友子は深々と頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。
「僕も、現在目が回っております」
健太も少しふらついていた。
「遠心力Fは質量mかける速度vの二乗、割る半径r。つまり、回転速度が速ければ速いほど、この遊園地のストロベリーカフェみたいに半径が小さいものほど、遠心力は強くなっていくの。ジェットコースターが回転する時も遠心力がかかってるよ。地球みたいに相当大きな物が自転する際も、もちろん遠心力は働いてるけど、とても小さいから、高校物理の範囲内では0として考えてるわね」
友子はまたも物理学的視点で語る。
「友子ちゃんの解説、難し過ぎてよく分からないよ。もう一時前か。次のとこ行く前にお昼ご飯にしよう」
佐代里は、園内にあった日時計を眺めながら提案した。
「賛成。あたし、おなか空いて来たぁ」
「わたしも賛成。そろそろ空いてくることだと思うわ。このファミレスで食べましょう」
友子はパンフレットの案内図を指差す。四人はそこへ向かって歩いていった。




