魔導コンロと、希望の味
南西の毒性植物群生地域から持ち帰った大量の素材と食料。
拠点に戻ったレオは、ベッドで横になるミニアの体調に配慮しつつ、さっそく調理の準備に取りかかった。
(よーし、まずはこれだけの肉と果実を最高の形で料理するための『道具』を作らないとな!)
(《肯定。万能書庫データベースより、魔獣素材を用いた加熱用魔道具のクラフトレシピを展開します》)
レオは床に広げた素材を見遣った。
酸液大トカゲから回収した『耐熱性の高いウロコ』と『丈夫な骨』、そして道中で拾ってきた熱伝導率の高い黒鉱石。
クロニクルの指示に従い、それらの素材を組み上げていく。
(クロニクル、熱伝導回路の構成と構造補強を頼む!)
(《了解。概念構造の定着を開始します——クラフト実行》)
バチバチッ……!
この瞬間、『魔性順応』に変化が生じた。
レオの手から放たれた青い光が素材を包み込み、刻一刻と形を変えていく。
耐熱ウロコで装飾された堅牢な台座の上に、黒鉱石の天板と、火力を調整するためのダイヤル状のツマミが組み込まれた。
「できた!『高火力・無段階調整式魔導コンロ』だ!」
「ひゃああっ!?な、なんですかそれニャ!?」
身を起こしたミニアが、目を丸くして耳をピクピクと跳ねさせた。
「ちょっとレオ様、今何もないところから一瞬で凄まじい魔道具作りませんでしたかニャ!?
魔導回路が組み込まれたコンロなんて、王都の超高級料理店でも持っていないレベルの代物ですよ!?」
「あはは!俺の能力があれば、これくらいお手の物さ!
これがあれば、火魔法が使えなくても火加減を自動調整してくれるんだ」
レオはニタリと笑うと、さっそく魔導コンロに火を点けてみる。
ツマミを回すと、天板の中央から均一で美しい青い炎が立ち上る。
厚みのある大トカゲの肉を切り出し、天板に乗せると、ジュウウウウウッ!!という香ばしい音とともに、食欲を激しくそそる肉汁の匂いが室内に充満した。
表面を強火でカリッと焼き上げ、肉汁を閉じ込めてから弱火でじっくりと熱を通す。仕上げに、果樹園で採れた高栄養の薬草と塩分を含んだ鉱物塩で味を調えた
『極上魔獣肉のステーキ』。
そして、その旨味が染み出たスープで作った『特製薬草ポタージュ』の完成だ。
「よし、出来上がりだ!さあミニア、熱いうちに食べてくれ!」
「魔獣肉……?、本当に食べられるんですかニャ……?」
「毒抜きはしているから、早く食べてくれ!」
「毒抜き……?、い、いただきますニャ……!」
ミニアはおそるおそるスプーンを取り、ポタージュを口に運んだ。
そして次の瞬間、琥珀色の目を極限まで見開いた。
「んんん~~~~~っ!!
旨味が……旨味が体に染み渡っていきますニャアアッ!!」
続けて、大きな口でステーキをパクリとかみちぎる。
弾力のある肉からあふれ出す上質な脂と肉汁。
毒を一切感じさせない芳醇な味わいに、ミニアの尻尾がピンと真っ直ぐに跳ね上がった。
「こんなに美味しくて……温かい料理……生まれて初めて食べました……!
お腹の奥から熱が湧いてきて、体がどんどん軽くなっていきますニャ……!」
ポロポロと大きな涙を溢れさせながら、夢中で料理を頬張るミニア。
ミニアの満足そうな顔をみて、レオもミニアと一緒に食事をとった。
「なんといっても食事の最後はデザートだ。」
ミニアが出された『黄金蜜リンゴ』をしゃぶりつくように食べ終えると、彼女は満足そうに長いため息をついた。
「ごちそうさまでしたニャ……本当においしかった……、生き返りましたニャ」
「おう、満足してもらえたなら良かったよ!」
笑顔で皿を片付けるレオに、ミニアはふと真面目な顔を向けた。
「あの……レオ様。
こんなに凄い力と知識を持っていて、どうしてこんな所で暮らしているんですか?
王都に居れば、どんな大貴族からも引っ張りだこなはずなのにニャ……」
レオは手を止め、かまどの薪を眺めながら静かに口を開いた。
「俺は『適性の儀式』で【全属性適性ゼロ】となってしまい、王都で色々あったあげく『魔物と共謀して 開拓作業を破綻させた重罪人』って冤罪をかけられて追放されたんだよ。
生まれや才能、固有能力の有無だけで人を評価して、使えないと分かったらゴミみたいに捨て捨てる……それが王都や貴族たちのやり方だった」
「そんな……レオ様を重罪人だなんて、その人たちは酷いですニャ!」
「はは、まあな。でも、追放されてこの荒野に来て、はっきりと分かったんだ。
……世の中の仕組みがおかしいってな」
レオは立ち上がり、力強い瞳でミニアを見つめた。
「俺は、この【グラ・ヴァル】の地で『俺の理想』を実現したいんだ。
生まれや種族、能力の有無なんて関係ない。
俺みたいに追放された奴も、行き場を失った奴も、誰でも温かい家があって、お腹いっぱい美味いものを食べて、安心して笑って眠れる場所……
そんな誰もが尊重される最高の場所を……」
「誰もが……尊重される……場所……」
レオの熱い言葉を聞いたミニアの体が、震えた。
彼女の瞳から、先ほどとは違う、胸の奥から溢れ出すような熱い涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「……あたしたち亜人は、ずっと虐げられてきました。
人族からは獣扱いされて、過酷な開拓作業や危険な荷物運びばかり押し付けられて
……あたしが生まれ育った亜人の集落も、悪徳商人ギルドに土地と資源を奪われて
潰されたんです」
ミニアは握りしめた小さな拳をぎゅっと胸に当てた。
「あたしたちがずっと夢見ていたのは……
レオ様が言ったような、種族関係なく笑い合える場所でした。
捨てられ、さまよい、毒沼で死にかけて……もう諦めてたのに……」
ミニアは身を乗り出し、レオの前に膝をついて頭を下げた。
「レオ様の理想の場所こそ、あたしたち亜人がずっと夢見ていた場所です……!
あたし、ミニアを……レオ様の第一号の領民にしてくださいニャ!!
スカウトとしての耳も鼻も、荒野の知識も、全部レオ様のために捧げます!!」
「ミニア……!おう、もちろんだ!頼むぞ、ミニア!」
レオが優しく手を差し伸べると、ミニアはその手を両手でしっかりと握り返した。
その時だった。
俺の頭の中に、クロニクルの澄んだアナウンスが響き渡った。
(《明確な忠誠と帰属意識を確認。『領民登録』を完了しました》
《『ミニア』が正式に領地の一員となりました。条件達成により、
領地レベルが【LV:1】から【LV:2】へ昇格します》)
(うおっ!?領地レベルが上がったのか!?)
(《肯定。領地レベルLV:2への昇格に伴い、クラフト上限の開放および
【広域防衛バリア】の構築権利を獲得しました。
ただし、バリア発生装置の起動には、高純度のエネルギー源が必要です》)
「高純度のエネルギー源……?」
「あの……レオ様、なんの話ですかニャ?」
「いや、バリア発生装置を創りたいんだが、それには高純度のエネルギー源が必要みたいなんだ……」
「えっ……、それなら……あたし、心当たりがありますニャ!」
ミニアがハッと顔を上げた。
「あたしの亡くなったお父さんは、スカウトとして荒野の奥地を調査していたんです。
お父さんが遺した言葉の中に『北西の古代遺跡には、荒野全体を豊かに変えるほどの秘宝【魔導動力コア】が眠っている』って話がありましたニャ!」
(《照合。北西1.5キロ地点【古代遺跡】の内部反応と一致。
地下水脈および魔導回路の供給源として『魔導動力コア』の存在を感知しました》)
(ミニアのお父さんの情報と、クロニクルのスキャンが一致したな……!)
レオはミニアと顔を見合わせ、力強く頷いた。
「よし決まりだ!
北西の【古代遺跡】に行って、その『魔導動力コア』を手に入れよう!
それがあれば、この拠点をさらに頑丈で安全な場所にできるはずだ!」
「はいニャ、レオ様!あたしが安全なルートを案内します!」
互いの絆を深め、理想郷づくりの確かな第一歩を踏み出した二人。
しかし、その目的地である古代遺跡には、すでに「予期せぬ影」が近づいていたのだった——。




