迫る高ランク冒険者
【グラ・ヴァル遺跡館】。
新しく増設された【冷涼ボタニカルテラス】で、ハーブの清涼な香りが吹き抜ける中、レオはクロニクルのホログラムマップを脳内で展開していた。
(≪広域スキャン更新。領域境界へ進入した動体は五名。ルクシアでBランクに指定されている高ランク冒険者パーティ『銀獅子の鋭牙』、および案内人を装ったゲッセル伯爵家の密偵です≫)
(Bランクの冒険者に、伯爵家の密偵か……)
美しい木枠が組み合わさった縁側に腰掛け、冷えたハーブティーを飲んでいたレオが不敵に口元に笑みを浮かべた。
その隣では、ミニアがピんと猫耳を立て、愛らしい尻尾をフリフリと揺らしていた。
「レオ様、風の向こうから、カンカンに怒った男たちの足音と、カサカサに乾いた喉の匂いがしてきますニャ!」
「はは、相当な猛暑の中を急いでやってきたみたいだな」
レオの足元で、ヴェルフがあくびを噛み殺しながら鼻を鳴らした。
『……愚か者どもめ。主よ、余の威圧で一瞬で気絶させて追い払うか?』
「いや、ヴェルフ。ここは【グラ・ヴァル遺跡館】だ。武力で追い払うより、最高の冷水とおもてなしで、骨抜きにしてやった方が面白いさ」
「賛成ですニャ!暑くてカリカリしてる人たちを、あたしたちのオアシスでビックリさせてあげるニャ!」
地下都市『グラン・ゼノア』の楽園を隠し通しつつ、地上のオアシス宿で知略戦を行う準備は、完璧に整った。
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「おい……本当にこんな荒野の果てに、ルクシアを揺るがした【神薬】の出どころがあるのかよ!?」
カンカンと照りつける太陽の下、汗だくになりながら荒野を進む五人の男たち。
先頭を行くのは、大剣を背負ったBランク冒険者パーティのリーダー・粗暴な巨漢のバルトであった。その横には、案内人を装いつつギラギラと歪んだ目を光らせるゲッセル伯爵家の密偵・ステルが従っている。
「間違いありません、バルト兄貴!ガランの商隊がこの先にある【古代遺跡】から怪しい荷物を運び出していたのを、我が伯爵家の密偵が掴んでおります!」
「ちっ……どうせ無能と追放されたアルヴァレス家の出来損ないが、古代の遺物でも拾って細々と生き延びてやがるんだろう。力ずくで奪い取って、伯爵家に売っ払えば大儲けだ!」
「へへっ、その通りです!貧相な泥小屋ごと叩き潰してやりましょう!」
ギラついた野心を露わにしながら、彼らが丘を越えた──その時だった。
「な……なんだあそこは……!?カモフラージュの幻覚か!?」
彼らの目に飛び込んできたのは、荒涼とした地獄のような荒野の中に、ぽっかりと浮かび上がる緑豊かな楽園だった。
【古代遺跡】の庭には、七色の虹の光を透過させる【幾何学遮光ガラス】の屋根が広がり、青々とした清涼ハーブが咲き誇る【冷涼ボタニカルテラス】が輝いていたのだ。
「い、いらっしゃいませニャーッ!暑い中お疲れ様ですニャ!」
テラスの入口で、猫耳をパタパタと揺らした可愛らしい少女・ミニアが、満面の笑顔で手招きをして出迎えた。
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「な、なんだと……!?踏み込んだ瞬間、暑さが一瞬で消えた……!?」
テラスへ一歩足を踏み入れた瞬間、バルトたちは息を呑んで足を止めた。
外の殺人的な猛暑と乾燥が嘘のように消え去り、澄んだ冷風とハーブの甘い香りが身体を包み込む。
「お客様、まずは喉を潤してくださいニャ!」
ミニアが差し出したのは、中央の【全自動給水スタンド】から注がれたばかりの、氷のようにキンキンに冷えた【高純度清涼水】とハーブの添えられたグラスだった。
「ちっ……毒でも入ってたらタダじゃ置かねえぞ!」
警戒しながらも、干からびかけていたバルトはたまらずグラスを一気に煽った。
シャクッ、ゴクッ、ジュワァァァッ……!!
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
次の瞬間、バルトの全身がビクッと激しく痙攣した!
「な、なんだこの清らかさは!?喉を通った瞬間、全身のドロドロした汗と疲労が一瞬で吹き飛んで……体内から力がみなぎってくるぞ!」
「うまぁぁいっ!王都の最高級サロンの冷水すら足元にも及ばねえぇぇっ!!」
同行していた冒険者や密偵までもが、争うように給水スタンドへ群がり、涙を流して冷水を貪り飲み始めた!
「あ、あり得ん……!荒野の真ん中に、こんな湧き水と冷風の天国が存在するなど……っ!」
密偵ステルが震える手でグラスを落とし、膝から崩れ落ちた。
「おや、冷たい水はお気に召しませんでしたか?」
テラスの奥から、木製のプレートに載せた【極上の冷やし黄金蜜リンゴ】を携えたレオが、爽やかな笑みを浮かべて現れた。
「こ、これは……ルクシアで金貨何枚もする果実じゃねえかぁぁっ!?」
「ええ、テラスで寛ぐお客様へのサービスですよ。どうぞ召し上がってください」
一口かじりついたバルトたちは、溢れ出る蜜の甘みと清涼感に、完全にノックアウトされた。
「ひぃぃ……っ!う、美味すぎる……っ!俺たちは……俺たちはなんて素晴らしい場所にやってきたんだぁぁっ!!」
粗暴だった冒険者たちが、テラスのふかふかソファーに深く沈み込んで骨抜きにされていく。
「おい、ステル……!お前、ここを『怪しい隠れ家』とか言ってただろ!こんな最高の天国オアシス宿を襲うなんて、バチが当たるぞ!」
「ひぃっ!?違っ、私は伯爵家からの命令で──」
「うるせえ!俺たちは今日から、この【グラ・ヴァル遺跡館】の常連客だ!この店に害をなす奴は、俺たち『銀獅子の鋭牙』が容赦しねえぞ!」
バルトは大剣を地面に置いて、レオとミニアに向かって恭しく平伏した!
「店主さん!頼む、金なら払う!ここに泊まらせてくれぇぇっ!」
「ふふ、ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
レオが不敵に微笑む横で、ミニアが「まいどありですニャーッ!」と嬉しそうに金貨を受け取る。
襲撃に来たはずの高ランク冒険者たちが、一傷も負わせることなく最高のおもてなしで、【グラ・ヴァル遺跡館】の常連客兼警備員(信者)へと化してしまったのだ。
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夕暮れ時。テラスのソファーで至福の表情を浮かべて眠りについた冒険者たちを横目に、レオはテラスの風を感じていた。
(よし……密偵も骨抜きにして、伯爵家には『荒野にはただの天国のようなオアシス宿があるだけ』という報告がいくだろう)
その時──。
ポーン……!
レオの脳内で、クロニクルのシステム音声が新たな解放アナウンスを響かせた。
(≪報告。地上拠点の名声獲得、および【万能書庫Lv.3】のデータベース解析が完了しました≫)
レオは拳をギュッと握りしめ、地下都市のさらなる発展に向かって、ワクワクとした高揚感に胸を躍らせるのだった!




