古代種子と、芽吹き
【グラ・ヴァル遺跡館】の商談スペース。
朝日が心地よく差し込むテーブルの上に、老商人ガランが革袋から取り出した【未知の古代種子】がひとつ、静かに置かれていた。
何百年もの間、乾燥しきって石のように硬くなった茶褐色の種子。
「モフモフ黒狼」のヴェルフが、卓上に前脚をちょこんと乗せ、翡翠色の瞳を細めて種子を覗き込んだ。
『ほう……見た目はただの干からびた小石のようだが、その奥底には数千年の時を超えて眠る、かすかな古代のマナが封じられておるな』
ミニアもピんと三角耳を立て、鼻を小さくひくつかせる。
「クンクン……なんだかすごく古い、静かに眠っている木みたいな匂いがするニャ」
「ガランさん、これは一体どういう種子なんだ?」
レオが尋ねると、ガランは深く吐息をつき、頑固そうな口元をほころばせた。
「これは昔、大昔の遺跡深層から掘り出された『古代世界樹の原種』と言われる幻の種だ。大陸中の名だたる植物魔法師や薬術師が試したが、死んだように乾燥しており、誰一人として芽を出させることができんかった……」
ガランは真剣な眼差しでレオを見つめた。
「だがレオ殿、荒野の毒気を清らかな水に変え、絶品の果実を実らせる君たちの腕なら……もしやと思い、持ってきたのだ」
(古代世界樹の原種……か)
レオがそっと種子に触れると、脳内でクロニクルの無機質ながら澄んだシステム音声が響いた。
(≪対象の精密スキャン完了。……解析結果を報告。当種子は古代植物『古代世界樹の原種』。超長期の乾燥と、表面に固着した微弱な『死の呪素』により、生命活動が完全に凍結・封印されています≫)
(死の呪素と乾燥で眠ってるだけか。なら……俺の【魔性順応】の出番だな!)
レオは瞳に力強い光を宿すと、不敵な笑みを浮かべた。
「ガランさん、任せてくれ。今すぐ芽を吹かせてみせるよ」
「な、なに……!?今すぐだと……っ!?」
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レオは種子を両手で包み込むようにかざした。
(【魔性順応】──吸入、変調、点火!)
パァァァッ……!!
レオの手のひらから、眩い青い聖魔光が解き放たれた!
【魔性順応】の力が発動し、数千年の間、種子の芽吹きを阻んでいた「死の呪素」と「乾燥毒」が、磁石のように一瞬で引き抜かれ、レオの体内へと吸い込まれていく!
(≪抽出完了。死の呪素を活力へと全変換。……続けて高密度聖魔エネルギーを種子の中枢へ共鳴充填します≫)
「吸い上げた毒を活力に変えて……一気に注ぎ込むッ!芽吹けぇぇっ!!」
レオの身体を通じて、極限まで精錬された高純度の聖魔エネルギーが、乾燥しきっていた種子の奥深くへと一気に叩き込まれた!
バチバチバチッ……!!
一撃爆速発芽クラフト──!
「な、なんじゃあぁぁぁっ!?」
ガランが驚愕で目玉を飛び出させた。
レオの手の中で、石のように固かった種子がメキメキと音を立てて砕け、中から宝石のように透き通る青銀色の双葉が、恐ろしい勢いで飛び出してきたのだ!
「ミニア、黒土のプランターを!」
「了解ニャーッ!」
ミニアが地下農園から運んできていた栄養たっぷりの黒土が入ったプランターへ、レオが発芽した苗をそっと植え付ける。
次の瞬間──!
みしみし、ズズズズ……ッ!
「め、芽が……蔓が……信じられんスピードで伸びていくぞぉぉっ!?」
ガランが腰を抜かしかけた。
青銀色の蔓は生命力を爆発させ、わずか数分のうちにぐんぐんと天を目指して伸び、小さな樹木のような見事な姿へと成長!
さらに、枝葉の間に青く輝く蕾が次々と結ばれると、パッと一斉に花が開いた。
ハラハラと眩い花弁が散ったあとに実ったのは──透き通る群青と真珠色のグラデーションを宿した、まるで夜空の星を閉じ込めたかのような宝石のごとき神果──【星露果】であった!
房なりに実った【星露果】から、甘く清々しい幻想的な香りが部屋中に満ち溢れる。
「で、できた……!古代世界樹の神果【星露果】だ!」
「にゃあぁぁぁ……!なんて綺麗で甘い匂いなんですニャーッ!」
「ば……バカな……!何百年も誰も芽を出せなかった幻の種が、たった数分で果実まで実るなど……!奇跡……いや、神業だぁぁっ!!」
ガランがガタガタと震える手で、実ったばかりの【星露果】を見つめて大絶叫した。
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「ガランさん、まずは採りたてを一口食べてみてくれ」
レオが枝から一粒もぎ取り、ガランの手へそっと渡した。
「あ、あぁ……いただきます……!」
ガランはおそるおそる、宝石のような果実を口へ運び、歯を立てた。
シャクッ……ジュワァァァァッ!!
「…………っ!?」
ガランの動きが、ぴたりと止まった。大絶叫するかと思われた老商人は、目を見開いたまま一切の言葉を失い、身体を激しく震わせた。
口の中で爆発する果汁の芳醇さ。そして喉を通った瞬間、長年の旅で痛んでいた腰と膝の重みが、まるで幻だったかのように消え去っていく。
「……ば、バカな……。痛みが……消えた……?いや、それどころか魔力が全身に満ち溢れていく……っ!」
ガランは震える手で腰の羊皮紙とペンを取り出すと、取り憑かれたような手つきで数値を書き連ね始めた。
「……これは……ただの珍味ではない……っ。国家予算すら動かしかねん『神の霊果』だ……っ!レオ殿……これ一粒で、王都の最高級邸宅が建ちますぞ……!」
商人としての鋭い眼光を取り戻したガランの静かな戦慄に、レオは不敵に微笑んだ。
「これだ……!これこそが、大都市ルクシアの競り市を完全に支配する『神品』だ!この【星露果】と、先日見せてもらった【至高のポーション】……この二大巨頭を出品すれば、白金貨が飛び交う歴史的な大騒動になりますぞ……っ!」
「やったニャ、レオ様!オークションの目玉商品が決定しましたニャ!」
ミニアが飛び跳ねて喜び、ヴェルフも『ふむ、我が主の【魔性順応】と古代世界樹の真価、見事な融合だな』と満足そうに鼻を鳴らした。
レオも確かな手応えに力強く口元を緩めた。
「よし!出品物は【星露果】と【至高のポーション】で決まりだな!……いや、ポーションはさらに進化させて、1滴でどんな傷も治す『最高のエリクサー』を仕込んでみせるさ!」
「おおおっ!まだ進化させるというのか!?頼もしすぎますぞ、レオ殿!」
ガランは涙を拭うと、興奮冷めやらぬ面持ちで身を乗り出してきた。
「ですがレオ殿!これほどの神品を収める容器も、ただの木箱や普通の瓶ではもったいない!外見たる容器からして『国宝級』でなければ、この神品の真価値が伝わりませんぞ!」
「容器も最高級のものか……よし!それなら、中身に負けない最高のガラス容器を爆速クラフトしてみせるさ!」
信頼の商人ガランとともに、次なる「最高級エリクサー調合と国宝級ガラス容器づくり」へのワクワクする目標を定め、オークション大成功への道はさらに力強く加速していくのだった!




