小さな調合師
地下都市【グラン・ゼノア】の農園ドーム東側区画。
そこに新たに誕生したのは、木の温もりと最新の魔導技術が融合した美しい施設——【薬草調合処】であった。
ガルドが職人技で組み上げた精巧な木製作業台や試薬棚に、アリアが回路を刻み込んだ美しい輝きを放つ『魔導蒸留炉』と『魔導大釜』が鎮座している。
「こんなに綺麗で……完璧なお部屋で調合ができるなんて……!」
路地裏でしなびた薬草を抱え、買い叩かれて途方に暮れていたシエルは、目の前の夢のような環境に涙を浮かべて大感激していた。
レオは優しく彼女の肩を叩く。
「シエルちゃんの力を、ここで存分に試してみてくれ。必要な素材なら、いくらでもあるからな」
「はい……!私、全力で頑張ります!」
シエルは気合十分に腕をまくると、さっそく準備にかかった。
大釜に投入されたのは、南西の森で採れた高栄養の薬草、昨日見事に芽吹いた『ルビーシュガー』の豊かな葉、そして地下水脈から汲み上げた清らかで冷たい霊泉水だ。
シエルが両手を大釜にかざした瞬間、彼女の頭上に【領民適性オーラ鑑定】で見えた黄金の光が輝きを増した。
【神級薬草調合・秘薬創成:SSS】の発動である。
シエルの手つきはまさに神技だった。無駄のない滑らかな動きで薬草の温度や配合比率をコントロールし、薬効成分だけを100%抽出して大釜へと溶かし込んでいく。
ドロドロとした薬草液が、シエルの神技によって見る見るうちに綺麗な赤みを帯びた澄んだ液体へと変わっていく。しかし——あと一歩のところで不純物が混ざり合い、薬効が完全に溶け合いきらない。
「くっ……薬草の持つ潜在能力が高すぎて、普通の調合じゃ熱が伝わりきらない……っ!」
汗を流して焦るシエルの姿を見て、レオは静かに歩み寄った。
(「クロニクル、俺のエネルギーを共鳴充填させればいいんだな?」)
(≪肯定します。マスターの持つ高密度な聖魔エネルギー粒子を大釜へ注ぎ込み、微細振動で同調共鳴させてください≫)
「シエルちゃん、そのまま手を離さないでくれ!」
レオが大釜の縁に両手を重ね、体内の【魔性順応】を稼働させた。
パァァァッ……!!
レオの手のひらから、無数の「青い光の粒子」が溢れ出し、大釜の液体の中へと吸い込まれるように注ぎ込まれていく。
高密度な聖魔エネルギー粒子が釜の中で微細に共鳴・充填された瞬間、残っていたわずかな不純物が一瞬で綺麗に中和・分解された!
大釜の中の液体がキラキラと眩しい光を放ち、まるで磨き抜かれたルビーのように透き通る、薬液へと変化したのだ。
「で……できた!最高品質の『ルビーポーション』です……っ!」
瓶に詰められたのは、宝石のように赤く輝く特製ポーションだった。
「よし、さっそく試飲してみよう!」
レオはちょうど工房の作業で手に小さな擦り傷を作り、肩を叩いていたガルドと、元気に走っていたミニアを呼び寄せた。
「ガルドさん、ミニア、これを一口飲んでみてくれ」
「ん?シエルちゃんが作ったお薬ですニャ?」
二人にお試しで一口ずつ飲んでもらうと——次の瞬間!
「な……なんじゃこれはぁぁぁっ!???」
ガルドが驚愕で目玉を飛び出させた。手にあった無数の擦り傷が一瞬で綺麗に消え去り、連日の重労働で重かった肩や腰の疲労が、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗サッパリ吹き飛んだのだ!
「体に一瞬で温かい元気がみなぎってきたニャーッ!遠征の疲れが吹き飛びましたニャ!」
ミニアも跳び上がって大歓喜する。
シエル自身も、自分の手から生まれた『ルビーポーション』の恐ろしいほどの効果に震えていた。
「私……本当にこんなに凄いお薬を作れちゃったの……!?」
「シエルちゃんの神級スキルと、うちの地下都市の素材が合わさった成果だよ。本当にすごい!」
レオに褒められ、シエルは照れくさそうに、しかし心からの笑顔を咲かせるのだった。
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その日の夜、コテージのダイニングには、レオ、ミニア、ヴェルフ、ガルド、アリア、シエルたちが集まり、今後の「金貨獲得(交易)」に向けた作戦会議が開かれていた。
「これから『グラ・ヴァル開拓団』として、商品を売って金貨を稼いでいこうと思う」
レオの言葉に、商人であるミニアが身を乗り出す。
「金貨があれば、あたしたちの地下都市にまだない『珍しい素材』や『他国の珍しい種子』『道具』が買い放題になりますニャ!」
「ああ。そこで、中立都市ルクシアへ持っていく『金貨獲得の3大商品』をこう決めたいと思うんだ」
レオが提示したのは、以下の3つだった。
1.【シエル特製のルビーポーション】(疲労や傷を急速に回復させる、市場で滅多に見られない高級薬)
2.【ガルドの高品質ナイフ】(レア素材はあえて使わず、ガルドの神技だけで鍛え上げた頑丈な日常用刃物)
3.【地下都市の作物】(農園ドームで栽培された野菜などの作物)
「これなら目立ちすぎず、けれど確実に高値で売れて、街の商人や冒険者たちを唸らせることができるはずだ」
「文句なしのラインナップですニャ!あたし、最高の値段で売り切ってみせますニャ!」
「わしも日常用の刃物なら、いくらでも最高品質で打ってみせますぞ!」
ガルドも職人魂を燃やし、シエルも「私のお薬が誰かの役に立つなら嬉しいです!」と目を輝かせた。
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会議が終わり、テラスに出たレオは、静かな地下都市の明かりを見つめていた。
(≪報告。大規模農園および都市システムの安定稼働に伴い、地上の【鉄鋼樹】から放出される『浄化魔気流』が拡大した結果、地上砦の周囲数キロで土壌の無毒化と穏やかな環境改善が始まっています≫)
脳内でクロニクルが報告する。
(「地上の環境が良くなっていくのか……」)
(≪肯定。この温かな浄化の風は、居場所を失った人々の目をこの地へ引き寄せる要因となるでしょう≫)
地上の環境が整い、金貨を蓄えていけば、いずれ地上にも誰もが立ち寄れる「宿場町」や「開拓村」を作ることができる。
地上の住人は地下都市の存在を知らずとも、「グラ・ヴァル領」として発展していく未来が見えてくる。
「ポーションに、工具に、美味しい作物……。金貨をしっかり稼いで、将来的には地上の準備も整えていくとしよう」
レオは温かい風を感じながら、さらなる領地発展への期待に胸を躍らせ、夜空のような天井を見上げて微笑むのだった。




