路地裏の少女達
中立都市ルクシアの賑やかな大通りから一歩外れた、冷たい風が吹き抜ける薄暗い路地裏。
フードを被ったレオとミニアが歩いていると、角の陰で小さく身を寄せ合う数人の少女達の姿が目に留まった。
薄汚れた服を身に纏い、寒さと空腹に震える彼女たちの手元には、しなびた薬草が数本入った小さな籠が大事そうに抱えられていた。
ミニアの三角耳がピクッと跳ね、切なさの混じった目をレオに向ける。
「レオ様……あの子達ですニャ」
レオは無理に近づいて警戒させないよう一歩引き、隣に立つミニアの肩に優しく手を置いた。
「ミニア、君から優しく話を聞いてあげてくれないか?君ならあの子たちも安心できるはずだ」
「任せるニャ、レオ様!」
ミニアはパッと表情を和らげると、静かに歩み寄って少女達の前でそっとかがみ込み、目線を合わせて優しく語りかけた。
「それは、なんかニャ?教えてくれないかニャ?」
一番年長と思われる長耳の少女——シエルが、怯えたように大きな瞳を揺らした。だが、ミニアの温かな笑顔と亜人同士の親近感に毒気がないと悟ると、おそるおそる小さな籠を差し出してきた。
「あ、あの……熱や傷を和らげる薬草です……。束で銅貨1枚でいいので、買っていただけませんか……?お願いします……っ」
シエルの後ろでは、さらに幼い少女達が小さくお腹を鳴らしながら、必死に祈るような目でミニアとレオを見つめている。
ミニアが籠の中の薬草を手に取ってみると、ミニアの鋭い鼻と目がその丁寧な処理に気づいた。
「レオ様!この子たち、山で摘んできた薬草の根の処理も土の落とし方もすごく丁寧だニャ!薬効のある部分を傷つけないように、大切に扱われてるニャ!」
ミニアの言葉に、シエルはぽろぽろと大きな涙をこぼしながら、つっかえつっかえ語り始めた。
「山で……みんなで一生懸命摘んできたんです……。でも、大通りの薬種屋さんには『こんな雑草、銅貨1枚の価値もない!失せろ!』って追い払われちゃって……。今日これが売れないと、今夜のお宿代も払えないし、みんなのご飯も買えないんです……っ」
一生懸命に摘んできた薬草を粗末に扱われ、行く当てもなく途方に暮れる少女達。
ミニアがしっかりと薬草を抱きしめ、レオを振り返った。
「レオ様!この子たち、とっても一生懸命で優しい匂いがするニャ!あたし、助けてあげたいニャ!」
「ああ、ミニアの言う通りだな。こんなに丁寧に扱われた薬草が、ただの雑草なわけがない」
「任せたよ」
レオはミニアに歩み寄ると、お金をそっと手渡し、優しく微笑んだ
「この薬草、私たちが全部買い取るニャ!」
「えっ……全部ですか!?あ、ありがとうございます!」
ミニアはニッコリと温かい笑顔を向けた。
「それと、ここはあなたたちにとって、生きづらい街じゃないかニャ?もし、あなたたちがよければ、私たちの場所へこないかニャ?温かいご飯と、安心して眠れる場所があるニャ!」
「えっ、そこへ私たちも行っていいんですか!?」
「あなたたちが良ければいいニャ!」
「はい!お願いします!」
そこには顔を見合わせ喜ぶ少女たちの姿があった。
そんな彼女たちを包み込むように、レオとミニアはフードの影へと誘い、周囲の視線を遮ると【記録刻印】を発動させた。
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シュンッ……!
一瞬の浮遊感の後、少女達の目の前に広がったのは、冷たく汚れた路地裏とはまるで違う光景だった。
天井で温かく輝く琥珀色の街灯、青々とした木々から届く爽やかな風、そして立派な木造コテージ。
「つ、着いたニャーッ!あたしたちのおうちですニャ!」
「ここ……どこ……?夢……?」
言葉を失うシエルたちを、コテージから出てきたドワーフのエルナが温かく出迎えた。
「あらまあ!かわいそうに、手も足も冷たくなっているわ……!さあ中へ入って!すぐに温かいシチューと焼きたてのパンを出すからね!」
エルナ特製の具だくさん肉シチューがテーブルに並べられると、香ばしい匂いに少女達の目が輝いた。
「いただきます……っ」
一口含んだ瞬間、少女達の目からボロボロと溢れ出す大粒の涙。
「おいしい……っ!温かくて、すごく美味しい……っ!」
「お腹の底からポカポカするよぉ……!」
夢中でシチューを平らげた後は、湧き出る天然露天風呂で汚れと疲れをさっぱりと洗い流し、シルフコットンの最高級ベッドへ。
「雲の上みたいにふかふか……あったかいよぉ……」
「こんなに安心して眠れるの……生まれて初めて……」
温かいご飯とお風呂、そしてふかふかのベッドに包まれ、少女達は泥のように深い眠りについたのだった。
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翌朝。
すっかり健康的な血色を取り戻した少女達が、感謝の面持ちでダイニングに集まっていた。
「レオ様、ミニア様、昨日は本当にありがとうございました!おかげでみんな元気になりました!」
「ハハ、元気になってくれて良かったよ」
微笑ましく少女達を見つめながら、レオは何気なく【万能書庫Lv.3】の新機能——【領民適性オーラ鑑定(適材適所スキャン)】を起動してみた。
(路地裏で見せたあの薬草の丁寧な手つき……シエルちゃんには何か適性があるのかな?)
そう思いながらシエルへ意識を向けた、まさにその瞬間だった。
ポーン……!
シエルの頭上に、見たこともないほど眩い金色のオーラとともに、驚愕のステータス文字が浮かび上がった!
『シエル:神級薬草調合・秘薬創成:SSS』
(「な、なんだってぇぇぇぇっ!?SSSランクの神級薬草調合師だぁぁっ!?」)
レオは心の中で思わず叫び、目玉が飛び出そうになった!
(ただ助けたくて連れてきたのに……とんでもない逸材じゃないか!?)
レオは驚きを押し隠し、シエルに向かって優しく語りかけた。
「シエルちゃん。君たちの薬草に対する丁寧な手つきと知識、この地下都市の薬草園で存分に発揮してみないか?君たちの力があれば、たくさんの人を救う最高の薬が作れると思うんだ」
シエルは一瞬目を丸くしたが、涙ぐみながら深く深く頭を下げた。
「はい……!みんなも薬草を扱うのが大好きなので、最高のお薬を作りたいです!」
その後、大規模魔導農園へ向かったレオとシエルたち。
昨日買ってきた『ルビーシュガーの種』をセルディクたちと共に黒土へ蒔くと、レオの【魔性順応】による土壌浄化とシエルたちの愛おしむような手つきに応えるように、早くも可愛らしいルビー色の芽がひょっこりと顔を出すのであった。
地下都市【グラン・ゼノア】に、また一つ『至高の名産品』と『本格的な薬草調合処』が誕生する瞬間であった。




