仮面の行商人
地下都市【グラン・ゼノア】の朝。
環樹式コテージのダイニングテーブルで、レオは昨日解禁されたばかりの能力
【万能書庫Lv.3】の新機能
——【領民適性オーラ鑑定(適材適所スキャン)】を試していた。
意識を集中させて視界を切り替えると、朝食の仕度をするミニアの頭上に、眩い金色のオーラとともにステータス文字が浮かび上がった。
『ミニア:天性のスカウト✕伝説の行商人:SSS』
(「おお……!ミニアの商人としての才能、SSSランクなのか!」)
レオが思わず感嘆の声を漏らすと、ミニアがピクッと三角耳を揺らして振り向いた。
「どうしたんですニャ、レオ様?あたしの顔に何か付いてますニャ?」
「いや、ミニアって本当にすごい行商人なんだなと思ってさ。何か仕入れたいものとか、やってみたい商売はあるかい?」
そう尋ねると、ミニアの琥珀色の目が輝き、尻尾がパタパタと踊り出した。
「実はあたし、商売の血がウズウズしていたんですニャ!ガルドさんが工房の余り物の鋼でサクッと打ってくれたナイフがあるニャ?あれを外の街で売って、地下都市にまだない『新しい作物の種』や『珍しい調味料』を仕入れてきたいんですニャ!」
(≪肯定。ミニア個体の提案は合理的です。外部市場との極秘交易ルートの早期開拓および新種子の獲得は、都市の長期発展において極めて有効です≫)
脳内でクロニクルも太鼓判を押す。
「よし、決まりだ!正体を隠して、近くの中立都市へ行ってみよう!」
ふたりは質素な旅人のフード付きマントを深々と被り、ガルドが打ったナイフ数本を鞄に詰めると、新能力【記録刻印】で、荒野の外縁に位置する中立交易都市の近くへと一瞬で躍り出たのだった。
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活気ある中立都市の門をくぐったふたりは、今後の活動や情報収集をスムーズにするため、まずは「冒険者&商人ギルド」の重厚な扉を叩いた。
「パーティ登録をお願いしたいんだが。名前は『グラ・ヴァル開拓団』で」
フードの奥からレオが低めの声で伝えると、受付の女性はにこやかに手続きを進めた。
「承知いたしました。では最後に、ご本人様の身元確認と簡易魔力・適性の測定のため、こちらの『水晶』に手をかざしてください」
提示されたのは、一般的な冒険者の魔力や危険度を測る透明な測定水晶だった。
レオは何の気なしにそっと手のひらを重ねる。
「頼むぞ……目立たないように静かにな……」
レオは体内のエネルギーを極限まで抑え込もうとした。しかし——
ピキキキキキッ……!!
「ひっ……!???」
次の瞬間、測定水晶の内部で恐ろしい亀裂の音が鳴り響いた!
レオの体内に満ちる【魔性順応】の超高密度な聖魔エネルギーに反応し、水晶が真っ赤な目眩く光を放ちながら、ミシリ、ミシリと悲鳴を上げてヒビ割れ始めたのだ!
「そ、測定不能……!?水晶が割れますわぁぁぁっ!?」
受付嬢が腰を抜かして悲鳴を上げる。
「静かにしなさい、騒ぎ立てるな!」
奥の重厚なドアが開き、立派な髭を蓄えた厳格な男——ギルド長が姿を現した。
ヒビの入った水晶と、佇むレオを交互に見たギルド長は、一瞬でレオがタダ者ではない存在(底知れぬ潜在能力を持つ者)だと見抜いた。
「……君、少し奥の『ギルド長室』へ来てくれ」
静かな執務室で、ギルド長はレオと固い握手を交わした。
「若いのに恐ろしいほどの気配だな。……安心しろ、ウチのギルドは訳ありの強者を無闇に詮索せん。君たちのような実力者が街にいてくれるのは頼もしい。何か困ったことがあれば、私を直接頼るといい」
こうして、正体を完璧に隠したまま、ギルドのトップとの太いパイプ(情報・経済のルート)が一瞬で完成したのだった。
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ギルドを出たふたりは、目的である商談のため、街で一番の規模を誇る老舗武器屋へと向かった。
店主の頑固そうな鍛冶職人が「しがない行商人が何の用だ?」と眉をひそめる。
そこで、ミニアがパッと前に躍り出た。
「おやじさん、あたしたちが持ち込んだこのナイフを見てほしいニャ!」
ミニアが鞄から取り出したのは、ガルドが急遽打った『普通より少し上出来なナイフ』だった。
「ふん、素人の持ち込みか……ん?待て……っ!?」
ナイフを手にした瞬間、店主の顔つきが一変した。
「刃の研ぎと角度のブレのなさ……それに、この不純物を限界まで削ぎ落とした鋼の鍛え方!ただの職人の仕事じゃねえぞ!一体どんな鍛冶師が打ったんだ!?」
ミニアが不敵に微笑み、行商人としてのプロの交渉術を炸裂させる。
「うちの専属頑固親父が打った逸品ですニャ。実用性は抜群、刃こぼれもしないニャ。おやじさんの店なら、この価値がわかると思って持ってきたんですニャ!」
「……くっ、参った!この仕上がりなら、文句なしで金貨5枚で買い取らせてもらう!」
想定以上の高値でナイフが売れ、ミニアはドヤ顔でレオに目配せをした。
「やったニャ、レオ様!最高の資金が手に入ったニャ!」
得た金貨を手に、ふたりは市場の種子屋へ向かった。
そこでミニアの鋭い鼻と野生の勘が、棚の隅に追いやられていた袋を捉える。
「店主さん、あの袋の種は何ですニャ?」
「ああ、あれかい?『ルビーシュガー』という超高級作物の種だが……育てるのが難しすぎて誰も芽を出させられず、売れ残ってる物だよ」
「それを全部買い取りますニャ!」
こうしてふたりは、地下都市にない『ルビーシュガーの種』と珍しいスパイスを大量に獲得した。
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「遠征、大成功でしたニャーッ!」
目的の種子と十分な金貨、そしてギルド長とのコネを手に入れ、ホクホク顔で街の路地裏を歩くふたり。
その時だった。
レオがなんとなく歩いていると、視界の端——路地裏の片隅で、売れない薬草の籠を抱えて途方に暮れているフード姿の異種族の少女達が映った。
ミニアの立ち耳がピクッと跳ねた。
「……レオ様。あの子達から、すごく悲しくて……助けを求める優しい匂いがしますニャ」
ミニアの研ぎ澄まされた勘と言葉に応え、レオはフードを深々と被り直し、静かに少女達のもとへ足を進めるのだった。




