空間能力
地下都市【グラン・ゼノア】のコテージで朝食を終えたレオたちは、さっそく昨日完成した【転送専用ルーム】へと向かった。
「それじゃあ、さっそく地上の調査に出発しよう!」
「了解ニャ!どこへでもお供するニャ、レオ様!」
『うむ、余がついておるからな』
レオ、ミニア、ヴェルフの三人が、部屋の中央で青く輝く『空間ポータル』へと足を踏み入れる。視界がふっと歪んだ直後には、冷たい砂嵐が吹く地上の【泥レンガの砦】の中に立っていた。
「何度通ってもすごいな……。本当に一瞬だ」
「荷物を持って移動する苦労もゼロですニャ!」
出がけ際、ガルドが打ち上げてくれた『探索用多機能魔導ツール』と馬具を腰に装着し、三人は地上の【泥レンガの砦】を出て、荒野の調査へと駆け出した。
地上の調査は、クロニクルの【広域魔導スキャン】と、新開通したポータル網のバックアップにより、恐ろしいほどのスピードで進んでいった。
(≪広域スキャン照射中。南東エリアの岩盤構造、および地下水脈のラインを検知。データを補完します≫)
「すごいぞ、クロニクル!荒野の地形だけじゃなく、自生する薬草や隠れた鉱石の場所まで次々と読み込まれていく!」
ミニアの鋭い鼻と野生の勘、ヴェルフの古代の知恵、そしてクロニクルの超スキャンが完璧に噛み合い、手間も苦労もなく、5km圏内のデータがゲームのマップが開いていくように次々と埋まっていく。
そして、南東の深い谷間に足を踏み入れた、その瞬間だった──!
ピコーン!
脳内で、澄み切ったシステムアナウンスが響き渡った。
(≪お知らせ。地上拠点を中心とした『半径5キロメートル圏内』の調査が100%完了。精密立体ホログラムマップの構築が完了しました≫)
レオの目の前に、青い光の粒子で描かれた『広域5km立体マップ』が浮かび上がる。
荒野の起伏、有毒ガスの溜まり場、隠された岩かげ、生息する魔獣の動きまでが、リアルタイムで美しく色分けされて一目瞭然となっていた。
さらに、マップ完成と地下都市システムとの高度同調により、レオの体に劇的な変化が起きる!
(≪固有能力【魔性順応】の進化概念を検知。空間同調率の最大化に伴い、新アビリティ【記録刻印】および【空間転送ロジスティクス】が解放されました≫)
「新能力……!?【記録刻印】に、【空間転送ロジスティクス】だって……!?」
レオが思わず己の手を見つめると、脳内でアリアとクロニクルの解説が弾けた。
(「きゃあああ!マスター、すごいですわ!【記録刻印】は、マスターが一度足を踏み入れた場所やマップ上の特定ポイントに魔導ルーンを刻むことで、ポータル施設を介さずともマスター自身が一瞬で空間移動できる能力ですの!」)
(≪補足。【空間転送ロジスティクス】は、マスターが手で触れた物体や討伐した魔物を、その場で地下都市の『時間凍結保管庫』や『古代魔導鍛冶工房』などの指定設備へ一瞬で直送・自動保存できる機能です。逆に指定設備から手元へ物資を取り出すことも可能となります≫)
「嘘だろ……!自分自身がどこへでも一瞬で跳躍できて、獲物も触るだけで地下の冷凍庫へ直送できるようになったのか……!?」
『ほう……。空間そのものにお主の適性を記憶させたか。もはや移動と搬送の概念そのものが崩壊しておるな』
ヴェルフが感心したように尾を振り、ミニアもパッと目を輝かせた。
「すごすぎるニャ、レオ様!これがあれば、重い獲物を運ぶ手間が完全にゼロになりますニャ!」
「よし、さっそく試してみよう!」
ちょうどその時、谷底の岩陰から、全身を漆黒の結晶甲羅で覆った巨大魔獣【結晶岩角鹿】が姿を現した。
(≪個体解析。結晶岩角鹿。その角は極上の魔導触媒となり、背肉は霜降りの極上肉。ジューシーで濃厚な旨味を持つ希少魔獣です≫)
「よし、極上食材として狩ろう!」
レオは大剣【ヴェルザード】を引き抜き、青い高周波ブレードを解き放った。
新能力【記録刻印】を意識し、クリスタル・スタッグの頭上へと一瞬でテレポート!
シュンッ!
「はぁぁっ!」
驚愕する巨獣に向かって、空中から大剣を一閃!
スパァァン!
高周波の刃が、頑丈な結晶甲羅ごと巨獣を一瞬で両断し、一撃で仕留めてみせた!
「大成功だ!……それじゃあ、試してみるぞ!」
レオが着地し、倒れた鹿の巨体にそっと手をかざす。
「【空間転送ロジスティクス】──転送!」
シュンッ……!
レオが【魔性順応】のエネルギーを流し込んだ瞬間、数メートルを超える巨体魔獣が、綺麗な光の粒子となってその場から一瞬で消え去った!
(「はい!マスター!たった今、最高に新鮮な状態でお肉と角が地下の『時間凍結保管庫』へ直送・保管されましたわ!」)
アリアの歓喜の声が脳内に届く。
「本当に消えて、地下の冷凍庫へ送られた……!」
「荷物の心配がなくなったなら、遠出も狩りも無限にできますニャ!最高ですニャ、レオ様!」
圧倒的な物流チートと空間能力の覚醒に、レオたちは高揚感で胸を躍らせた。
──しかし、その時。
完成したばかりの『5km圏内の立体マップ』の外縁部に、赤く点滅する不気味な光が捉えられた。
(≪マスター。広域スキャンの拡張に伴い、外縁部にて多数の高質量反応を検知。不気味な赤い魔力オーラを纏った騎兵集団──【暗黒騎士隊】の本隊約30名が、領地の境界線へと着実に接近しつつあります≫)
マップの端に映し出されたのは、不気味な赤きオーラを漂わせ、地上の【泥レンガの砦】を目指して進軍してくる聖王国の最精鋭たちであった。
レオは大剣【ヴェルザード】を鞘に収め、不敵な笑みを浮かべた。
「みんな、聖王国の本隊が近づいてきたよ。……泥の砦で、たっぷりおもてなししてあげようか」
「了解ニャ!返り討ちにしてみせるニャ!」
『ふはは、愚かな羽虫どもめ。己の無力さを思い知るが良い』
すべての準備が完璧以上に整ったレオたちは、迫り来る敵を迎え撃つべく、静かな闘志を燃え上がらせるのであった。




