産声を上げる魔導大剣
地下都市【グラン・ゼノア】の西区画に位置する【古代魔導鍛冶工房】。
青白い燐光を放つ『永久魔導炉』の前に立ち、ガルドは神妙な持ち面で槌を構えていた。
工房の棚には、高純度の『ミスリル銀』と頑強な『星鉄鉱』が用意されている。これから打つのは、レオの規格外の能力に耐えうる専用の大剣だ。
「よし……!アリア様、古代魔法回路の刻印、お願いしますぞ!」
「任せてくださいまし、ガルド様!レオ様の熱い魔力波形に完璧に同調する回路を描いてみせますわ!」
アリアが魔導端末を操作し、幾重ものホログラム演算シートを空間に展開する。
しかし、古代の複雑怪奇な魔法回路と、星鉄鉱の持つ超高硬度の反発をリアルタイムで調和させるのは、さすがの天才技師アリアにとっても極めて高度な作業だった。
(「くっ……!星鉄鉱の反発によるマナの歪みが大きくて、並列演算が追いつかないのですわ……!」)
アリアの頭から煙が吹き出しそうになったその瞬間、脳内にこれ以上なく心強いクロニクルの無機質なシステム音声が割り込んだ。
(≪アリア。体温の上昇と脳細胞の活動限界を検知。これより、私の並列演算領域の45%をあなたの制御端末へダイレクトに接続し、リソースを委譲します≫)
(「まあ!クロニクル様!なんて甘やかしサポートですのっ!」)
(≪レオ様の【魔性順応】の魔力脈から得た、1秒間に3600回の動的サンプリングデータをロード。逆位相の補正マナを同期させるリアルタイム逆変換シグナルを生成しました≫)
(「了解極まりますわ!これなら時空のブレを完璧に抑え込めますの!」)
アリアとクロニクルという「二大超知性」が完全に連携し、リアルタイムでガルドの打撃タイミングと角度を完璧に予測補正する!
(「ガルド様!次の打ち込みは、3秒後に左から角度を3度傾けて叩いてくださいまし!回路が衝撃を吸収しますわ!」)
「おおっ、任せろぉぉっ!」
カン、カン、カン!と快い打撃音が工房に響き渡る。
ガルドの神技的な槌振りと、脳内の超演算アシストが見事に融合し、寸分の狂いもなく大剣の内部へ古代魔法回路が美しく定着していった!
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一方その頃、レオ、ミニア、ヴェルフの三人は、歓迎の宴で消費した食材を補給するため、地上の荒野へと狩りに出ていた。
「ミニア、そっちに気配は?」
「クンクン……、風の下手から強い魔物の匂いがしますニャ!北東1キロの岩陰ですニャ!」
急行したレオたちの前に現れたのは、巨大な岩のような頑強な甲羅を背負った荒野の大型魔獣、【岩甲野牛】だった。
モウゥゥゥッ!と地鳴りのような咆哮を上げ、グランド・バイソンが突進してくる。
「ヴェルフ、いくぞ!」
『うむ!我が本来の力、とくと見よ!』
もふもふの黒狼サイズだったヴェルフが、瞬時に十メートル級の漆黒の聖獣へと巨大化し、その巨体でバイソンの横腹へ強烈な体当たりを喰らわせる!
衝撃で姿勢を崩したグランド・バイソンだが、怒り狂ってレオへと矛先を変え、鋭い岩の角を突き出して猛突進を仕掛けてきた。
「はぁぁぁっ!」
【魔性順応】が即座に起動し、荒野の毒気を己の活力へと変換!
レオは避けることなく、荒々しい突進を肉体強化だけで正面から受け止めた。
全身のエネルギーを拳に集束させ、レオは鋭く踏み込む!
「これで、終わりだ!」
ズドォォォン!と荒野に激しい衝撃波が走り、レオの全身全霊の正拳突きがバイソンの脳天を打ち抜いた!
巨獣は白目を剥き、ドサリと地響きを立てて倒れ伏したのだった。
「やったニャ!レオ様!」
「ああ、いい肉と素材が手に入ったな!」
『ふはは、見事な一撃じゃ!この獲物も地下へ持ち帰るとしよう』
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ガルドが情熱を燃やして打ち込み、アリアとクロニクルの超演算がサポートを続け──ついに、工房の『永久魔導炉』の炎が静まり返った。
「できた……!俺の鍛冶人生において、文句なしに最高の傑作だ!」
ガルドが誇らしげに掲げたのは、重厚にして美しい一振りの大剣だった。刀身には、精緻な古代の魔法回路が青い極細線となって美しく刻まれている。
「これが、俺の剣……」
レオがその柄を握りしめた瞬間、信じられないほどの軽さを感じた。まるで自分の腕がそのまま延長されたかのように、吸い付くように手に馴染む。
「レオ様、そのままエネルギーを流し込んでみてくださいまし!」
アリアの促しに、レオは静かに目を閉じ、体内の【魔性順応】を駆動させた。
体内で高密度に精錬されたエネルギーが、柄を通じて大剣へと一気に流れ込んでいく!
──キィィィィィィン!
鼓膜を震わせるような澄んだ高音が響き、大剣に刻まれた古代魔法回路が眩いばかりの青い閃光を放った!
刃の周囲の空気が激しく歪み、超高速の振動波が刀身を包み込む。ただそこに存在するだけで、周囲の物質を両断せんとする圧倒的な覇気が満ちていた。
(≪ライブラリデータベースに登録。魔導大剣【ヴェルザード】。マスターの【魔性順応】エネルギーと共鳴し、空間伝導率を最大化させる至高の魔剣です≫)
脳内でクロニクルの知性的な声が響く。
「すごいな……!これ、どれくらいの威力があるんだろう?」
「それなら、農園ドーム入り口の樹海の大木で試し切りをしてみましょうニャ!」
ミニアがそう言って、完成したばかりの自身の新しい装備を身にまとってピョンと跳ねた。
ミニア専用の装備は、漆黒の防水皮とミスリル銀、およびバイソンの岩甲皮をあしらった『幻影軽甲冑』、そして両腰に携えた『ミスリル双短剣』だった。
樹海に到着すると、ミニアがすぐに行動を起こす。
彼女が軽くステップを踏んだ瞬間、その身体がブレるように三体に分身(残像化)し、次の瞬間には背後の岩陰に音もなく着地していた!
「ミニア、そっ、その動きは……!?」
レオが目を見開いて驚愕する。
「ニャはは!全然重くないし、まるで風になったみたいニャ!」
「いくニャ!」
ミニアが『幻影軽甲冑』で残像を生み出しながら風のように駆け抜け、両腰の『ミスリル双短剣』をすれ違いざまに一閃させた!
何の音や摩擦抵抗もなく、大木がスパリと滑るように斜めに切り落ちる。
「何の抵抗も感じなかったニャ!」
「本当に、空間の隙間を切り裂いてるようだな。……よし、次は俺の番だ」
レオは大剣【ヴェルザード】を両手で構え、静かに【魔性順応】を解放した。
キィィィィンと青い刃が激しく鳴動する。
「はぁぁっ!」
レオが鋭い踏み込みと共に、大剣を横一文字に薙ぎ払った!
手応えは、驚くほどに「無」だった。
スパッ、という軽い音と共に、大剣は樹海の巨木たちの幹を通り抜けていた。
一瞬の静寂の後、ズゥゥゥゥン!という地響きを立てて、数本の鉄鋼樹クラスの巨木が、斜めに美しく滑り落ちて地面へ倒れた!
「な、なんじゃあぁぁ、この威力はぁぁぁっ!?」
同行していたガルドが目玉を飛び出させて驚愕し、レオ自身も想像を絶する破壊力に自分の手と大剣を見つめ、高揚感に胸を躍らせた。
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だが、そんな喜びの地下都市から遠く離れた地上の荒野では、不穏な影が迫っていた。
「急げ。荒野に蠢く羽虫どもを、一匹残らず叩き潰すのだ」
漆黒の鎧を身に纏い、不気味な赤い魔力オーラを漂わせた聖王国の最精鋭【暗黒騎士隊】の先遣隊が、軍馬を走らせて最悪の荒野グラ・ヴァルへと迫ろうとしていたのだった。




