夢見た世界!
「ミニアの言う通り、ここでは追っ手の目を気にする必要はありません。ですが本当の俺たちの『家』は、ここではないんです」
泥レンガの砦で温かいスープを飲み干し、落ち着きを取り戻したガルド一家へ、レオが優しく語りかけた。ガルドと妻のエルナは不思議そうに顔を見合わせる。
「本当の家ですか?ここも十分立派で安全な砦に見えますが……」
『ふはは、本当の我が家はこんなものではないぞ』
膝元でヴェルフが、威厳ある念話を響かせる。
ミニアは、まだ少し不安そうに母親のエルナのスカートに抱きついていたルディとリナに目線を合わせ、とびきりの笑顔で微笑みかけた。
「地上は王都の目がどこにあるか分からないニャ。だから敵の目を欺くためにも、隠された『古代遺跡』のルートから、あたしたちの本当の家へ行くニャ!」
しっかりと体を休めた一行は、地上の砦を出て、岩山にひっそりと隠された【古代遺跡】へと足を踏み入れた。
入口に施されていた隠蔽魔法をヴェルフが解くと、地下へと続く重厚な石造りの階段が現れる。一行が地下空間へと足を踏み入れると、どこからともなく澄んだアナウンス音声が響き渡った。
『──【広域防衛障壁】通過確認。生体認証完了。ようこそ、マスター・レオ』
重厚な石門が静かに左右へ開き、その先に広がる光景を目にした瞬間、ガルド一家は息を呑んで硬直した。
「なっ……なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!????」
「まあ……!なんて綺麗な……まるで夢の中の世界ですわ……!」
天井を埋め尽くす【高純度魔導鉱素】が、まるで夜空の満天の星々のように幻想的な群青の光を放っている。見渡す限り広がる、清らかな地下水脈と青々とした地下林。
幼いルディとリナは「きゃっきゃ!」と歓声を上げ、目を輝かせて跳ね回った。
「こんな地下都市が存在するなんて……!まるで楽園じゃないか!」
呆然と立ち尽くすガルド一家の前へ、白銀の髪をなびかせた小柄な美少女が、古代の魔導ドレスの裾を優雅に持ち上げて最敬礼を捧げた。
「ようこそ、マスター・レオが統御する地下都市【グラン・ゼノア】へ!私は中枢開発責任者のアリアと申しますわ!」
「アリア、ただいま!こちらは新しく住民になってくれた、ドワーフ族のガルドさん、エルナさん、ルディくん、リナちゃんだよ」
「初めまして皆様!話はレオ様からの念話でお伺いしておりますわ。詳しい説明は後ほどいたしますので、まずは長旅の疲れを癒やしてくださいませ!居住スペースをご用意しておりますの!」
アリアに案内されたのは、清潔で温かな古代の居住エリアだった。
蛇口をひねるだけで出る温かなお湯、室温を完璧に保つ魔導調温空調、そしてシルフコットンとフロートマッシュで作られたふかふかのベッド。
「わあぁぁっ!すごい、雲の上にいるみたいにふかふかだーっ!」
「ふかふかだーっ!」
ルディとリナが嬉しそうにベッドへダイブすると、ガルドは蛇口から出るお湯に触れ、ポロポロと大粒の涙をこぼした。
「お湯が……家の中でお湯が勝手に出るのかっ!?暖房も完璧で、こんな極上のベッドまで……。本当にありがとうございます。」
感動に震えるガルド一家に「まずはゆっくり休んでくださいね!」と伝えたレオたちは、さっそく歓迎の準備に取りかかった。
「みんなを歓迎するために、最高の夕食を作ろう!ヴェルフ、俺と一走り魔獣狩りに行こうか!」
『フハハ!歓迎の宴か、良いぞ!極上の獲物を狩ってくるとしよう!』
「それなら、私とアリアちゃんで【魔導農園】から新鮮な野菜とフルーツをたくさん収穫してきますニャ!」
地上へ出たレオとヴェルフは、クロニクルの広域スキャンを起動させた。
(≪マスター。広域スキャン完了。これより北東1.5キロの岩陰にて、巨体魔獣メガロ・ボアの生体反応を確認。個体解析の結果、上質な脂肪を蓄えており、肉質『極上』と判定します≫)
(「極上の肉!サンキュー、クロニクル!歓迎の宴にはうってつけだな!」)
「ヴェルフ、北東1.5キロだ!」
『了解した、レオ!』
(【魔性順応】──筋力・脚力・限界突破強化!)
レオは【魔性順応】で全身の身体能力を爆発的に引き上げ、風となって岩場を駆け抜けた。ヴェルフの支援を受けるまでもなく、一瞬でメガロ・ボアの死角へ肉迫すると、強化された剛腕の一撃で巨体魔獣を瞬殺してみせた!
「よし!狩り大成功だ!」
『ふはは、見事な身のこなしじゃ!肉体強化の使いこなしが格段に上がっておるな!』
巨大化してくれたヴェルフの広い背中にメガロ・ボアを載せ、意気揚々と地下へ戻るレオ。
その夜。地下都市の広場には、香ばしい肉の焼ける匂いと甘い果物の芳醇な香りが満ち溢れていた。
ジューシーに焼き上がった『メガロ・ボアの極上ステーキ』と、ミニアとアリアが収穫した甘みが凝縮された野菜や果物が、テーブルから溢れんばかりに並べられている。
「ガルドさん、エルナさん、ルディくん、リナちゃん、俺たちの仲間になってくれてありがとう!今日は存分に食べて楽しんでくれ!」
「「「いただきまーす!!」」」
「うっ、うまい!肉が信じられないくらい柔らかくて、肉汁が口いっぱいに溢れ出てくるぞ……!」
「お野菜も果物も、見たことがないくらい甘くてすごく美味しいです!」
元気いっぱいに肉を頬張るルディとリナ。ガルドとエルナも、感動に目を潤ませながら極上の料理を口に運んだ。
人見知りだったリナも、ミニアから手渡された甘い果物を口にし、照れくさそうにはにかんだ。
「可愛いニャ〜!」「癒やされますニャ~!」と、ミニアとアリアは頬を緩ませて目尻を下げている。
宴の最中、すっかり警戒心の解けたリナが、縮小化して寝そべっていたヴェルフのもとへトコトコと歩み寄った。
「もふもふの、おっきいワンちゃん」
ぎゅっと毛並みに抱きつくリナに、聖獣ヴェルフは『わ、わしは守護聖獣じゃぞ……』と困惑しつつも、まんざらでもない様子で嬉しそうに尻尾をパタパタと振っていた。
「レオ様、命を救っていただいただけでなく、こんな温かな食事と最高の住居まで与えてくださり、感謝の言葉もありません。俺たちにできることなら何でも言ってください!」
ガルドが感極まったようにグラスを掲げると、レオは温かく微笑んだ。
「ガルドさん、無理をする必要はありません。ただ、もしガルドさんが『ご自身の技』を活かしたいと思ってくださるなら、頼もしい仲間として力を貸してほしいんです」
「俺の技……鍛冶のことですか!?」
その言葉を待っていたアリアが、パッと目を輝かせて乗り出してきた。
「ふふふ、ガルド様!実は都市の西区画にある【古代魔導鍛冶工房】の封印を、すでに解除しておきましたわ!青い燐光を放つ永久魔導炉も、鉱石の自動供給ラインもバッチリ稼働しておりますの!」
「『魔導鍛冶工房』……永久魔導炉ですと!????」
ガルドの目つきが一変した。鍛冶場の存在に、職人としての血が猛烈に沸き立ったのだ!
「アリア様!明日一番にその工房を見せていただけますか!?鍛冶場があるなら、俺の命と技の全てを懸けて、世界最高の武具を打ってみせますぞ!」
「ええ!楽しみにしておりますわ、ガルド様!」
熱血に叫ぶガルドに、アリアも胸を張って頼もしく応えた。
心温まる宴、子どもたちの弾ける笑顔、そして【古代魔導鍛冶工房】への期待。
聖王国に捨てられた青年と迫害されたドワーフ家族が手を取り合った地下都市で、至高の武具開発へ向けた新たな希望の物語が、着実に動き出そうとしていた!




