温泉の源泉をもとめて
「我が家」を完成させたレオたちは、コテージの出来栄えに大満足しつつも、手を止めることなく次の作業へと移っていた。
「さあみんな、日が暮れる前に『温泉』作りにとりかかろう!」
「はいニャーーッ! 汗をかいてお風呂に入れたら最高ですニャ!」
ミニアが歓喜の声をあげてぴょんぴょん跳ね回る。
ヴェルフもまた頷いた。
『うむ、実に素晴らしい。地熱と霊泉を引き込むことができれば、体の疲労回復だけでなく魔力の循環も劇的に跳ね上がる。……レオよ、この地下遺跡に伝わる古代の言い伝えによれば、ここから西へ伸びる壁の裏に、かつて使われていた古代の配管が設置してあるはずだ』
「西の壁の裏に古代の配管が!? (クロニクル、ヴェルフの言っていた配管と水源の位置をスキャンしてくれ!)」
(《了解。該当エリアを精密スキャン……検知しました。【コテージから西へ50m】の岩壁深層部に天然温泉の水源が存在します。さらに壁裏の古代配管ネットワークを詳細解析……経年劣化による破損が発生している箇所があるようです》)
「ヴェルフの言う通りのようだ、コテージから西へ50mの場所に温泉の水源が存在するようだ。古代の配管も存在するようだから行ってみよう!」
「たったの50メートル先ですニャ!? 目と鼻の先ニャ!」
『フッ、当然だ。地上への通路、我らのコテージ、そして西の水源……無駄のない見事な配置だな。……よし、配管の正確な位置を割り出すとしよう』
(《スキャンした立体配管データを、魔性順応を介して光の粒子として外部へ投影可能です。正確な構造と破損箇所を共有できます》)
(「ホログラム」か……よし、やってみよう!)
「ヴェルフ、俺に任せてくれ!」
レオは意識を集中させ、手のひらを広げてエネルギーを解放した。
シュアァァァ……!
レオの手のひらから青い光の粒子が溢れ出し、空中で空間を構築していく!
一瞬にして、コテージから西へ伸びる古代配管の「ホログラム」がみんなの目の前に浮かび上がった。
50メートル先の水源からコテージ横の岩場まで一直線に伸びるパイプが青く輝き、そのうちの四カ所が赤く点滅している。
「にゃ、ニャあぁぁぁーーっ!? 空中に光のパイプが浮いてますニャーーッ!?」
ミニアが目を見開いて跳び上がり、浮遊する光のホログラムを恐る恐る手で触ろうとしてはしゃぎ回る。
ヴェルフもまた、翡翠色の双眸を丸くして驚愕していた。
『おおっ、 これは古代配管の正確な構造までわかるではないか! 古代の高位魔導師すら修得困難な【ホログラム】を使いこなすとは……レオには驚かされるばかりだな……!』
「あはは、魔性順応で全体の構造と壊れている場所を表示してみたんだ。赤く点滅しているこの四カ所を修復すれば、使えるようになるはずだ!」
ヴェルフは驚愕を飲み込むと、壁面とホログラムを見比べて深く頷いた。
『配管が見えぬのは、古代の隠蔽魔法によって壁と同化・保護されているからだ。余の魔法で隠蔽魔法を解除してやろう。古代解呪ルーン【幻影開帳】』
フォォォン……!
ヴェルフが前脚を掲げると、岩壁の表面に幻想的な魔道回路の光の波紋が広がった。
すると、固い岩肌に見えていた壁の一部がすーっと透明に透け、その奥に眠っていた重厚な古代配管がそのまま姿を現した!
「すごいですニャーッ! 壁が透けてパイプがそのまま見えましたニャ!」
『フッ、余の古代魔法ならば造作もないことよ。レオ、四カ所の破損の修復には『耐熱接続パイプ』『圧力調整バルブ』『湯出し口パーツ』が必要になるぞ』
「よし! 必要なパーツと作業用の工具を俺が作るよ。」
回収しておいた『魔導鋼』、『酸液大トカゲの皮』を目の前に並べたレオへ、ヴェルフが話しかける。
『レオよ、古代の湯は高熱で魔力濃度も高い。耐熱性と耐圧性を限界まで高めた構造にせよ。ついでに、小柄なミニアが作業しやすいよう、万能締め付け工具と腰に巻く工具袋も同時に生成するのだ』
「分かった! ヴェルフの支持の通りに……クラフト、形状変化!」
フシューーーッ!
レオの手から放たれた青い光が素材を包み込み、形状・特性を変化させていく。
ヴェルフのアドバイス通りの耐圧構造を持つ「耐熱パイプ」、湯量を調整する「圧力調整バルブ」、風情ある「湯出し口パーツ」、そしてミニア用の「金属工具と特製工具袋」が次々と生み出されていった。
「よし、 道具もパーツも全部出来たぞ!」
「すごいですニャーッ! あたし専用のカッコいい工具袋ニャ!」
腰に工具袋を装備したミニアが、目を輝かせた。
西側の配管ルートは高い岩壁に沿って伸びており、高所作業が必要となる。
「ミニア、西側の壁沿いにある破損箇所のパーツ交換を頼めるか? 俺がホログラムで指示するから!」
「任せるニャ! 50メートルくらいなら一っ走りですニャ! 配管部品と工具を持っていくニャ!」
ミニアはレオから受け取った配管部品を袋に詰めると、まるで風のように岩壁を軽快に駆け上がった。
レオは、青い光のホログラムを配管に重ねるように投影し、ミニアに指示をだす。
「ミニア、投影したホログラムの赤い点滅の部分が配管が破損している箇所だ、新しい部品に交換してくれ。」
「了解ニャーッ!」
レオのホログラムのサポートにより、ミニアは迷うことなく目的の場所へ到達し、手際よく古くなったパイプを新しい部品に交換していく。
カチコンッ……! ガチリッ!
「ひとつ目、交換完了ニャー!」
「すごいぞミニア、その調子だ!」
高所作業をこなすミニアを追いかけ、仕上げに入ったのがヴェルフだ。
『ふむ、ミニアが直した箇所から順に、古代魔法で完全に密閉・補強し、再び隠蔽を施すとしよう。……古代ルーン【金剛・耐熱結界陣】! そして【隠蔽再構築】!』
ゴォォォン……!
ヴェルフが配管に魔力を流し込むと、漆黒と緋色の光がパイプ全体を包み込み、レオの金属パーツと古代配管が魔法の力で一体化! 補強が完了すると同時に配管は再び壁の奥へと美しく隠蔽されていく。
三人の息の合った連携により、50メートルの配管ラインはみるみるうちに修復されていった。
作業を開始してからわずか一時間足らず。
配管作業が終了し、温泉の配管はコテージに隣接する「岩場エリア」へと引き込まれる。
「あとは、仕切りを設置して、岩場を利用した温泉を溜める場所を施工するだけだ」
「コテージを作った時にあまった『木製のパネル板』を使って、露天風呂場を囲むように仕切りを設置しよう!」
レオがクラフトでパネルの端を加工し、コテージの壁から岩場を囲うようにパネル板を繋ぎ合わせていく。こうして、脱衣スペースを備えた「木で囲った露天風呂」が、コテージに隣接する形で完成したのだった。
「よし……これで湯を張る準備は整った! 源泉のメインバルブを開けるぞ!」
レオが西側の源泉近くに設置された巨大な自在レバーをぐっと押し倒した!
ガコンッ……!!
ゴゴゴゴゴ……ジャアアアーーッ!!
修復された配管内を清浄な温水が勢いよく駆け巡り、コテージ横の露天風呂場へと到達する。
次の瞬間、岩肌を伝って、湯気を立てた豊かな温泉がザーッと豪快に注ぎ出し、岩場の浴槽をなみなみと満たしていった!
上部から注ぐ温泉はまるで『湯の滝』のようであり、天井の発光鉱石の青い光と木の仕切りが相まって、幻想的な高級露天風呂が完成した。
「完成だ、 『天然露天風呂』!」
「すごいですニャ……! お家からそのまま入れる、最高のお風呂ができちゃいましたニャ!」
湯気の中から漂うマナの香りに、ミニアは目をキラキラと輝かせた。
「さあみんな! 工事の汗を流して温泉に入ろう!」
「はいニャーーッ!」
ミニアは木パネルで仕切られた脱衣所で素早く服を脱ぐと、一番乗りで露天風呂へと飛び込んだ!
ザプ〜〜〜ン……!
「んんあぁぁ〜〜〜〜っ……! あったかい……気持ちよすぎるニャ〜〜……!」
上部から滑り落ちる湯の滝が肩を心地よく叩き、ミニアの立ち耳がへにゃりと力無く垂れ下がる。
『おおっ、 体の芯まで熱が染み渡っていくぞ……! 昼間の作業で使った魔力が、一気に回復していくようだ!』
ヴェルフも体を湯に沈め、その圧倒的な効能に感嘆の声をあげた。
「ふぅ、朝から家を建てて、ベッドを作って、お風呂まで完成しちゃったな。最高の1日だった。」
レオも温泉に浸かり、伸びをして寛ぐ。
自分たちの計画通りの拠点を作り上げた達成感が、胸を深く満たしていく。
温泉でさっぱりと汗を流した後は、隣接する我が家へ。
「〜〜〜〜〜っ! お風呂上がりの身体に、このベッドは最高ですニャ……」
ポカポカの身体で特製ベッドへダイブしたミニアは、シルクのようなシーツに顔をうずめた瞬間、幸せそうな寝息を立て始めた。
「スー……スー……ニャ……」
「ミニア頑張ったからな、よほど疲れたんだな。もう寝てるよ。」
『ふむ……余も今日は心地よく眠れそうだ。おやすみ、レオ』
ヴェルフも満足そうに目を細め、隣のベッドで丸くなった。
「ああ、おやすみヴェルフ。(ありがとうクロニクル、計画通りの素晴らしい拠点になったよ)」
(《どういたしまして、今日は完璧なチームワークでしたね。ゆっくり休んでください》)
地下空間の静寂の中、自分たちの手で作り上げた我が家と温泉。
大満足の1日を終えたレオたちは、晩ご飯も忘れ、深い安らぎの中で心地よい眠りにつくのだった。




