地下通路の開通
古代遺跡の地下空間で、レオたちは円陣を組むようにして腰を下ろしていた。
「よし、これからここでみんなが安心して暮らしていくために、まずは何を整えていくべきか、みんなの意見や希望を聞かせてくれないか?
それらを叶えながら、少しずつみんなの理想の場所を作っていきたいんだ」
レオが優しくみんなの顔を見渡して問いかけると、ミニアが嬉しそうにぴんと耳を立てて身を乗り出した。
「あたしからは、やっぱり【温かい食事と安心して眠れる場所】が欲しいニャ!
荒野で怯えて逃げてきた人たちが、最初に入った瞬間に『生き延びられたんだ』って泣いて喜べるような、みんなで集まれる大きな食堂とふかふかのベッドがあったら
嬉しいですニャ!」
続いて、トコトコと歩み寄ってきたヴェルフが、翡翠の瞳を輝かせながら落ち着いた念話を響かせる。
『ふむ。生活の土台という意味では、余からは【防衛と水脈の保全】を提案したいな。地下の古代配管を生かせば、清浄な水の自動給水だけでなく、地熱を利用した『温水(温泉)』の湧出も可能だぞ』
「温泉ですニャ!? すごいですニャ、ヴェルフ様!」
「なるほど、二人ともありがとう。まずは生命を守る『水』と『防衛』、そして『食事』と『寝床』……生活基盤をしっかり固めるのが一番だな」
二人の意見を温かく受け止めながら、レオは意識を自分の頭の中へと集中させた。
(ねえクロニクル、二人からすごく良いアイデアが出たけど、システムや安全性の面から見て他に注意しておくべきことってあるかな?)
レオの思考に応え、脳内でだけ機械的でどこか透き通ったクロニクルの声が響く。
(《思考リンク完了。
レオ様、皆様の意見に加えて【情報開示のコントロール】を最優先課題として提案します。
王都や伯爵家は、レオ様を追放したのちも密偵を放つ可能性が高いです。
地上の第1拠点を急に無人にすると異変を察知されます》)
(うわ、確かに……!
王都のやつらが『レオが死んだか』って見に来るかもしれないもんな。
なら、地上拠点を『追放されて惨めに暮らしているフリ』をするための偽装として
残しておくのはどうだ?)
(《素晴らしい着眼点です、レオ様。
地上をカモフラージュ(偽装)とし、この地下を本拠地として秘匿発展させる二重構造を推奨します》)
脳内でのクロニクルとの数秒の作戦会議を終え、レオはハッと納得したように
ポンと手を打った。
「もう一つ大事なことを思いついたんだ。
地上には追放されてきてから作り上げた拠点があるんだ。
地上の拠点は、俺が細々と泥の家で食いつないでいるフリをする『偽装』としてそのまま残しておくのはどうだろう?」
「えっ? 偽装ですかニャ?」
「ああ。地上の建物を急に空っぽにしたら、王都からやってくるかもしれない密偵や監視役に怪しまれてしまう。だから表向きは『無能な追放者が見苦しくしがみついている』と思わせて油断させておいて、この地下に本物の『理想郷』をみんなで極秘に育てていくんだ」
それを聞いたヴェルフとミニアは、驚きで目を見開いた。
『……な、なんだと……!?
地上をまるごと囮にし、王都の目を欺きながら地下で理想郷を育むだと……!?』
ヴェルフは念話で戦慄の声を漏らし、深い感心を含んだ視線でレオを見つめた。
『くくく……恐ろしい男だ、レオ。
ただの優しさだけでなく、そこまで深く先を見据えた策を瞬時に巡らせるとはな。
余も全面的に賛同しよう』
「レオ様、凄すぎますニャーッ!
敵を騙して裏で最高の場所を作るなんて、すっごくワクワクしますニャ!」
(……ふふ、クロニクルのおかげで大絶賛されたよ)
(《……レオ様ご自身の決定による成果です。誇ってください》)
レオは頭の中の相棒と密かに笑い合い、まとめの言葉を口にした。
「それじゃあまずは地上の拠点とここを結ぶ『隠し地下連絡通路』を作って、あっちの物資を運び出そうか。それが終わったら、次は温かいご飯と寝床の確保かな?」
レオの言葉に二人が深く頷いたところで、連絡通路づくりが始まった。
「地上の拠点の床裏まで、一直線に穴を掘りたいのだが。
……ヴェルフ、頼めるか?」
『ふん、余に任せるがよい。この姿になろうとも、聖獣の力、見くびるなよ?』
大型犬サイズのヴェルフが前に躍り出ると、その口元に凄まじい密度の黒炎と瘴気が凝縮される。
ズバババババッ……!!
ヴェルフが放った高密度の瘴気ブレスが、硬質な岩盤を一瞬にして綺麗に穿ち、
奥へと続く長大な空洞をくり抜いていく。
「すごいですニャーッ! 一瞬で穴が開いたニャ!」
さらにミニアが壁に耳を当て、鼻をくんくんと鳴らす。
「レオ様! こっちの壁の奥、少し岩盤が脆くて崩れそうニャ!
あっちの風が流れてる方向へ少し迂回させたほうが安全ですニャ!」
「ナイス、ミニア!
(クロニクル、ミニアの言ったルートで補強と構造計算をお願いできるか?)」
(《了解。万能書庫の構造データから最適補強案を抽出。
レオ様、壁面に手をかざしエネルギーを注入してください。
土木補強プログラムを実行します》)
クロニクルの緻密な計算と【万能書庫】のデータを受け取り、レオがエネルギーを流し込む。
ヴェルフが開けた大穴の壁面が、落盤の心配がないトンネルへと補強されていく。
仕上げにヴェルフの古代結界とクロニクルの暗号認証魔法を重ね、誰にも見破れない【隠し地下連絡通路】が完成した。
「みんな、すごいよ! 全員の力で最高の通路ができた!」
「あたしたち、完璧なチームワークですニャ!」
『フフン、まあ余とミニア、そしてお主の連携あってこそだな』
開通したばかりの安全な通路を使い、レオたちは手分けして地上の資材を次々と運び込んでいった。
これまでに集めていた食材・素材・木材、そしてクラフトで製作した『高火力・無段階調整式魔導コンロ』などが、広大な地下空間へとスムーズに持ち込まれていく。
「荷運びも完了だ!
(クロニクル、運んだコンロを使って、まずは小さな簡易調理台を作れるか?)」
(《解。万能書庫より『簡易キッチン兼食卓セット』の設計データを展開。
構成を開始してください》)
レオがエネルギーを解き放つと、持ち込んだ素材と魔導コンロが組み合わさり、
4〜5人がゆったり囲めるテーブルと、魔導コンロがぴったり嵌まった調理台が形作られた。
「お腹も減ったことだし、まずは新拠点の完成を祝って食事にしよう!」
「やったー! ご飯ですニャーッ!」
地下の片隅にコンロの小さな温かい火が灯り、持ち込んだ食材の香ばしい匂いが立ち上る。
こうして、彼らの地下開拓は最高の第一歩を踏み出したのだった。




