古代遺跡の調査
契約を交わした直後、守護神ヴェルフは眩い青い光に包まれた。
『ふむ……余の主たる【魔導動力コア】もお主の手に渡り、
この場を巨大な体で護る必要もなくなったからな。
余もまた、お主たちと同じ目線で動くとしよう』
光が収まると、そこには大型犬(全高1メートルほど)ほどのサイズに身を縮めた
ヴェルフの姿があった。
漆黒のしなやかな毛並みや額の重厚な角、流れるような金と青の古代紋様、澄み渡る翡翠色の瞳はそのままに、どこか愛くるしさと威厳が同居した絶妙な姿である。
「うわああああっ!
ヴェルフ様、小さくなってもふもふ度がアップしましたニャーッ!」
「おいおいミニア、抱きつくな……! む、むぐっ……!」
可変したヴェルフのモフモフ感に耐えきれず、ミニアが速攻で抱きついた。
声や念話の重厚でダンディな響きはそのままなのが、なんとも言えないギャップを生み出している。
『こ、これ! 離れぬか無礼者め!
余はこれでも古の聖獣……む……まあ、悪くはない肌触りだが……ふんっ』
ヴェルフは耳をパタパタと動かして狼狽えつつも、居心地が良いのか諦めたように尾を地面に叩きつけた。
「はは、ヴェルフって意外と面倒見が良いんだな。
そのサイズなら狭い通路も一緒に行けるし、助かるよ」
『戯れ言を。余はただ、無駄な魔力消費を抑えているだけに過ぎん』
ツンと顔を背けるヴェルフの足元に従い、レオとミニア、そして小型化したヴェルフは古代遺構の奥深くへと足を踏み入れた。
天井や壁面には幾何学模様の魔導回路が走り、それらが淡い青色の光を放って暗い通路を明るく照らしている。
「ヴェルフ、この遺跡は昔、一体何のための場所だったんだ?」
レオの問いかけに、トコトコと前を歩く黒い聖獣が静かに念話を響かせる。
『うむ。ここは太古の昔、過酷な地上環境から逃れるために作られた
【自然循環型シェルター】だ。
我が主たちが去ってのち、余が長い年月コアを守り続けてきたが……
奥の空間は当時のまま封印されておる』
(《肯定。周囲の建造物構造より、極めて高度な魔導工学の痕跡を検知。
……ピピ。未探知の空間構造を補知しました》)
ミニアがハッとして足元を見つめる。
彼女の耳がピクピクと動き、鼻が小さくひくひくと蠢いた。
「レオ様、壁の隙間から、すごく綺麗で冷たい水の匂いと、爽やかな風の通り道を感じます!」
(《補足。ミニア個体の指摘ポイントの奥数メートル地点に、空間空洞および強力な隠蔽結界の反応を捕捉。
立体マップ上に更新展開します》)
ミニアの野生の直感と、クロニクルの構造解析。
二人の優れた能力が、一枚の壁に隠された仕掛けを見破ったのだった。
「ミニア、ナイスだ!」
( クロニクル、結界の解錠パターンを弾き出してくれ!)
(《了解。【万能書庫】の言語解析を実行——開錠コードを認識しました。
……構造体、開放します》)
ゴゴゴゴゴゴ……!
壁の装飾と思われていた石板が重厚な音を立ててスライドし、その奥から深遠なる闇へと続く『隠し階段』が姿を現した。
『まさか、結界の解錠までできるとは……』
ヴェルフは、レオの能力に驚かされるばかりであった。
「よし、慎重に行こう!」
ヴェルフがミニアの隣をトコトコと歩み、三人は螺旋階段を下っていく。
そして、階段を降り切った先で視界が一気に開けた瞬間、レオとミニアは息を呑んだ。
「うわぁぁぁぁ……っ!! なんですかここニャ……!!」
ミニアの感動の叫びが、広大な空間に心地よく反響する。
そこに広がっていたのは、地上の荒廃した景色からは想像もつかない
『超巨大な地下空間』だった。
ドーム状の広大な天井には、まるで夜空の星々のように『高純度の魔導鉱素』が無数に群生し、温かい光を空間全体に投げかけている。
中央にはクリスタルのように澄み渡った地下水脈がたゆたうように流れており、その周囲には広大な平地と豊かな黒土の土壌、豊かな森がどこまでも広がっていた。
「すごい……! ひとつの街が丸ごと収まるレベルだぞ……!」
『うむ。こここそが、かつて万の民が暮らした地下都市の基盤だ。
地上と遮断されているため毒気も届かず、気候も一年を通して一定に保たれておる』
「ここなら……ここなら、どんなにたくさんの仲間が増えても、みんなで安全に暮らせる……!」
レオは拳を握り締め、胸の奥から湧き上がる熱い感情を抑えきれなかった。
すると、頭の中でクロニクルのアナウンスが響いた。
(《……思考プログラムに軽微な変動を検出。
対象個体『ヴェルフ』および『ミニア』の生体反応と、レオ様のビジョンが
高度に同期している現象を認知しました。
……『安心』『希望』という感情概念の照合を完了します》)
(ん? どうしたクロニクル?)
(《……いいえ。
レオ様の『理想郷』構築プランにおいて、効率性以外の『安らぎ数値』が大幅に上昇したと報告します。
システムは、この環境獲得を極めて肯定的に評価します》)
どこか少しだけ柔らかくなったクロニクルの声に、レオはニッコリと微笑んだ。
「よし! 最高の地下空間が見つかった。
この場所を、俺たちの本当の『理想郷』にしていくのはどうだろうか?」
「はいニャ、レオ様!」
『ふん……お主の好きにするがよい』
光り輝く地下大空間の中心で、レオたちは新たな未来を描くための作戦会議を開くのだった。




