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第七話 伝統のブランドプロテクション、ニッチ戦略で対抗します。


 ――アルバ・グレイズ


 俺はアルバ・グレイズに着いて三件ほどの店を回った。

 そこで得た情報をリスト化しておこう。


 ・白土の上質な粘土が取れる

 ・アルバ粘土としてブランドが確立している

 ・陶芸品は白土の特徴を最大限活かした、釉薬で華やかな模様が描かれた製品が主流

 ・販売価格はお手頃

 ・近隣の街への行商がメイン


 粘土そのものがブランド化しているなら、俺の持ち込んだ土を購入してくれる可能性は低いだろう。

 行商に関してもギルドが管理しており、入れる隙はなさそうだ。


 「佐藤はん、あんた藁と道具買うって言ってへんかったか」


 白狐専務が頭の上でぼやく。


 「えぇ、しかし、物を買うには金銭が必要になります。私は『円』しか持ち合わせがありませんので、まず資金調達が必須です」

 

 「えん?ってなんや」


 「白狐専務は知らなくていいことです」


 「説明がめんどくさくなっただけやろ!!」


 俺の頭を小さな手で何度も叩く。

 小さくてふわふわの手は痛いどころか気持ちいいまである。

 できればもう少し右を叩いてくれないだろうか。


 「で?あんたはどこに向かって歩いとるんや?」


 「そうですね。せっかく土を持ってきたのでギルドで扱っていただけないか聞いてみようかと思います」


 繁華街を出ると、工房が点々と白い煙を上げている。

 少し遠回りをしてみようか。

 商人とは違う視点で話が聞けるかもしれない。

 それになんだか、こっちから『金』の匂いもする。


 往々にして『商人』と『技術者』とは真っ向から意見が対立するものである。

 そして大体の場合、両者の話を聞く方が高利益を残せる。


 工房を覗き込みながら、人がいないか注意深く歩く。

 軒先や窓辺に置かれた、食器や壺が工房を彩り静寂すら華やかに感じさせた。

 やはりどれも鮮やかな色合いの模様が美しく描かれている。


 その時、遠くから陶器の割れる激しい音が響いた。


 まるで投げつけたような衝撃音だ。

 俺はすかさず音のした方へと歩みを進める。


 高い塀を過ぎるとすぐ右手に皿を頭上に振り上げた女性が一人。

 足元には複数の粉々に割れた皿の破片が飛び散っている。


 女性は再び手に持った皿を地面に叩きつけようとしていた。

 俺はとっさに頭上の白狐専務の尻尾を掴み、投げる。

 皿が地面に着く寸前、白狐専務が口で皿をキャッチした。


 「お見事です。専務!」


 俺は拍手を送りながら優雅に近づく。


 「なにすんねん!お前ホンマ正気か?!」


 本当に表情豊かなぬいぐるみである。

 俺は専務のすぐそばに置かれた真っ白な皿を拾い上げる。


 皿は五枚ほど重なっていた。

 どの皿も寸分の狂いもなく同じ形状をしている。

 これはなかなか……


 「あんた誰?この辺じゃ見ない格好だけど……」


 女性は陶器職人の服を着て、指先に土汚れを残している。

 問われれば答えなくてはならないだろう。

 俺は懐から名刺ケースを取り出し、恭しく差し出す。


 「初めまして、わたくし○○医療機器株式会社の営業を担当しております。佐藤健一と申します。どうぞお見知りおきください」


 「はぁ?医療……なに?」


 女性は困惑しながらも即座に名刺を手に取った。

 

 「こちらのお皿、拝見してもよろしいでしょうか」


 「えっ、えぇ、かまわないけれど……」


 女性からの許可も出たので、再び皿を拾い上げる。

 薄く繊細でありながら、華美ではない。

 白い釉薬でムラなく焼かれた、皿の縁に入る花のレリーフはリアルで美しい。

 重ねられた皿は一寸の狂いもなく、まるで工業製品のように正確だ。


 華やかなアルバ食器は確かに魅力的であるが、絵付けにこそ力を入れており、どの皿も分厚く不揃いだった。

 それに比べてこれはどうだろうか。

 限界まで薄く作られた皿からは、品格すら感じさせる。

 一級品と言えるだろう。


「相当こだわられているとお見受けします。割ってしまうのは、もったいないと思うのですが、どこか気に入らないところでもありますか」


 俺は立ち上がり女性に向き直る。

 素人の俺にはとても欠点があるとは思えないが、プロだからこそ感じる何かがあるのかもしれない。

 女性は言いづらそうに強く自分の右腕を掴む。

 わずかに指先が震えていた。

 

 「売れないのよ、その皿……」


 「売れない?」


 女性の言葉に俺はすぐ近くの棚へと視線を向ける。

 皿は高く積み上げられ、棚が傾くほどびっしりと詰まっていた。


 「この街の食器を見たでしょう。「これはアルバ食器じゃない。アルバの名前では売り出せない」ってバカみたいでしょ」


 ふむ、なるほど。

 理不尽に聞こえるかもしれないが、その商人の指摘は適切である。

 これは『ブランドプロテクション』、ブランドイメージを守る基本的な戦略だ。

 もし、Louis Vuittonがブランドロゴを無くしてしまったら、それはもうLouis Vuittonではないのだ。


 「では『アルバ食器』として売り出さなければいいのです」


 女性は目を瞬いた。

 もしかしたらそんなこと考えたことも無いのかもしれない。

 

「なにもわかってないのね。『アルバ食器』の名前が付かないんじゃ売り上げは天と地ほど差が出るわ」


 確かにそう言うことは多々ある。

 しかし、この出来であれば……


 俺はニヤリと笑う。


 「もしよければ、こちらの皿十枚ほどお借りできないでしょうか」


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